20.鋼鉄の巨人
「来たわ!タイタンお願い!」
「了解」
俺の声を合図タイタンは両手を地面に付けた。
『我、無双の身体をもって万物を滅する武神とならん。鋼鉄の騎士!』
タイタンがそう叫ぶと、地面が激しく揺れ始め、周囲から鉄が光となってタイタンの元へと集まっていく。
「な、なんだ!?」
突然の揺れにリリーは驚いたようで、混乱したように辺りを見回している。
「心配ないわ。これはタイタンの能力で周囲の鉄が集まっているの」
「これから何が始まるのだ?」
「まあ、見てればわかるわよ」
「艦長!突如発生した地震により、海面が激しく揺れております!それに海中から謎の光が出現し、陸の方へ向かっております!」
「ああ、先程司令部より連絡が入った。どうやら魔法少女が交戦を開始したらしい。巻き込まれる前に急ぎ離脱する!」
「「了解!」」
『ご覧ください!周囲から謎の光がカルド・タイタンと思われる魔法少女へと集められております!地面や建物、海からもその光が集まっているようです!一体何が起きているのでしょうか!?おおっと!?た、ただいま地震の影響か分かりませんが、展望タワーが突如バラバラになって崩れました!』
ようやく揺れが収まり、不安定だったスマホの映像が回復する。そしてその映像を見て息を呑む。
(きれい……)
こんな状況だというのに、その映像をを見て思うのはそんなのんきな感想だった。
『ついに!ついに魔物がその姿を現しました!!』
リポーターの声とともにアップにされる映像には海の中からゆっくりと現れる巨大なロボットの様な姿が映っていた。
「リリー!同時に脚と腕に向かって拘束魔法!」
「承知!」
『親愛なる薔薇の呪縛!』
『深淵の手!』
俺達は薔薇の蔓と影から伸びる長い腕で魔物の両脚を拘束し、一時的に動きを止めることに成功する。しかしその圧倒的な質量から生み出されるパワーは俺達の拘束をものともせずに再び動き始める。
「ローズ!何と言う馬鹿力だ!!これでは止めきれんぞ!!」
「ええ、でもあと少しよ!あと少しすれば準備が完了するわ!何とか耐えて!」
とは言え、俺自身割と全力で抑えているためかなりキツイのは違いない。
(お願い!タイタン!)
その瞬間、タイタンの周りを包んでいた光が消え去り、巨大な鉄の巨人が姿を現した。その巨人の大きさは優に60mは超えるほど巨大で『タイタン』という名に相応しい姿だった。
『オォォォォォォォ!!!!』
その雄たけびとともに繰り出された鉄の拳は魔物を海へと吹き飛ばすほどでその衝撃波で俺とリリーも吹き飛ばされそうになる。
『待タセタナ……ココカラハ僕ニマカセロ……』
地の底から響いてくるような声でそういったタイタンの隣に、これまた巨大な槍が地面から出現する。
「こ、これがカルド・タイタンか……」
「ええ、まさにタイタンでしょ?」
『注意シロ。敵ガ本気ニナッタ』
どうやらタイタンを脅威と判断したようで、魔物は先程とは打って変わって素早い動きで海から飛び出して陸に着地した。
「タイタン注意して。相手は思ったよりも動きが早いわ。私とリリーで何とか動きを止めてみるから海に逃さないようにして」
『了解』
俺はタイタンの顔の近くに乗って指示を出す。するとタイタンは地面から生えた巨大な槍を手に取って魔物に向かって構えた。するとそれを見た魔物がタイタンに向かって突撃してくる。それをタイタンは巨大な槍を横に払って弾き飛ばした。
「リリー!引き続き魔物の脚を狙って攻撃。少しでも相手の動きを鈍らせる!」
「了解!」
俺はタイタンの身体を駆け下りて、その勢いのまま魔物の脚を鎌で斬る。しかし、魔物が思いの外硬いため傷は付けられるものの両断する事はできなかった。その間も、リリーは召喚した兵士で足元の地面を崩して体制を崩そうとし、タイタンも槍を振るい魔物と正面から殴り合っている。しかしどれも完全に動きを止めるまでは行かなかった。
「チッ!やっぱり硬いか……まてよ……頭を直接叩けば多少なりとも……タイタン!ハンマー二百キロ、六十メートル五秒!」
『分カッタ』
タイタンにそう支持を出し、タイタンの身体を駆け上る。すると地面から鉄で出来たハンマーが勢い良く飛び出して、俺が地上60m地点まで来たところで丁度目の前に飛んでくる。
「くらえぇぇぇぇぇ!!!」
俺は身体が落下する勢いを利用してハンマーで魔物の頭部を狙う。すると俺の意図に気づいたのかタイタンとリリーが同時に攻撃を加えて、避けようとする魔物の動きを一瞬止めてくれる。そしてそのおかげで俺の攻撃は見事に頭部を直撃し、流石にダメージがあったのか魔物が大きくよろめいて体制が崩れそのスキにタイタンが槍で魔物を殴り、完全に倒れたところでリリーが拘束して完全に動けなくなったところを槍で魔物を貫く。しかしそれでも動こうとする魔物をリリーがさらに拘束し、タイタンが渾身の力で魔物の頭部を粉砕した。
魔法少女が魔物を倒す瞬間、辺りは一瞬静かになった。そして魔物が光となって消えた瞬間に周りは大歓声で包まれる。
「すげぇぇ!!」
「俺達は助かったんだ!!」
「魔法少女最高!!!」
などの様々な声が聞こえてくる。私自身も小さく「やった!」と呟いてしまった。私はその後も画面を見続けているがその映像は砂煙や光の粒子などでよく見えない。それに画面も粗くなっているようにも見える。ただ一瞬だけ三つの光が大きく光ったように見えた。
「カメラ回ってる!?」
「はい、しかし先程の風圧で飛ばされたときカメラをぶつけてしまったんで、ちゃんと映ってるかは……」
「そんな!これは他の局では放送していない大スクープなのよ!?」
リポーターが興奮したようにそう叫ぶとヘリを操縦していたパイロットが申し訳なさそうに口を開いた。
「あの〜……申し訳ないんですが、ずっと飛んでいたので燃料がもうあまり無くて……今すぐ戻らないと燃料が尽きます……」
「え!?そう……それは残念だけど……仕方ないわね……いい映像も取れたし戻りましょう!」
そうしてヘリは現場を離れた。
「はぁ……もう無理……」
「同じく力尽きた……」
「私も….です……」
光で辺りはよく見えないが、どうやら俺達は地面に寝そべっているらしい。だがなんだか身体に違和感が……
「て、変身解けてる!?」
俺は慌てて身体を見てみると明らかにスカーレット・ローズの衣装ではなく、俺の普段着だ。しかも服のサイズが合っていないという事は間違いなく今の俺は春海の姿という事になる。そして周りを見渡してみると、俺と同じように横になっている二人の見知らぬ少女……いや、俺はこの少女たちを知っている。
「あ、あなた達……まさか家の店に来てた……」
俺の声に反応したのか、二人も上体を起こして自分の姿を確認する。
「おお……流石に無理しすぎたらしい」
「あ、あの……えっと……」
そう、今俺の目の前にいるのは店に来ていた客だ。一人は半年前から通ってくれていていつも本を読んでいる少女。そしてもう一人の小柄な少女はついこの間やって来てオムライスを食べていた少女だ。恐らくだが、喋り方的にこの子がタイタンだろう。と言うことは、この常連さんがリリーと言う事になる。
「あ、ははは……ほ、本日はお日柄もよく……」
「若干曇ってる」
「午後から雨の予報だったと思います……」
「あ……そう……」
「「「……………」」」
俺達は暫く無言のまま固まっていた。