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薔薇の死神  作者: 族猫
32/64

31.海上の龍


「これで半分かしら?」


 あれから俺達は倉庫にあった鉄を外へと運び出し、今ようやく半分が出し終わったところだった。


「それにしてもなかなかの量ね。30分はたったかしら?」

「魔法少女とはいえ手作業だものね‥‥タイタンの能力を使えば一瞬だけど、流石に屋内で使うのは怖すぎるし‥‥」


 俺とグレイシアがそんな会話をしている間もタイタンは自分の何倍もあるような鉄の塊を両手にそれぞれ持って運び続けている。


「タイタンが頑張ってるのに私達がゆっくりしてるわけにはいかないわね」

「ええ、私は特にね」


 そう言って二人で顔を合わせて笑みを浮かべた。そして作業の続きに入ろうとした時、後ろから足音が聞こえた。


「お、おい‥‥‥こいつは一体何事だ?」


 その声に俺達は一斉に振り向いた。そしてそんな俺達の目線の先に立っていたのはついさっき出会った田澤さんだった。


「そっちにいるのは、さっき凍華と一緒にいた復音さん‥‥‥だよな?そしてテレビやらで見た事ある魔法少女が三人‥‥‥まさか、凍華‥‥なのか?そしてもう二人もさっき会った‥‥」


 一瞬、時が止まったような感覚に陥っる。恐る恐るグレイシアの方を見ると、グレイシアの顔は青を通り越して真っ白になっていた。


「えっと‥‥‥その‥‥」


 グレイシアは何とか誤魔化す言葉を考えているのだろうが思い浮かばないのだろう。なんせ「倉庫にある鉄がほしい」と言った直後に魔法少女三人が倉庫で鉄を運び出していて、ついさっき挨拶した男が一緒にいるのだからグレイシアが凍華と断定できる要素しかない。まさに詰んでいる。


「豊和さん‥‥もう隠せないから正直に言うけれど、私が凍華で間違いないわ‥‥‥でもお願い!他の人には言わないで!」

「はぁ‥‥‥叔母さんが、「凍華が夜によく出歩く」って愚痴ってたが、そういう事か‥‥‥安心しろ、誰にも言わねぇよ。ってか言えるわけねぇよ‥‥特にお前の両親にはな」


 その言葉にグレイシアは「ホッ」と安堵したように見えた。しかし「ただし」という田澤さんの一言でまた強張った。


「誰にも言わない代わりに、お前達がこれから何をしようとしているのかを教えてくれ。あと政府は今回の件を静観するはずなのになぜ魔法少女がもう二人いるのかってのも含めてな」

「それについては私からお話しましょう」


 田澤さんの言葉にどうしたもんかと悩む俺達三人の代わりにゼルが事の次第と、これから俺達がしようとしていることを全て話した。


「なるほどな‥‥なら、俺が連れて行ってやるよ」

「「「え!?」」」


 全てを聞き終えた田澤さんの一言に、ゼル以外の三人は一斉に驚きの声を上げる。特に凍華に関しては物凄い表情をしている。


「と、豊和さん!?あなた何言ってるのか分かっているの!?」

「当たり前だろ」

「じゃあ、何でそんなことを!?」

「ん?だって話を聞けば、そこのタイタンちゃんが戦闘に参加できれば確実に生き残れるんだろ?だったら俺が船を操縦すれば万事解決じゃねぇか」

「いや、そういう事ではなくて‥‥」

「ねえ、ゼルからも何か言ってよ」


 俺がそう言うと、タイタンも大きく頷く。しかし、ゼルの口から出た言葉は全く予想外のものだった。


「ふむ‥‥私は賛成かな」

「「「はあ!?」」」

「ちょっと!?なんで賛成なの!?」


 俺がそう詰め寄ると、ゼルは「いいかい?」と言ってから説明を始めた。


「まず、田澤さんが言われた通りタイタンが戦闘に参加出来るのは我々としては大きなメリットになる。そして君達が考える彼の身の安全だが、その部分も問題ないだろう」

「どういう事よ」

「そもそも、彼が船に乗っている以上今までとリスクは一切変わっていないじゃないか。元々船は守らなければならないんだからね」


 言われてみればそうだ。元々船を守らなければならないのは同じなら単純にタイタンという戦力が増えただけと言うことになる。俺達はそう考えて冷静になった。


「えっと‥‥豊和さんは本当にいいのね?」

「おう!子供達が命張ってんのに大人が黙って見てるわけにはいかねぇからな!それじゃあ早速行くか!今なら他の連中も捜索に夢中で俺達が沖に向かってもそんな気にせんだろ」

「えぇ‥‥ま、まあいいのかしら?えっと‥‥それじゃあこの鉄はどうしよう?」

「ん?ああ‥‥別にそのままでいいだろ。この倉庫には誰も来ないだろうから、邪魔にはならんだろうしな」


 それから全員で田澤さんの船に向かった。



「予備燃料よし。救命ボートよし。救命胴衣よし。発煙筒よし。これで何とかなりそうだな‥‥‥よし、待たせて悪かった。準備が出来たからいつでも出れるぞ」


 田澤さんは一通り準備した物を確認して俺達に声をかけた。


「よし!みんな用意はいいかしら?」

「ええ」

「お〜」


 俺の言葉に二人はそれぞれ返事をし、それを見ていた田澤さんは大きく頷いた。


「んじゃ、そこのロープを外してくれ。出航するぞ」


 田澤さんの合図と共に船はゆっくりと陸を離れていく。そして目的地につくまで束の間の休憩を取ることとなった。


「さてさて‥‥‥一体どんな奴が待っているのやら」

 俺の横に座ったゼルは、俺に聞こえるかどうかの声で呟いた。


「とは言っても、あなたの中で多少なりとも候補はいるんでしょ?」

「まあ‥‥ね。ただ‥‥もし私の予想が当たっていれば、我々にとって過去最悪の相手となるだろう」


 何とも意味深な言い方をしたゼルは、険しい表情のままそれ以上何も言う事はなかった。



「あともう少しで例の場所だ!用意してくれ!」


 あれから暫く船に乗っていると、田澤さんが大声で叫び、その声で俺達三人はそれぞれ変身して警戒する。


「いいかい?「いのちだいじに」だ。無理だと思ったら直ぐに撤退するんだよ?」

「「「了解!」」」


 ゼルの言葉に俺達が返事をした直後、前方から巨大な津波が現れ、船を飲み込もうと迫ってくる。するとグレイシアが津波に向かって刀を構えた。


覇水煌断剣はすいこうだんけん!!!』


 振り下ろしたグレイシアの刀から発せられた斬撃が見事に大津波を斬り裂いた。そして斬られた事で勢いを失った波は左右へとゆっくり消えていく。


「‥‥‥‥‥‥‥」


 一時の静寂。誰もが緊張しながら辺りを見る。しかし、その視界にはただ平穏な水面以外に何も映っていない。


「ッ!?真下にいる!!!」


 グレイシアが波の音の一瞬の違和感に気づきそう叫ぶ。すると真下から謎の光線のような物が船の左側すれすれを上に向かって通過した。


「みんな!!振り落とされるなよ!!」


田澤さんがそう叫びながらアクセルを吹かして舵を切る。すると先程いた場所から巨大な龍の口が出現し、その規格外ほどの大きな姿を見せた。


「で、でけぇ‥‥‥‥」


 田澤さんのそんな呟きが聞こえる。恐らく、今ここにいる全員が同じ感想を持っていることだろう。


『グルァァァァァァァァァ!!!!』


 龍が耳鳴りがするような甲高い咆哮を上げる。すると突如龍の周りに巨大な水の柱が何本も出現し、龍の周りを回り始める。そして龍が大きく口を開くとその口から先程もみた巨大な光線のような物が発射された。


『全て凍るがいい!!氷皇滅尽衝ひょうこうめつじんしょう!!』


 グレイシアがそう叫ぶ。すると手に持っていた刀の柄の部分が伸びて、薙刀に姿を変えた。そしてその薙刀を高速で回転させて凍てつくほどの冷気を周囲に放つ。


火炎障壁フレイム・ウォール!!』


 俺もグレイシアに続き自分たちの周りに炎の壁を展開する。すると敵の光線はグレイシアの技で一瞬だけ凍りはしたものの簡単に砕かれてしまい炎の壁を直撃する。


(な、何て威力なの!?こんなの耐えられない!!)


 グレイシアの技で多少なりとも威力が落ちていたからこそ受け止められたとはいえ、それも長くは持たない。俺が全魔力を込めて壁を強化するものの、炎の壁はミシミシと音を立て、ついに砕け散った。


黒鉄の壁アイゼン・ヴァント


 俺の壁が砕ける瞬間にタイタンが鉄の壁を展開した事で、何とか防ぐ事が出来た。しかし、もう一撃は耐えられないだろう。


「攻撃しようにも、周りの水の柱が邪魔で攻撃が出来ない‥‥‥一体どうすれば‥‥‥」

「いや、もう十分だ。撤退しよう」

「え?」


 突如後ろからゼルに声をかけられ、俺達三人は一瞬固まる。


「相手の正体がわかった。正直、君達では万の一つも勝ち目がない相手だ。と言う訳で田澤さん、帰還しましょう」

「あ、ああ‥‥分かった」


 田澤さんはそう言って陸の方へと舵を切った。



 あの後、敵の猛攻をしのぎながら船を走らせていると気づけば敵の姿はなくなっていた。俺達はその瞬間全身から力が抜けたようにその場に座り込でしまった。


「三人ともよく頑張ったね」

「な、なんとか‥‥ところで敵の正体が分かったって言ってたけど‥‥‥」

「ああ、私が想像していた最悪の相手だったよ‥‥‥」


 ゼルはそこまで言うと、一度息を吸って口を開いた。


「あれは正真正銘、本物の神だ」

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