18.冷や汗
「おう、秋司!おはよう!」
「おう、おはよう」
俺が教室に入ると、またもクラスメイト達が真ん中に集まっていた。
(何か、最近この風景にも慣れてきたな……)
「それで、今度は何があったんだ?」
俺が聞くと、幸樹自身よく分かってなさそうな感じで答えてくれた。
「ああ、それがな?オタクがスカーレット・ローズが高確率で会える場所があるとかなんとか言っててな」
幸樹がそう言うと、クラスメイトの中にいたオタクが人を押しのけながら俺のもとにやってきた。
「やあ復音!また俺達は謎の魔法少女、スカーレット・ローズに近づいたかもしれない!」
オタクは興奮したようにそう語り、この間の物とは違うノートを取り出した。そのノートにはこの辺りの地図が貼られており、その地図の各所に赤い丸印が書かれていた。
「同士達が集めた目撃情報をまとめてみたんだ!そうするとある事に気がついた」
俺はそのノートを見て冷や汗を書き始めていた。なぜならそのノートに書かれた印は、俺の家のある根倉町に多く存在していた為だ。
「目撃情報を元に見ていくと、明らかに根倉町での目撃情報が多いんだ。今までは情報が無さ過ぎてスカーレット・ローズの捜索はあまり盛んに行われてなかったんだけど、ここ最近多くのメディアでも取り上げられるようになって今まではよりも捜索に力を入れるようになった事でようやく尻尾を掴むことができたんだ。それで同士達の間では根倉町がスカーレット・ローズの拠点でその近くの学校に通っているんじゃないかって事で纏まってるよ」
これは非常にまずい。もしこの情報が広がれば、根倉町を中心に政府の調査が入るだろう。そうなれば俺の正体がバレるのも時間の問題となる。
「な、なあ……その情報ってまさか世間に公開するつもりなのか?」
俺がそう尋ねると、オタクは不思議そうな顔をした。
「ん?そんな事するわけないじゃないか。もし公開すれば、マスコミ連中が押しかけてスカーレット・ローズの活動に影響するかもしれないだろ?ただ、この情報は俺達魔法少女オタクの中で楽しむ為に共有してるだけさ」
「そ、そうか……ならいいんけど……もし、変に広がってスカーレット・ローズが戦ってくれなくなれば困るから気をつけないとな」
「勿論さ!」
まあ、ある程度良識があってくれて助かったと思っておこう。だが、魔法少女の追っかけは全く持って油断できない相手のようだ。少し周りへの警戒は持つべきだろう。
「おいお前ら、席につけ!」
突如聞こえたそんな担任の声で、生徒たちは慌てて席に戻って行った。
「さて、飯でも食うか……ん?」
昼休みになり俺は昼食をとるために弁当を出していると、永瀬が俺に向かって手招きしているように見えた。
(何だ?誰に向かってやってんだ?)
俺は一応後ろを確認してみるが、幸樹を含め後ろの席にいた連中はみんな購買に行ったようで誰もいなかった。その為俺は永瀬の方を向いて自分の事を指差してみると、永瀬は大きく頷いたため俺は弁当を持って永瀬の席に向かった。
「何か用か?」
「まあまあ、とりあえずお弁当でも食べながらゆっくり話そう?」
俺はそう言われて弁当を永瀬とともに食べ始めた。
「実はね?私春海ちゃんとお友達になったんだ〜」
「そうらしいな。アイツが言ってたよ」
「それで気になったの、何でこの間教えてくれなかったのかなって」
「お前も話してわかると思うけど、アイツは割と人見知りなところがあるからな。あんまり広めても可愛そうだなって思ったんだ」
何と言う完璧な嘘!俺は俺自身を褒めてやりたいと思う。
「そっか……確かにあまり人と話すのが得意な感じには見えなかったもんね……ところでさ、春海ちゃんに会うためにまたお店に通うと思うからよろしくね?」
「そうか、そうしてくれるとゼ……親父も喜ぶ」
「あとさ、もし良かったらまた一緒に遊びに行かない?」
思いにもよらなかった永瀬の発言に、俺は一瞬固まってしまった。しかし直ぐに正気に戻って聞き返した。
「どうした突然」
「だってほら、私達高校に入ってからお互い忙しくて遊べてなかったじゃない?だから久し振りにどうかな〜って思って……」
まあ確かに、俺と永瀬は中学の頃はよく絡んでいた。遊びに行ったり、家の店で駄弁ったりと色々していたが、高校に入ってからはお互い忙しくて絡むことはなくなっていた。
「そうだな……久しぶりにいいかもな」
俺がそう答えると、永瀬は嬉しそうな表情を浮かべた。そんな永瀬を見ていると中学のときに戻った感じがしてこっちも嬉しくなってくる。
「ホント!?よかった〜……出来たら春海ちゃんも含めて三人でも遊びたいね」
前言撤回!俺は嬉しい気持ちから一転、最悪な展開に冷や汗が止まらなくなっている。
(まずい……どう頑張っても春海と秋司は同時に存在できないぞ!?これは何とか話をずらして誤魔化さないと!)
そんな時、購買から戻って来た幸樹が俺達に声をかけてきた。
「たっだいま〜ってこれまた珍しい組み合わせだな……」
「あ、ああ……たまにはいいかなって思ってさ」
(助かった!ありがとう幸樹!心の友よ!)
「あ、そうかお前らって同中だったもんな」
「ええ、だから久し振りにどうかなって誘ったの」
「ところで、今日はかなりの大収穫じゃないか?」
俺は幸樹が両手に抱えていた大量のパンを指差してそう言うと、幸樹は誇らしげにそのパン達を見せてきた。
「そうだろ?今回頑張って先頭を取って昼飯用と部活で腹減ったとき用で買い込んできたんだ!」
「それはよかったけど、早く食わないと時間なくなるぞ?」
「おう!早食いには自信があるから問題ないぜ!」
幸樹はそう言うと買ってきたパンにかぶりついていた。