表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇の死神  作者: 族猫
26/64

25.波に潜む怪物

「本日はよろしくお願いします」


 私がそう挨拶すると、海上保安庁の隊員達が一斉に敬礼してくる。そしてその中の一人が私の前に進み出てきて挨拶をしてきた。


「貴殿がクール・グレイシア殿ですね。私は本作戦の指揮を任されている織田勝真おだかつまさと申します。さっそくではありますが、作戦の概要についてご説明いたしますのでこちらへどうぞ」


 そう言って織田さんは今回の巡視船の中で最も大きな船のブリッジに私を案内した。


「まず、こちらをご覧ください。これが先日、撮られた映像になります」


 そう言って見せられた映像には、巨大な津波を私が斬り裂いている姿が映っていた。


「グレイシア殿が、波を斬る直前に妙なものが映っておりまして」


 織田さんがそう言いながら映像を巻き戻して私が斬る直前で止めると、そこには何やら長い物体が映っていた。


「映像では影のような姿しか映っていないため断定はできませんが、今回の被害者の証言から恐らくこの物体がその龍の可能性が高いでしょう。今回の作戦はその正体を暴くことにあります。正体が分かれば対策もとれるかもしれないとの判断です」

「なるほど、では今回は無理な戦闘は行う必要はないと言うことですね?」

「はい、今回はあくまで調査ですので危険と判断すれば即座に撤退します」

「分かりました」


 こうして話し合いが終わった後、私は船内で少し休ませてもらう事になった。



「もう間もなくで目標地点です!」


 その言葉に、私は甲板に出て何時でも出撃できるように神経を研ぎ澄ませる。辺りは既に日が落ちて船団の明かりだけが周囲を照らしていた。


「レーダーに反応あり!来ます!」


 その言葉と共に船が激しく揺れ始め、目の前に巨大な津波が姿を表した。


(前回波を斬ったとき、手応えはあったものの本体はいなかった。ならどこに居る?)


 私は襲い来る波を睨みながら必死に気配を探る。すると一瞬だけとてつもない程の気配を波のすぐ真下から感じた。


「見つけた!」


 私は全神経を刀に集中させ、迫る波を一点に見つめる。


覇水煌断剣はすいこうだんけん!!』


 私の一撃で海が大きく裂け、波の下に隠れていた存在が姿を表した。


『グルァァァァァァァァァァ!!!!』


 頭が割れるほどの咆哮と共に姿を表したそれは、御伽噺などでよく見る龍の姿そのままであった。そしてあまりの巨大さに私は息を呑む。


(なんなの……この威圧感……あの瞳に睨まれただけで動けない!)


 己の本能がこの存在には勝てない、この存在はそこら辺の魔物とは訳が違うのだと言っている。そして直感が言っている。戦えば死ぬと。


「に……に、逃げてぇぇぇぇぇッ…!」


 私は必死に叫んだ。それが聞こえていたのかどうかはわからないが、海上保安庁の船が一斉に逃げ始めているのが見える。すると突如私の横を巨大な光線が通り過ぎ、その船団を襲った。


(守らないとッ…!あの人達をッ…!)

護甲氷壁(ごこうひょうへき)!!』


 船団を守るために巨大な氷の壁を幾重にも重ねて展開する。しかし、その絶大な力の前では強固な氷の壁も意味をなさない。


(ッ…‥!どうすればッ…!)


 私にできる事は、とにかく壁を作って逃げることだけ。もはや後ろを振り返る余裕すらない。


(このままではどっちにしろ全滅する……それならあえてやつに突撃してみんなが逃げる時間を稼ぐべきか……最悪私一人の犠牲で……)


 私はそこまで考えて、後ろを振り返った。しかし、そこには先程まで攻撃をしてきていた龍の姿は無かった。



「何も出来なかった……」


 結局その日はあまりの衝撃に一睡もできず、朝を迎えてしまった。おもむろにスマホを覗けば、政府からの『下手に手は出さず静観することとする』という指示が届いている。まあ、当然だろう。相手は想像以上の化け物だ。下手に手を出して損害が出るのは困る。それに幸いにも相手は何故か陸に攻撃をしてこないのだ。なら下手に手を出さずに放置するのが一番といえる。


「あら、どうしたの?顔色が悪いけど体調悪いの?」


 一睡もしていないこともありかなり酷い顔らしく、私の顔を見た母が血相を変えている。


「うん、ちょっと体がだるいかな……」

「もしあれなら今日学校休む?」

「うん、そうする……」


 私は母にそう答えて、自室に戻りベッドに横になった。そしてまたスマホを覗いてみると、ネットニュースの今回の一件で様々な影響が出ており、このままでは多くの人々が職を失い破滅するなどといった内容が目に入る。


(このままでは大変な事になる……でもどうやってあの化け物を倒せばいいのだろうか……)


 私は頭の中で考えを巡らせる。早く何とかしれければ、取り返しのつかない事態になりかねない。しかし、あれをどうやって倒すのか。そんな事ばかりが私の頭の中を巡り続けている。


(せめて歴戦の猛者の力を借りる事が出来れば何とかなるかもしれない。しかし、戦力不足であるこの国でそんな人間が都合よく手があいているわけ……いや、もしかして彼女なら……)


 ある事を思いついた私はとある人物に電話をかけた。



「あ〜今日も疲れたな〜っと」


 俺は自分のベッドに倒れ込んでスマホを確認する。最近何故か連絡先が増えたため夜にスマホのメッセージを確認する癖ができてしまった。そうしてスマホを確認していると、春海用のスマホにタイタン改め響から連絡が入っているのが見えた。メッセージを読んでみると、謎の連絡先と共に『連絡してあげてほしい』と書いてあった。


「せめて、相手が誰かくらい言ってくれ……」


 俺は頭を抱えたくなるのを我慢して謎の連絡先にメッセージを送ってみることにした。


(まあ、相手はだいたい想像できるし)

『この連絡先に連絡するように言われたのだけど……グレイシアね?』

『ええ、連絡をしてくれて嬉しいわ。正直無視されると思っていたから。あの出来れば電話で話したいのだけど、いい?』

『いいわよ』


 俺はそのメッセージを送ったあと急いで春海に変わる。するとスマホに電話がかかってきた。


『久しぶり……無事に生きているようで安心したわ』

『お互いにね……それで、私にどんな用なの?』


 俺が単刀直入にそう聞くと、グレイシアは少し間を置いてから口を開いた。


『今日はお願いがあって連絡したの』


 俺は何も言わず、続きの言葉を待った。電話越しでもグレイシアが本当に言うかどうかを迷っているのが分かる。


『秋田沖に巨大な津波が出現したのは知っていると思うけど、ようやくその原因の魔物を見つけたの。あなたにその魔物を倒すために手を貸してほしいの』

『政府に救援は頼めないの?』

『結果なんて分かりきっているでしょ?それに、あれは並の人間や魔法少女では太刀打ち出来るような相手じゃないの。正直、私でさえもあれに睨まれただけで動けなかったわ』

『冗談でしょ?それだけの魔物はワルプルギスの夜でさえ殆ど見たことないわよ?』

『ええ、私も初めてよ……』


 グレイシアが冗談を言うとは思えない。ということは恐らく事実なのだろう。もしそうだとすればその魔物を倒すためには実力のある魔法少女が何人も必要になる。


『陸に攻撃してくるわけではないけれど、このまま放置し続ければ漁船どころかタンカーやフェリーも近づけずに様々な影響が出る。一度産業が崩壊してしまえば、元に戻すのは難しいわ。それに、ヤツがこのままあの場に留まっている保証もない』

『確かに、その怪物が陸に攻撃を始めてしまえば、秋田県どころか青森県や山形県も危険になるわね……』

『だからお願い!力を貸して!もし力を貸してくれるなら何でもするわ!』


 それを聞いた俺は後ろを振り向いた。するといつの間にか立っていたゼルが俺に向かって首を縦に振っているのが見えた。


『分かった。協力するわ』

『本当に!?』

『ええ、私も人々の危険を放置したくはないもの』

『感謝するわ!本当にありがとう!』

『ただし、今回の魔物討伐は政府には黙っている事。あと、倒したあとは貴方一人の功績として上に報告する事。それが条件よ』

『ええ、了解したわ』

『それじゃあ、詳しい日程は後で連絡してちょうだい』

『分かった。それじゃあまた。今日は本当にありがとう』


 そう言って通話が切れたのを確認した俺は、そのまま直ぐに響に電話を掛けた。


『響、突然ごめんなさい。話があるの』

『もしかしてグレイシアも関係ある?』

『ええ、話が早くて助かるわ。実は……』


 俺はグレイシアからの頼み事と出現した魔物についての話をした。


『なるほど、確かにそれだけの魔物なら最強格数人でかからないと難しい』

『ええ、そこで貴方に私への借りの一つを返してほしいと思ってね』

『分かった。どうせ暇だから問題ない。それで亜美は連れて行くの?』

『いいえ。亜美まで連れていけばここの守りが薄くなる。それにあの子はまだ経験が浅いから連れていくには危険すぎる。今回は私、響、グレイシアの三人で一気に叩く』

『そう、分かった。それで、敵のいる場所まではどう行くの?』

『こればかりはあなたにお願いするしかないわね』

『分かった』

『それじゃあ、グレイシアからの連絡があり次第あなたにも連絡するわね』

『了解』


 響の返事と共に通話を切った俺はゼルの方を向いて今回の件の話し合いを始めた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ