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薔薇の死神  作者: 族猫
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27.奇跡の写真

「復音!これを見てくれ!」

「お、おう‥‥どうした?」


 教室に足を踏み入れると同時に聞こえた声に俺は驚いてその場で固まった。


「実はとある写真を手に入れたんだ!これは凄いぞ!」


 興奮気味にそう言うオタクは、数枚の写真を俺の前に突き出した。それと同時にクラスの連中も俺達の周りに集まり始める。


「お?またオタクが面白いもの持ってきたみたいだぞ?」

「へ〜面白そう!私も見た〜い」


 周りに人が集まるにつれて騒ぎが大きくなる。そんな周囲の連中をオタクは「まあまあ」と言って落ち着かせた。


「これは魔法少女か?」


 俺がそう尋ねると、オタクは目を輝かせて語り始めた。 


「その通り!星降る北の大地を守護する女神クール・グレイシア!通称『コキュートス・レイディ』!着物のような衣装で刀を振るう姿が美しく、この凛とした表情が格好いいから男性だけじゃなくて女性にも人気が高いんだ!しかも、この刀は薙刀にもなるんだぜ?」

(何と言う見事な早口‥‥流石はオタクだ。それにしてもこの写真はまさか‥‥‥)


 俺はとある写真を眺めてあることに気づき、目を凝らして見てみる。しかしその間もオタクの早口は止まることはない。


「因みにこの異名にもちゃんと理由があって、コキュートスは『氷獄』という意味で使われることが多いんだけど、本来の意味は『嘆きの川』という意味の言葉なんだ。だから水と氷の両方を操るグレイシアにはピッタリと言うわけさ!」

(なるほど、水と氷二つの側面を表してるのか‥‥これまたよく考えられた名前だな)

「ところで、この写真は海の上で撮ったのか?」


 俺は先程から見ていた一枚の写真を手に取ってオタクに見せると、オタクは「ああ」と言って説明を始めた。


「つい最近、秋田で異変があっただろ?その時に政府主導の元で秘密裏に調査が行われたらしいんだけど、その時に現れた謎の魔物とグレイシアが戦っている写真だね。ただ、波の中にいるせいか魔物の姿は良く見えないんだけど何となく‥‥‥」

「龍に見える」


 事前にグレイシアから敵の姿に関して聞いてはいたが、この写真を見る限り想像の何倍も大きく感じる。


「そう!龍に見えて格好いいだろ?だから俺達の間でも中々評判が良いんだ」


 それにしても中々綺麗に撮れている。だが、良くもまあこんな場面でカメラなんて構えられるものだと考えていると、クラスメイトの一人が口を開いた。


「なあ、これって作戦に参加した奴が撮ったんだろうけど、こんな重要な写真を簡単に流出しちまっていいのか?」


 何ともごもっともな意見だ。確かにこの作戦は秘密裏に行われたとオタクは言っていた。それならこれが世に出回るのは不味いのではなかろうか。


「っと思うだろ?実はこれを撮ったのは、ただの一般人なんだ」

「ん?秘密作戦なのに、一般の人間も参加してたのか?」

「いや、偶然その辺の海を漂ってたんだよ」

「「「は?」」」


 オタクの一言に、俺を含めたその場にいる連中が一斉に唖然とした表情を浮かべた。なんせ「船に紛れ込んでいた」ではなく、「海を漂っていた」と言ったのだからそんな反応にもなる。


「この写真を撮った人は、俺達の間でも神として崇められる位の人でね。生まれつき運が悪くて、あらゆる事件に巻き込まれることで有名な人なんだ。それがある日からその不幸体質を利用して魔法少女のとんでもない写真を撮るようになったらしい。確かこの日も青森沖で釣りをしてた時に大きな波に巻き込まれて気づいたら目の前に魔法少女がいたんだってさ」


 波に巻き込まれて無事なのも凄いが、魔法少女の戦いに巻き込まれて無事なのも凄い。ある意味強運の持ち主なのではないかと思う。


(青森からってどんだけ流されたんだよ‥‥魔法少女マニア恐るべし‥‥)

「ま、まあそれは置いといて‥‥なあ、その写真一枚譲ってくれないか?」

「勿論さ!データはあるからいくらでも現像出来るしね」


 オタクはそう言ってその一枚の写真を俺に譲ってくれた。


「恩に着るぜ!ありがとうな!」

「お、おう‥‥そこまで感謝されると、反応に困るな‥‥ま、まあまた何か面白い写真なんかが入ったら譲ってやるよ」


 流石はオタクだ!敵の正体どころが殆どの情報がない現状で、姿や大きさだけでも想像できるのはかなり大きい。帰ったらゼルにも見せるべきだろう。


「お〜いホームルーム始めるから座れ〜」


 先生の声が教室に響くと、集まっていたクラスメイト達は一斉に席に戻っていった。



「ねぇ、今週末は何か予定あるの?」


 昼休みになり俺達が集まって昼食をとっていると、春海の話をして以降俺と幸樹に混ざって集まるようになった永瀬が俺達に聞いてきた。


「俺は普段構ってやれない分妹に構ってやらないとな」

「ほほう、ちゃんとお兄ちゃんしてるんだ」

「おう!やっぱり妹は可愛いからな!」


 幸樹がそう答えると、永瀬は俺の方に視線を向ける。


「俺は家族で旅行だな」

「家族って事は、春海ちゃんも?」

「ああ、あいつの実家に行くんだよ」

「春海ちゃんって?」


 俺達が話していると、幸樹が不思議そうに聞いてきた。


(そういえば、幸樹は春海の存在をしらなかったな)

「復音君の親戚の子‥‥だよね?とっても可愛い子なんだ!」

「ああ、事情があって一時的に家にいるんだよ」

「へ〜俺も会ってみたいな」

「ま、機会があれば紹介してやるよ。機会があればな」

「絶対だかんな〜」


 そんな他愛のない話をして昼休みを過ごす。これが俺の数少ない癒やしだ。


「あ、そうだ!復音君、今度久し振りにダンジェネ対戦しようよ!」

「おう、別にいいぞ?でもダンジェネなんて久し振りにやるから手加減してくれよ?」


 こっちの体ではやってないから嘘は言っていない。


(ん?さっき永瀬は「久し振りに」って言ったような‥‥‥聞き間違いか?)

「しょうがないな〜」

「なら、俺も一緒に行くぜ!話聞いてたら、久し振りにやりたくなってきた!」

「へぇ、お前ダンジェネやってたのか」

「おう、こう見えても俺は中学のころにショッピングモールの店舗ランキング3位まで行ったんだぜ?けど、同率一位の『ナガネギ』と『フクフク』って奴らが抜けなくてなぁ‥‥もし対戦することがあれば絶対に勝つ!ところで、お前ら最後にやった時はスコアどんぐらいだったんだ?」

(そういえば、永瀬と前に対戦したときもすごい腕前だったな)


 俺はその話を聞いてゆっくりと永瀬の方に目線を送ると、なんとも言えない表情を浮かべていた。その為、俺はすべてを察してしまった。


(ああ‥‥そういえば、永瀬ってとあるオンラインゲームの名前を『ナガネギ』にしてたような‥‥‥まさか、ダンジェネでも同じ名前にしてるとは‥‥)

「ん?どうかしたのか?」

「良かったな幸樹。お前の倒すべき相手が目の前にいるぞ」

「???」


 なおも不思議そうな表情を浮かべている幸樹に俺は真実を告げる。


「『ナガネギ』って永瀬のプレイヤー名だろ?」

「は?」


 俺の言葉に幸樹は口を開けたまま固まり、永瀬は微妙な表情のまま頷く。


「そういう復音君こそ『フクフク』ってあなたでしょ?」


 その瞬間、俺の中のときが止まった。


(まさかバレたのか?いや、あの時はちゃんと新規のアカでやってたはずだ‥‥)

 恐る恐る永瀬の方を向くと、なぜが不思議そうな顔をされた。

「どうかしたの?」

「いや、なんでお前知ってんの‥‥‥?」

「え?だって中学の時に一緒にやった事あるじゃない」

「いやいや、俺の記憶だとお前と一緒に行った記憶が無いんだが‥‥‥」


 俺の言葉に、少しの間首を傾げていた永瀬は、突然「ああ‥‥」と何かに気づいたように言った。


「もしかして気づいてなかったんだ?」


 そう言うと永瀬はおもむろに鞄から取り出した眼鏡を掛けて、髪を三つ編みにして「ほら」と言ってきた。


「うそ‥‥だろ?」


 俺はその姿に見覚えがあった。というかありすぎる。俺は基本的に相手に関心がないため、相手のプレイヤー名を見ることはなかったのと、この永瀬が普段の永瀬とイメージが違いすぎるため一切気づかなかった。


「やっぱり気づいてなかったんだね‥‥一応声をかけようとしたけど、復音君ってば毎回ゲームが終わったと同時にいなくなるんだもん」

「おいおい‥‥だったら次の日とかに言ってくれればいいのに‥‥」

「だって、私は気づいてるものだと思ってたし」


 俺と永瀬が話していると、横から呪詛のような声が聞こえてくる。


「お、お前ら‥‥‥」


 その声に顔を向けると、何とか正気に戻った幸樹が不穏な雰囲気を出しながら声をかけてきた。


「ど、どうした幸樹?」

「どうしたもこうしたもあるか!お前何で黙っていやがったんだ!」

「いや、別に自分から言うことではないし、しばらくやってないから腕も落ちてるし‥‥‥ってかお前がダンジェネやってること自体今初めて知ったし……」

「うるせぇ!俺と勝負しろぉぉぉぉぉ!!!!」


 幸樹の叫びが学校に響きわたり、その放課後にショッピングモールに強制連行されそうになったものの何とか開放してもらえた。

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