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薔薇の死神  作者: 族猫
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15.決闘

「久し振り。元気そうでよかった」

「ええ、そうね。あなたも変わりないようで何よりだわ」

 

 日が落ちて、辺りが暗くなった頃に海辺の廃工場地帯で俺とタイタンは向かい合っていた。


「僕の挨拶に気づいてくれてうれしい」

「よく言うわ……あんなに分かり易く魔力を垂れ流したくせに」

「それで、そっちの子は誰?」


 そう言ってタイタンが目線を向けた場所に、俺とタイタンの戦いを見届けたいと言っていたリリーが立っていた。


「我が名はアビス・リリー。今回、ローズの許可の元二人の戦いを観戦させていただきたい。勿論、貴公らの戦いを邪魔するつもりはない」

「ならいい。取り敢えず、自衛はしておいて。何があっても責任は持てない」

「無論だ」


 リリーがそう言うと、タイタンは俺の方に目線を戻して話を続ける。


「さて、それじゃあウォーミングアップから」


 タイタンはそう言った瞬間、大きく飛び上がって俺に向かって拳を叩きつけてくる。俺がそれを難なく躱すとタイタンの拳が地面を抉り、それと同時に地面から一本の槍が飛び出した。そしてタイタンはその槍を手に取ると俺に向かって槍で攻撃を仕掛けてくる。流石は歴戦の魔法少女なだけあって一つ一つの行動に一切無駄がない。


「流石はローズ。よく僕の攻撃を受け止めた」

「あなたこそ、相変わらずの馬鹿力ね……あなたの攻撃を受けてると手が痺れてくるわ!」


 俺はそう言ってタイタンの槍を弾き返すが、タイタンは直ぐに体制を立て直す。そして今度は目にも止まらない速さで槍を突いてきた。しかし、俺はそのすべての攻撃を上手く鎌で受け止めていく。


「並の魔法少女なら効いたかもしれないけど、私には無駄よ!正直、早く終わらせたいからこんな茶番は止めてくれるかしら」


 俺の言葉にタイタンは攻撃を止めて俺から距離を取った。


「少しは身体が温まってきたしいいか。なら、早速本題に入らせてもらう」


 タイタンはそう言って懐から一枚の紙を取り出し、俺に向かって見せてくる。そしてその紙を見たリリーが驚きの声を上げた。


「それはっ!?まさか魔女の契約書か!?」


 魔女の契約書。それは遥か昔より魔女が契約を結ぶ際に自分と相手の血を紙に染み込ませる事で、魔術によって強制的に契約を守らせる魔術道具である。


「何のつもり?」


 俺の問いかけにタイタンはゆっくりと口を開いた。


「本格的に戦う前に、僕と契約をしてほしい。僕が勝ったら、僕の使い魔になって」

「あら、私にあなたの黒猫になれって事?そんなことをする理由は?」

「僕は今回、ローズを倒せと命令されている。だけど倒すという言葉には、相手を殺す以外にも相手に負けを認めさせる事も含まれている。ならローズを倒して使い魔にしてしまえば、政府が恐れているローズの暴走を抑えられる。そうすれば政府がローズを殺そうとする理由はなくなる」


 つまり、タイタンなりに俺の身を案じてのことだったようだ。しかし、だからといって負けるつもりは無い。


「まあいいわ、なら私からの条件を出させて貰うわ。もし私が勝ったら、何でも二つ言うことを聞いてもらう。あなたが勝ったら私をずっと好きに出来るんだもの、安いものでしょ?」

「分かった、それで構わない。僕の血は既に染み込ませてるから、あとはローズの血を吸い込ませればいい」


 そう言ってタイタンが紙を手渡してくる。そして俺は鎌で自分の指に傷をつけて血を垂らした。


「これで契約は結ばれた。ねえ、アビス・リリーだっけ?僕達が戦っている間、この契約書はあなたが持ってて」

「う、うむ……承知した」


 タイタンから契約書を受け取ったリリーは直ぐにその場から距離を取った。


「さて、ここからはお互い本気の勝負」


 その瞬間タイタンの雰囲気が変わり、地面が揺れ始める。


『母なる大地よ。か弱きこの身に万物を弾く鋼鉄を鎧わせよ』


 タイタンが詠唱すると、周囲の建物や残骸から鉄が光となってタイタンへと集結する。そして光が消えると、元のタイタンの姿はなく3mほどの鉄の巨人が立っていた。


『フー……ソレジャア……始メヨウ』

「あら、本気を出すんじゃなかったの?」

『アノ姿デハ、ギャクニ不利ニナル』

「そう……なら私も本気を出そうかしら」


 俺は目を閉じて、自分の力の全てを解き放つイメージをする。すると徐々に周囲の温度が上がり、辺りの物が溶け始めた。


『オォォ!……コノ熱気……ツイニ本気ヲダシタカ』

「ええ、この辺りは既に捨てられた場所。周りを気にする必要がない以上、手加減をする必要がないもの。今度はこっちから行くわよ!『焼滅の薔薇(バーニング・ローズ)!!』」


 全てを燃やし尽くすほどの炎の渦がタイタンを包み込む。しかし対して効いていないのか、タイタンは炎の中を悠然と歩いてくる。


『前トハ違ウ。コノ鉄ハ僕ノ魔力ヲ練リ混ンダ特殊合金。ローズノ炎デモ溶ケハシナイ』

「流石に学習しているみたいね……でも外側が平気でも、中身がどこまで耐えれるかしら?」

『コチラカラモイクゾ!!『鋼鉄の鉤爪(アイアン・クロウ)!!』』


 巨大な鉄の塊がものすごい速度で距離を詰め、俺を捕まえようと手を振りかざす。


「そんな攻撃は当たらないわよ!!」


 俺が避けた事で空振りした鉄の腕が地面に突き刺さる。するとその瞬間、俺が着地した地面から巨大な腕が出現し、俺は掴まれてしまった。


「チッ!まさかあなたがここまで器用になっているとは驚いたわ……」


 鉄の腕が握り潰そうと俺の身体を締め上げ、身体の節々が悲鳴を上げ始める。


「グッ……アァァ……あんまり……調子に乗るんじゃ……無いわよ!」


 俺は全身に力を込めて、燃え盛る魔力を解き放つ。すると鉄の腕が溶けて俺は開放された。


『ソンナ……溶カサレルナンテ』

「私の炎に溶かせない物はないのよ!」

『ナラ、コザイクハヤメダ。直接叩キ潰ス!!』


 タイタンはいつの間にか持っていた大剣で俺に襲いかかる。相変わらずその巨体からは想像できないような速度で、俺も気を抜けばやられてしまうだろう。


「このままじゃ、お互い消耗して共倒れよ?」

『ソレハドウカナ』


 その瞬間、俺の腹部に激痛が走った。


「なっ!?」


 俺は咄嗟に距離を取り、恐る恐る腹部を触る。すると僅かに濡れている感触があり、手を見てみるとその手は真っ赤に染まっていた。


「グッ………!これ…は……」

 俺は腹部を抑えて、タイタンを睨む。いままで手ぶらだった左手が、ガトリングの形に変形していた。



(一瞬、何が起きたのか分からなかった。確かに先程までの攻防もとてつもない速さで行われていたが、何とか目で追うことはできていた。しかしローズが動きを止めた時、いつあの左腕が変形したのか全くわからなかった。そもそも、我はこのローズから発せられている熱気の中で立っているだけでもやっとの状態だ。それをタイタンはあれだけ動き、ローズと渡り合っている。これが頂に座する者の実力か……)



 俺は腹部に手を当てて、傷口を焼いて塞ぐ。あまりの痛さに声さえ出ず、一瞬意識が飛びそうになる。


「まさか……その状態でも撃てるなんて想定外だったわ……」

『僕モ強クナル為ニ頑張ッタ。ダカラ、コンナコトモ出来ル』


 タイタンがそう言った瞬間に左腕のガトリングが回転し、弾丸の形をした鉄の塊が俺を襲う。


(このまま逃げ続けていても、いつかは力尽きる。それにタイタンは鉄さえ補給できれば無限にあれを撃ち続けることができる。それに……)


 俺が逃げ回りながら地面を睨むと、俺が着地しようと考えている場所に次々と地面から鉄の棘が生えてくる。このままではいずれ逃げ場もなくなるだろう。だが、俺はタイタンのとあるスキを見逃さながった。


親愛なる薔薇の呪縛(ローズヴァイン)!!』


 薔薇の蔓がタイタンの脚に絡みつき、ガトリングや鎧の中に入り込んで全身の動きを封じた。


『ナッ!?ウゴ……ケナイ!?』

「リリー!!死にたくなければ、今すぐこの場から離れなさい!!」

「し、承知した!!」


 リリーが離れたことを確認した俺は、思いっきり鎌を地面に突き刺した。


極楽の庭園(ヘヴンズ・ガーデン)!!』


 その瞬間、俺を中心に周囲を紅蓮の炎が包み込んだ。



「なんて威力だ……」


 そう呟く我の目に映っていたのは数百メートルもの範囲を包み込む巨大な炎の海だった。そしてその炎の一つ一つがまるで薔薇の花のようで、その一面の炎が薔薇の花園に見えた。


「これが、スカーレット・ローズか………」


 我はその炎が消えるまで、その美しい光景に目を奪われていた。



「さて、タイタン。私の勝ちでいいかしら?」


 俺は地面に転がっているタイタンに声をかけた。


「ケホッ……コホッ……もう無理……燃え尽きた……物理的に」


 そう言うタイタンは髪や衣装が所々焦げていたり、破けていたりと見るからにボロボロである。


「でも正直私負けるかと思って焦ったわ。それに燃え尽きたとか言ってまだ変身が解けてないあたり、本当に限界なのか疑問ね」

「正直まだ戦える。でもローズの炎を防ぐだけの鎧を作る魔力はない」


 俺とタイタンが話していると、避難していたリリーが戻ってきた。


「二人とも無事か!?」

「ええ、何とかね」

「ミートゥー」

「流石は、カルド・タイタン……あれだけの炎でこの程度で済むとは……」


 リリーの言葉にタイタンは寝転がったまま口を開いた。


「今回僕は対ローズ用にガン振りしてたからこの程度で済んだだけ。そうじゃなければ良くて瀕死」


 そう言ってゆっくりと立ち上がったタイタンに、俺は声をかける。


「とりあえず、契約の通り貸し二つって事でいいかしら?」

「自分で言い出した事。文句は無い」

「なら、詳しい話は後にして取り敢えず今日は解散しましょう?正直疲れたわ」

「うむ、今日は実に良い物を見せてもらった。感謝する」

「ローズ……歩くのだるい……ホテルまで送って……」

「はぁ……近くまでで良ければ送ってあげてもいいわよ」

「感謝」


 そうして俺はタイタンを背中におぶってその場を後にした。 

 

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