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薔薇の死神  作者: 族猫
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21.互いの弱み

 あの後、俺達は逃げ遅れて隠れていたと言う事にして巡回していた自衛隊の車両に乗せてもらうことになった。幸いにも俺達の変身が完全に解ける前にテレビ局のヘリがいなくなった為、正体を知っているのはこの三人だけである。


(まさか、店の客が魔法少女とか誰が想像出来るってのよ……)


 春海の姿で会った事のあるリリーと俺はどこか気まずい感じになっているが、会ったことの無いタイタンは割と普通な感じだった。すると突然、タイタンが小声で話しかけてきた。


「あなた、どこかで見たことあると思ったら……トリッターで話題になってた人?」


 その言葉にリリーも俺の方に視線を向けた。


「ああ……そういえばトリッターで見た方に似ている気がします」

(嘘でしょ!?あのトリートどんだけ広がってんのよ!?) 

「あ〜……まあ、いつの間にか撮られてたみたいね………そ、そんな事より私の正体については他言無用でお願いよ?」

「それは分かっている。変身していない状態は無防備」

「えっと……とりあえず私達の正体を知っているのはこの三人だけですし、お互いに公言しなければこれ以上広がることは無いと思います」

「はぁ……まあそうね……こうなった以上互いに信用するしかないわね……」


 今この三人は互いが互いの弱点を知ってしまっている状態。この中で裏切り者がいれば他の二人に消される。それを肝に銘じさせて抑止力にするしかない。


「えっと……互いに名乗りませんか?互いに名前を教えることで、さらに裏切りにくくなります。それに互いにあの名前では不便ですし……」

「まあ……顔が割れてる以上隠しても無駄ね」

「分かった」


 俺とタイタンがそれに了承すると、リリーが先に名乗り始めた。


「私は湾間亜美わんまあみと言います。あの姿と口調が違うのは気にしないでください……」

「僕は、鋼沢響こうざわひびき。よろしく」

「最後は私ね……私は復音春海よ。湾間さんは知ってると思うけど、根倉町の喫茶店で働いてるから来れば会えるかもね」

「わ、私の事は亜美でいいです。名字で呼ばれるの好きではないので……」

「なら、僕も響でいい。名前で呼ばれる方が慣れてる」

「じゃあ私の事も春海でいいわ。まあ、とりあえず弱点を知る者同士足を引っ張りあっていきましょうか」


 俺達がそんな会話をしていると、乗っていたトラックが停車した。そして、荷台の扉が開が開いて隊員が顔を見せた。


「お嬢ちゃん達、根倉町の駅についたけど本当にここでいいのかい?」

「あ、はい!私達は皆この近くなので助かりました!」

「そうか。ただ、さっきの地震の影響がまだあるかもしれないから気を付けてね」



 俺達はここまで乗せてくれた隊員の人に礼を言ってトラックを降りた。そして辺りを見回してこの辺りに殆ど被害が無かったようで安心する。


「やあ、心配したよ」


 突然聞こえたその声に驚いて振り向くと、ゼルがいつも通りの笑顔でそこに立っていた。


「え、ええ……なんとか無事に帰ってきたわ」

「そうかい。それはなにより……さて、この状況を説明してもらおうか?」


 そう言ったゼルは、いつもの和やかな雰囲気とは打って変わり殺気のようなものを感じる。その雰囲気に俺はもちろん後ろの二人も息を呑んでいた。



「なるほどねぇ……それに関しては、私もついていくべきだった。側にいれば、完全に解ける前に回収できただろう」


 あのあと俺達は、とりあえず落ち着いて話をしようと喫茶店に戻り今現在の状況を話したところだった。


「だが、君は本当に迂闊だったねぇ……これが敵対している魔法少女が相手なら、明日にでも君は謎の死体として路上に転がっているだろう」


 これに関しては弁解のしょうもない。魔法少女、特に俺はこの世界で悪名高いお尋ね者だ。正体が知れ渡れば、すぐにでも刺客が送られ暗殺されかねない。


「それは君達もだよ?もう少し気をつけたほうがいい」


 ゼルがそう言って亜美と響の二人に目を向ける。だが二人はゼルの言葉が正論すぎて何も言えないようだった。


「さてと……では君達には改めて誓ってもらおう。家の子については他言無用。口外することは許さないよ?もし、約束を破った際は私自身が制裁を加えねばならない」


 何とも言えない威圧感を放つゼルの言葉に二人は全力で首を縦に振る。するとゼルは突然いつも通りの雰囲気に戻った。


「それはよかった…‥さて、私からは以上だよ。あとはそうだねぇ……これからもこの店に来てくれると嬉しい。それにこの子と仲良くしてあげてくれ」


 ゼルがそこまで言うと、亜美が恐る恐る口を開いた。


「あ、あの……マスターは一体何者なのでしょうか?」

「私かい?私はブナゼル。そうだな……君達、ザシエルっていう無礼なカラスを知っているだろ?私はアレと同じ存在と言ったところだね。そしてこの子の親代わりでもある」

「ま、まあ……とりあえず話は終わったんだし、今日は解散でいいんじゃない?」


 俺がそう言うと二人もそれに賛同し、それぞれ帰り支度を始めた。するとゼルが何か思い出したのか、ニヤニヤとした笑顔で口を開いた。


「あ、そうだ……春海、今こそ新しいスマホの出番じゃないかな?」

「はい?」

「ほら、いつでも連絡が取れれば色々と便利だろ?」

「本音は?」

「友達を作るチャンスだよ!!」 


 おそらく今の俺は凄い顔をしているに違いない。だがそのあと結局ゼルに押し切られるように二人とRAIN登録をした。



「ようやく見つけた」


 魔法少女ストーム・フェアリーはものすごい速度で空を飛んでいた。現在はとある任務で福島県の上空を北に向かっていた。そしてついに目的のものを捉え速度を上げる。


「今度は逃さないわ」


 目に映る巨大な鳥のような何かを一点に見つめ、徐々に距離を縮めていく。しかしその何かは後少しというところで姿を消し、そしてまた遥か遠くに出現する。


「チッ……!往生際の悪い……!」


 限界まで速度を上げその何かを負い続けていたが、当然それだけの速度を出し続けていては魔力が持たず、遂に魔力不足で追跡を断念することとなった。


「北か……」


 フェアリーは既に姿が見えなくなった何かが飛んでいった方向を見つめそう呟いた。

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