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薔薇の死神  作者: 族猫
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26.深まる謎

「許可を出した私が言うのもあれどけど……今回の件、本当によかったのかい?」


 通話を終えた俺にゼルはそう声をかけてきた。


「ああ、助けを求める人間を見捨てる事が俺にできると思うか?」

「まあ、それはそうだが……少し無理をしていないかと思ってね……」

「無理をして人を救えるんなら安いもんだろ」


 俺の答えに、ゼルは何も言わない。しかしその表情はどこか悲しそうに見えた。


「そんな事より、グレイシアの言っていた魔物についてどう思う?」

「そうだねぇ……話を聞いてから、私はその魔物について少し引っかかっていてね」


 そう言うゼルの顔は今まで以上に険しく、深く何かを考え込んでいるように見える。


「引っかかるってどういうことだ?」

「正直突拍子もない話しなうえ、確証もないんだが……それは魔物ではないかもしれない」

「魔物じゃない……」


 ゼルの言葉に俺は息を呑んだ。だが、冷静に考えてあることに気がついて納得する。


「そうか……もしそれだけの強さを持った魔物が突然この世界に現れれば、この世界の魔素の流れに乱れが出て日本政府や他の国のレーダーに引っかかるはず……でも実際に被害が出るまで誰も気が付かなかった……」


 俺の言葉にゼルは大きく頷いた。そしてその続きを話し始めた。


「ああ、つまり例の敵は扉を通ってこの世界に来たのではなく、この世界で時間をかけて生み出された可能性が高い。だが、これにも問題がある。それは……」

「この世界は魔素が薄いから、基本的に弱い魔物しか生まれず、強力な魔物が自然発生するには莫大な年月がかかる……」

「その通り。それにそれだけ長く魔素を集めているなら、私やザシエルは魔素の流れに違和感を感じて気づくだろう。だからこそ魔物ではない可能性があるというわけさ」


 確かにゼルの話を聞けば納得はできる。だが、そうなれば俺達が戦おうとしている敵は一体何なのかという話になる。


「じゃあ、今回グレイシアが戦った敵って……」

「詳しくはわからない……明日の朝、ザシエルが来る予定になっているから、今日はもう休んで明日の報告を聞いてから改めて考えるとしよう」


 何もわからない以上このまま話しても意味がないと分かった俺は、ゼルの言葉に同意して今日は休むことにした。



「……ふぅ、うまい」


 翌日、まだ辺りが暗い頃に我が家……というより俺の部屋にやってきたザシエルがアイスティーをストローで器用に飲んでそう言った。


「くちばしで器用に飲むもんだな」

「ん?慣れればどうってことはないさ。どうだ?俺と契約してお前も鳥にならないか?」

「遠慮しとく……」

「そいつは残念だ……鳥も案外悪くないんだがなぁ………」


 そう言ってザシエルは大袈裟に落ち込んで見せる。正直、ゼルもそうだがコイツはどこまで本気なのか分からない。


「やあ、またせたね」


 店の用意を終わらせたゼルが部屋に入ってくると、先程までの雰囲気とは違いザシエルは真面目な感じで口を開いた。


「今回俺は氷の嬢ちゃんが言っていた存在を確認するために、噂の場所を見に行ってみた。すると突然海中から攻撃を受け、なんとか接近を試みたが無理だった。そのため敵の姿を直接拝むことは出来なかったが、その圧倒的な存在感は全身に伝わってきたぜ」


 ザシエルはそのまで言うと、一旦飲み物で口を潤してからまた続けた。


「それで、ここからが本題だが………そいつから魔物の気配を殆ど感じなかった。だが、あれだけの魔物から気配をほとんど感じないなんて事は正直信じられん。やはりブナゼルの言っていた通り魔物ではないと考えるのが現実的だろうな」


 ゼルとザシエルの二人がそう言うという事は恐らくそうなのかもしれないが、そうなると結局その正体は何なのかという疑問にたどり着く。


「なあ、ザシエルはこの存在について何か心当たりとかないのか?」

「残念だが無いな……だが、秋田県全体で妙な気が漂ってるように感じた。もしかすれば、俺達が思っている以上にやばいことが起きてるのかもな」

「そうか……やはり直接見てみないと何も分からないか……」


 結局はそういう事になる。なら、俺達がするべき事は一つしかない。


「なら、早く秋田に行こう」


 俺がそう言うと、ゼルが手で制してきた。


「落ち着きたまえ。色々と準備があるから直ぐには行けない。それに学校の事もあるだろう?」

「そ、そうか……変に休めば怪しまれるもんな……」

「ああ、だから行くとすれば今週末だね。丁度三連休があるから、戦闘するしないは別にして偵察目的で一度向かおう。とりあえずそういう予定でタイタンやグレイシアには伝えておいておくれ」

「分かった」


 俺は直ぐに二人にRainを送るためスマホを手に取った。恐らくまだ二人は起きていないだろうが、送り

させしてしまえば二人もそのうち見るだろう。


「さて、俺もそろそろ行くとするかね」

「次はどこへ向かうんだい?」

「中国だ。とある御仁が日本の現状に深い興味を示しておられるのでな」


 そう言ってザシエルは大きな溜め息をついた。ザシエルの反応的にそのとある御仁というのは恐らく『アレ』の事だろう。


「アイツか……これまた何でこっちに興味を?」

「さてねぇ……アレも何を考えてるかよく分からんからなぁ‥‥まあ、何か分かれば教えるさ。それじゃあな!」


 ザシエルはそこまで言うと窓から勢い良く飛び立ち、朝の日差しの中へと消えていった。


「さて、朝食の用意をするから君は顔を洗ってくるといい」

「ああ、分かった。でも‥‥‥」

「まだ早い時間だからといって二度寝は駄目だからね。君の場合二度寝したら起きないだろ?」


 俺が言う前に釘を刺されてしまった。まあ、確かに俺は朝があまり得意ではない為二度寝すれば起きる自信はないが、だとしても起きるにはまだ早い時間だし‥‥と、思いはするが諦めて起きる事にした。ここで寝れば後で何を言われるかわかったものではない。



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