16.友人
「だるい……」
『昨晩、海沿いの廃工場地帯で謎の大火災が発生しました。火災は直ぐに消滅し、この火災による延焼の心配は無く怪我人などもいないとの事です。現時点で政府からの声明などは無く、警察が原因の究明を急いでいます』
俺は昨日の戦いの影響で、再び男に戻れなくなっていた。幸いにも腹部に打ち込まれた鉄の弾丸は、タイタンがしっかりと回収してくれていたため体内に取り残されるということはなかった。
「秋司、どうだい?お腹の具合は」
「ゼルのおかげで傷どころか痣すら残ってないわ。ただ、物凄く身体がだるいのよ……」
俺が無理やり傷口を焼いて塞いだため、出血は抑えられたものの痣が残っていた。その後ゼルが俺の血を代償にして完璧に治癒してくれ、傷や痣が消えた代わりに貧血になっていた。
「まあ、あれだけ血を失ったうえに魔力も消費したんだから仕方ないだろうねぇ……運良く今日は休日で学校は休みだし、店の事は気にせずゆっくり休むといい」
「ありがとう……あ、何か飲み物とかあったっけ?スポドリとか」
俺がそう言うと、ゼルはキッチンの冷蔵庫の中身を見て申し訳なさそうに口を開いた。
「すまない、今スポーツドリンクはないね。買ってこようか?」
「いや、いいわ。コンビニもすぐ近くだし自分で行く」
「大丈夫なのかい?無理しなくていいんだよ?」
「コンビニに行って戻ってくるくらい大丈夫よ」
俺はそう言ってふらふらと財布を持って家を出た。
「コンビニってこんな遠かったっけ?」
俺は家を出てコンビニまでの道中を歩きながらそう呟いた。本来コンビニまでは家から五分もかからない距離にあるため遠く感じることは無いのだが、今の俺にとってはかなりの距離に感じる。
「いらっしゃいませ〜」
コンビニに辿り着いた俺は、真っ直ぐに飲み物コーナーに向かい、買い物カゴにスポーツドリンクを数本入れてレジに向かった。
「さっさと帰ろ……」
コンビニを出て歩き出すも、さっきより身体の倦怠感が酷くなっていた。そのためふらふらとしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ、あなた大丈夫?」
「え……?私……?」
「さっきから見てたけど、今にも倒れそうよ?」
俺は足を止めて後ろを振り返ると、驚きのあまり倦怠感が吹き飛びそうになった。
「あれ?あなた、ショッピングモールのゲームセンターにいた……」
そう、その声の相手は永瀬だったのだ。
「ヒェ!?あ、その……大丈夫なので……そ、それではっ!?」
俺は慌ててその場をあとにしようとするも、突如酷い目眩に襲われて倒れそうになる。すると永瀬が慌てて俺の身体を支えてくれた。
「あ、ありがとう……」
「やっぱり大丈夫じゃないじゃない!ほら、荷物持ってあげるから、家はこの近く?」
「え、ええ……すぐそこ……」
最早、目眩と倦怠感で何も考えられなくなっていた俺は永瀬に支えられながら家に向かった。
「え、ここって……」
何とか家に辿り着くと、永瀬のそんな呟きが聞こえた?
(これって、もしかしてまずい?ま、まあなんとか誤魔化せるでしょ)
当然ながら永瀬は俺の家を知っている。というより中学時代は結構な頻度で店に通っていた。しかし、高校に入って以降色々と忙しくなり店には来ていなかった。
「い、家の都合で親戚であるこの家にたまにお世話になってるの。今回はありがとう。もし良かったら寄っていかない?お礼もしたいし」
俺はそう言って永瀬を店に招き入れた。するとカウンターに立っていたゼルがこっちを見て驚いた表情をしている。
「おやおや、永瀬ちゃんじゃないか!久しぶりだねぇ!」
「は、はいお久しぶりですマスター」
「コンビニから帰る途中で体調悪くなってたところを助けてくれたの」
「そうだったのか。家の子が世話になったようで申し訳ない……もしよかったら何かご馳走しよう」
「なんか、すみません……」
永瀬はそう言って申し訳なさそうにカウンターの席に座った。
「そういえば、名前聞いてなかったね。私は永瀬芽実」
「私は復音春海。ここのマスターとは親戚同士なの。今日は本当にありがとう」
俺の言葉に永瀬は嬉しそうに頷いたあと、ゼルの方を向いて不思議そうに口を開いた。
「そういえば、福音くんは今日いないんですね。てっきりお店のお手伝いをしてるかと思ったんですが……」
その言葉に俺は妙な汗が流れるような感覚に陥り、ゆっくりとゼルに目を向ける。すると心なしか笑いを堪えているようにも見える満面の笑顔で答えた。
「秋司はいま店の買い出しに行っていてね。もしかしてあの子に用事かい?」
「あ、いえ……いないのならいいんです。いたら一声かけようと思っただけなので」
そう言って、永瀬は目の前に出されたアイスコーヒーに口を付けた。
「なんかご馳走になってしまってすみません……」
「いいんだ。これは家の子が世話になったお礼だからね。もしよかったら前みたいに来てくれると嬉しいよ」
「そうですね。また春海ちゃんにも会いたいですし……あ、そうだ!春海ちゃん!私とRain交換しない?」
「え、あ〜……今丁度スマホ修理に出してて……」
「そうなんだ……あのマスター、紙とペン貸してもらえますか?」
永瀬はゼルから紙とペンを受け取るとスラスラと自分のRainアカウントのIDを書いて俺に渡してきた。
「良かったら連絡してくれると嬉しいな」
「う、うん」
「それじゃあまたね!」
永瀬はそう言って嬉しそうに店を出ていった。するとゼルがニヤニヤとした笑みを浮かべて「春海用のスマホ用意しないとねぇ」と言ってきた。