14.巨人の来訪
「さて、来るとすれば飛行機か新幹線か……」
俺はスマホで各交通機関のルートなどを調べていた。なぜ俺がそんなことをしているのかと言うと、簡単な話タイタンがいつ来るかをできるだけ予測するためである。
「飛行機で来ようが新幹線で来ようが結局は東京で電車を乗り換える必要がある」
俺がいるこの都市は、かつて東京湾と呼ばれた海を埋め立てて作られた都市で、ここに入るには東京、千葉、神奈川の三つの県のどれかを通る必要がある。しかしタイタンは山形から来るため、車、鉄道、空路のどれを使うにしても必ず東京から来るはずである。だが、一つ例外がある。それは自衛隊の輸送機で来る方法である。この街にも基地がある為、それらを経由して来る可能性もある。
「まあ、まずその可能性はないだろうね」
俺の考えを読んでかゼルがそう言った。
「先日の会見で、態々タイタンがこっちの方に来る事を公言しているからね。そうなればマスコミは一番可能性の高い自衛隊の各施設に張り込むだろう。そんな中でその移動方法を選べば、その情報は瞬く間に広がり、私達に居場所がバレて警戒されるからね。ならあえて護衛も付けず普通の移動手段を選んだほうが確実に君と接触できるだろうさ」
「じゃあ車は?」
「それもありえるけど、時間がかかりすぎるから無いだろう。あとは飛行機か新幹線か……ただ、どちらにしても明日中にはこの街にやって来る。覚悟は決めておくんだね」
「分かった……」
俺はそう返事をして部屋へと戻った。
「来てしまった……この街に……」
駅に降り立った少女は駅のホームに掲げられた駅名を見てそう呟いた。
「お腹……空いた」
お腹をさすりながらフラフラと駅から出てタクシーを拾う。
「お客さん、どちらまで行かれますか?」
「この街に来たのは久し振りで良く分からない……オススメのご飯屋があればそこに連れて行ってほしい」
「ご飯屋ですか……私の行きつけで良ければ行かれますか?」
「お願いする」
「かしこまりました!」
運転手はそう答えるとタクシーを走らせ、暫くすると繁華街から少し外れた場所にある喫茶店の前に着いた。
「ここが私の行きつけなんですが、コーヒーも美味しいしご飯もかなりの物なんですよ」
「おお……!それは期待!」
少女はタクシーを降りると、目の前の扉に手を掛けてゆっくりと開く。すると中には常連と思われる数人の客がおり、店の主人と思われる中年の男性と従業員らしき少年の挨拶が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
学校の修繕作業があるとかで昼で学校が終わった俺は、いつも通りの営業スマイルで入って来た客を出迎えた。昼時は基本的に常連のお客がランチを食べに来る事が殆どだが、たまに新規のお客もやってくる。そして今回来た客もまた見慣れない新規の客だった。
「一人だけど、大丈夫?」
目の前にいるお客の少女がそう聞いてきた。この少女は見た感じ中学生くらいの小柄な体格であった為、少々驚いてしまう。
(こんな小さな子がこんな喫茶店に一人で来るなんて珍しいな……)
「おひとり様ですね?ではこちらのお席へどうぞ」
俺は少女を席へと案内して、おしぼりとお冷やをテーブルに置いて説明する。
「メニューはこちらにございます。ご注文が決まりましたらお呼びくださいませ」
「ん、ありがとう」
俺は一旦席を離れ、空いた席の片付けをしながらカウンターへと戻り、ゼルに声をかけてみた。
「なあ、あの子かなり若いよな?あんな子が一人で喫茶店に来るのって変じゃないけど珍しくないか?」
「ああ、しかもこのあたりじゃ見ない顔だね。おそらくこの近くの子ではないだろう」
「だよな……でもなんか引っかかるんだよなぁ……俺の知り合いの誰かに似てるような……でもあんな子一度見たら忘れるわけねぇし……いや、まさかな……」
そう、会ったことが無いはずなのに、どこかで見た事あるような気がするのだ。ただの気のせいであればいいが、どこか引っかかる。
「まあ、いいじゃないか。本当に知り合いならすぐに思い出すだろうし」
ゼルにそう言われ、「それもそうか」と思い直した俺は注文を受けるまでの間に他のテーブルの片付けなどをしていた。すると例の少女が声をかけてきたので伝票をもってその席に向かった。
「注文がお決まりですか?」
「オムライスとアイスカフェラテを」
「かしこまりました。オムライスとアイスカフェラテですね?少々おまちくださいませ」
俺は伝票にサラサラと注文を書いてカウンターへと向かう。そしてゼルに注文を伝え、オムライスの用意を始めたゼルに代わり、俺はカフェラテの用意を始める。
(初めて来た店だけどいい雰囲気の店……落ち着く)
朝から移動ばかりで少々疲れていた少女は、店の静かな雰囲気に眠気を感じ始めていた。しかし少年の声で目が覚めた。
「お先にアイスカフェラテです。オムライスの方はもう少々お待ちくださいませ」
そうして目の前に置かれたカフェラテを飲むと先程までの疲れが癒やされる気がした。
「おまたせしました。オムライスです。それではごゆっくりどうぞ」
「おぉぉ………!!」
ようやく出てきたオムライスの香りに空腹が限界を迎えた少女はスプーンですくってかぶりつく。
「こ、これは………!!」
少女は無我夢中で食べ続け、あっという間に食べ終えてしまった。
「美味しかった。場所が場所なら繁盛してる」
会計を終えて店を出た少女はそう呟いた。そしてそのまま歩き続けて、この街で一番高いであろうタワーに辿り着いた。
「この上なら丁度いいかもしれない」
そのままエレベーターでタワーの頂上に登り、さらに検査用の梯子を登って屋上に立つ。
「さて、そろそろ仕事の時間」
そう言った瞬間少女の身体は光を放ち、灰色の衣装に黒が混ざった長い白髪の魔法少女の姿に変わった。
「僕はまたこの街にやって来た。さあ僕に気づいて、ローズ!」
そう叫んだ魔法少女『カルド・タイタン』から膨大な魔力が解き放たれた。