19.海から侵略者
「報告があったのはこの辺りです」
「よし、総員警戒を怠るな!」
深夜の千葉県沖で、謎の物体が海を泳いでいるという通報を受けて一隻の海上自衛隊の護衛艦が警戒任務についていた。
「艦長!右舷の方向になにやら黒い塊が見えます!」
その声に艦長と呼ばれた男性は、双眼鏡を覗き込む。するとたしかに何やら黒色の丸い物体が見えた。
「鯨でしょうか?」
「ソナーに不審な物は何も映っていません」
そんな声を聞きながら、その物体を注意深く観察し続ける。すると一瞬波が下がった瞬間、赤い光を放つ部分が見えた。
「っ!?総員戦闘態勢!あれは鯨ではない!魔物だ!今すぐ司令部と同じく警戒任務にあたる他の艦に通達しろ!魔物は陸地を目指している!」
艦長が言葉に艦内は慌ただしくなった。
『速報です。本日未明、千葉、神奈川県沖に魔物が出現しました。現在も海上自衛隊の護衛艦数隻が戦闘を続けていますが、魔物は移動を続けておりもうまもなくで港湾都市に上陸する模様です。これに対し政府は、千葉県および神奈川県の沿岸部。そして港湾都市全域に避難命令を発令しました』
朝のテレビの速報とともに街中にサイレンが鳴り響く。
「これはこれは、朝早くから盛り上がってるねぇ」
サイレンの音を聞きながら、ゼルはコーヒーを口にする。
「のんきなこと言ってられないだろ……さて、ちょっくら行ってくるわ」
「気をつけて行ってきなよ?まだ魔力は完全に元に戻ってないんだから」
「ああ、分かってる」
俺はそう言って家を出た。
「凄いことになってるわね……」
建物の上を走りながら俺が下を見下ろすと、車で避難しようとしていた人々で道路が大混雑となっていた。
(何とか避難が間に合えばいいけど……)
そう考えながら目的地に向けて全力で走る。すると微かに砲撃の音が聞こえた。
「かなり近い……」
俺は状況を確認するために周囲で一番高いタワーの上に登って海を見てみた。
「見えた……」
俺が目を凝らして海を見ていると、突如俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ローズ!」
「リリー、それにタイタンも……フェアリーは来てないのね……」
いつもなら真っ先に行動するはずのフェアリーの姿が見えないため一応聞いてみた。
「フェアリーは別の任務に向かっていてここにはいない。だから今すぐ動けるのは僕達三人だけ」
「なるほどね……ところで、あなた達が持っている魔物の情報を教えてくれるとありがたいのだけど」
「分かった。報告によると魔物はゴーレム種の直立二足歩行型。全長は50m以上もあるらしい」
「50m……かなりデカイわね……タイタン、今回はあなたに頑張ってもらう事になるけど、魔力は問題ないの?」
「問題無い。援護は任せた」
俺とタイタンが話していると、リリーが疑問を口にする。
「策があるのか?あの魔物を倒すための」
「ええ、今日あなたはタイタンの本気を見る事になるわよ」
「ほう?それは楽しみだな。それで、我は何をすればいい?」
「リリーは私と一緒に足止めをしてもらうわ。今回の戦いはタイタンが要となる。だからタイタンの準備が出来るまで私達で時間を稼ぐの」
「ふむ、了解した!」
俺の説明にリリーは大きく頷いた。そしてもう一度海の方を見てみると、先程よりもかなり近くまで来ているように見える。
「もう少しね……」
「うむ、見たところ護衛艦の砲撃は効果がないようだな」
リリーの言う通り、複数の護衛艦の姿が見えるが足止めができているようには見えない。
「さて、こっちも準備はしておきましょうか」
「分かった」
「承知した」
俺達は準備を始めるために、タワーを飛び降りた。
「急げぇぇぇ!シェルターはこっちだぁぁぁ!」
警察や消防の人達の誘導で、私は家族とシェルターに避難していた。あたりを見回すと、見覚えのある人達の姿が見える。
(そう言えば、福音君や春海ちゃんは避難できたのかな……)
私はそう考えながらスマホの画面を見る。一応安否確認の為にRainを送ってみたが、二人とも既読はない。
「お、映ったぞ!」
その誰かの大声で周りの人達が一斉にスマホなどでテレビを見始めたため私もそれにあわせてテレビをつけてみた。
『ご覧ください!現在海上では魔物と海上自衛隊の激戦が繰り広げられております!』
画面には複数の船が謎の黒い物体に向かって砲撃を繰り返している映像が映し出された。
『魔物は陸地に向かって順調に進んでいる模様です!このままでは上陸までさほど時間は無いと思われます!今のところ陸地には自衛隊の姿は見えな……っ!?ご覧ください!魔法少女です!!展望タワーに三人の魔法少女の姿を発見しました!』
リポーターの言葉とともに画面に映し出された映像には、三人の美しい魔法少女の姿が映し出される。
(凄い……なんであの子達はあの場所に立って冷静でいられるの?怖いと思わないの?)
見たところ年齢は私と同じかそれ以下だろう。そんな少女達があの戦場で戦っている。それを考えるとなんとも言えない気持ちになってくる。
「はぁ……よくもまぁ戦場のど真ん中に来れるものね……ある意味尊敬に値するわ……」
俺が呆れてそんなことを呟きながら上を飛んでいるヘリに目を向けた。
「しかたあるまい……あれらもネタ探しに必死なのだろう。出来るだけ美味しいネタを手に入れて競合他社に勝たねばならんだろうしな」
「気持ちは分かるけど、巻き込まないように気にしなきゃならないこっちの身も考えてほしいものね……」
そんなことを言っていると、タイタンも同意して来た。
「そう、僕の能力で巻き込まないか考えると神経を使う」
「まあいいわ……とりあえず私達は目の前の敵をなんとかしましょうか」
「「了解!」」
俺達は目の前に迫る的に対抗するために、各々の準備を始めた。