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薔薇の死神  作者: 族猫
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12.迷いと決意

「嫌だ」

 

 小柄な少女は怒気を孕んだ声で言い、その少女を含め二人しかいない静かな部屋にその声はよく響いた。そしてそんな少女の言葉に佐賀巳は口を開く。


「一応、理由を聞こうか」

「ローズと戦う理由が僕には無い」

「タイタン、君にはなくても我々にはあるんだ。分かってくれ」

「‥‥‥‥何故、戦う必要があるの?」

「スカーレット・ローズは幾度となく我々の作戦を妨害してきた。今までは大きな問題になっていなかったから良かったものの、先日の戦いで彼女の力が想像以上であることが分かった。これから先、あの力が大きな災いを呼ぶ可能性がある。だからこそ今のうちに災厄の芽を摘んでおかねばならない」

「僕はローズが災いを呼ぶとは思えない。実際にローズに救われた人や魔法少女も多い。ともに戦うことも可能なはず」

「確かに彼女に救われたものもいるし、もし可能なら我々も手を組みたいところだ。だが彼女は頑なにそれを拒んでいるうえ、彼女の独断専行で危険な目に合う者達もいる。我々はこれ以上子供の我儘に付き合っているわけには行かないのだよ。それにこれを決めたのは私個人ではなく、この日本という国が決めたんだ。君の考えなど関係はない」

「でも、ローズがいたから僕達は海外に戦力を回せている。いなければ僕達が海外に手を貸している余裕はない」

「そんな事はない。国内にいる魔法少女達も実力を付けてきている。彼女達だけでも対処は可能だ。事実、スカーレット・ローズが妨害しなければ今までの作戦も確実に成功していた」


 確かに成功していただろう。昔のタイタンなら間違いなく賛同していたし、作戦の成功を喜んだはずだ。だが、今の彼女にそれは出来なかった。


「あと、君は一つ重要なことを忘れていないかな?」

「‥‥‥‥っ!」


『つまり、山形一帯の危険はないということでしょうか?』

『確証はありませんが、秋田を拠点とするクール・グレイシアの他、周りにある基地からの戦力を集結させることで、充分に対処可能と判断いたしました』

『では、カルド・タイタンはどうなるのでしょうか?』

『カルド・タイタンは、関東に出現した新たな脅威の調査の為に動く予定となっております。それが済み次第海外へと戻る予定です』


「新たな脅威ってこの間学校に出たやつのことかな?」

「多分そうだと思う。テレビとかでもあの魔物は見た事が無い新種だって言ってたし」

 昼休み中、防衛大臣が開いた会見をスマホで見ていた生徒の話し声が聞こえた。

「なあ!秋司、聞いただろ?あのカルド・タイタンがこっちにくるかもしれないぞ!あ~この目で見てみたいな~」

「そうらしいな。でもそう簡単に会えたりはしないし、あまり期待はしないほうがいいかもな」

「まあ、そうだけどさ。でも夢はでっかくありたいよな」

「オタク‥‥お前のその願いは大きいと言えるのか?」

「人それぞれってやつさ!」

「あ、はい」


 オタクとそんな会話をしている俺であるが、先程の会見で言っていた『新たな脅威』とは恐らく俺の事なのだろう。そう考えた俺はタイタンとの戦いが近い事を感じていた。だが‥‥‥


(アイツとはできれば戦いたくは無い‥‥でも、もう避けられないのは間違いない‥‥クソッ!)

「なあ、秋司‥‥‥お前、どうかしたのか?」


 突然聞こえた幸樹の声に、俺は現実に戻され顔を上げると、幸樹が何やら神妙な顔をしているのが見えた。いや、幸樹だけじゃない。オタクや他の友人達も俺の方を見ている。


「お前、手から血出てるぞ‥‥」

「え‥‥?」


 言われて初めて自分の手から血が出ているのが分かった。どうやら考え事をしているうちに強く握りしめてしまい、爪が食い込んだらしい。人間不思議なもので、気づかないうちはなにも感じていないのに、気づいた瞬間に痛みが走る。


「っ~~~~!!」

「は、早く保健室に行くぞ!!」


 俺は幸樹につれられて保健室へと向かうのだった。


『ヒョォォォォ!!』


 日の出には少し早い時刻。夜の闇の中で、猿の頭に虎の脚を持つ異形の怪物が鳥の鳴き声にも聞こえるような儚げな奇声を上げる。


「みんな貴方みたいな鳴き声なら近所迷惑にならないのにね。とりあえず覚悟しなさい」

『ヒョッヒョッヒョォォォォォ』


 魔物がその鋭い爪で襲いかかり、俺はその攻撃を鎌で受け止めた。


「流石は伝説上の怪物‥‥動きが速いわ」


 俺は下への被害が出ないように高く飛ぶと、魔物もそれに続いて高く跳ねる。すると突如下から飛んできた謎の攻撃が魔物の胴体を直撃した。


『オォォォォォォォ!!!』


 魔物はその攻撃による痛みで叫び声を上げながら、俺から離れる。そして俺はその攻撃の元へと目を向けた。


「あなた‥‥」

「フハハハ!ローズよ邪魔をするぞ!」


 目線の先に立っていたリリーが、笑いながらそう言った。


「邪魔してから言う言葉ではないわね‥‥」

「まあ許せ、我も慌てていたのだ。ところで、あの見た目はまさかぬえか?」

「ええ、多分ね。猿の頭に狸の胴体、虎の脚に蛇の尻尾。そして鳥のような儚い鳴き声と、日本の妖怪辞典が間違ってなければ全部特徴が一致しているわね」


 俺がそう言うと、リリーは少し考える素振りを見せた。


「ふむ‥‥いままで『この見た目はこの動物!』と言う様な魔物は見たことが無いな。大体が様々な特徴が合わさったキメラばかりであった気がする。まあ、鵺も言ってしまえばキメラだが」

「考えるのは、あれを倒してからにしましょう?とりあえずあれを市街地から離したいから手伝って頂戴」

「うむ、任せておけ!」


 リリーは大きく頷き、ステッキで地面を突いた。すると杖で突いた場所を中心に、影が波のように広がると鵺の近くで巨大な獣のような姿に変わり鵺に襲いかかった。そしてそれに驚いた鵺は影の獣の反対方向である海の方へと逃げ出し、俺達はその後を追った。


『ヒョォォォォォ!!』


 鵺はなおも叫び声を上げながら走り抜ける。


「ローズよ。このまま海に逃げられれば、我等では手が出せなくなるぞ」

「そこは問題ないわ。街から離れさえすればある程度やりようはある!」


 俺はリリーにそう答えると、大量の薔薇の蔓を呼び出して鵺を捕獲する。


「捉えた」


 その瞬間、再び出現した複数の蔓が鵺の身体を貫いた。


『ヒ‥‥‥ヒヒ‥‥』

「今楽にしてあげるわ」


 無数の木の枝に貫かれ、もはや虫の息となっている鵺に手をかざし炎で燃やし尽くし、炭となった鵺は夜風に乗って塵となる。


「‥‥全く、炎の他に植物まで操るとは‥‥相変わらず器用なものよな」

「植物というより薔薇限定よ。別に二種類の系統を操るのは珍しくないでしょ?貴方の仲間であるグレイシアだって水と氷を操るんだもの」

「まあ、それはそうだが」

「それで?私に何か用があったんじゃないの?」


 俺が尋ねると、リリーは思い出したように懐から封筒のような物を取り出した。


「なにこれ?」

「この間の報酬だ」

「はい?報酬?」


 俺は一瞬リリーが何を言っているのか分からず、固まってしまう。するとリリーは話を続けた。


「忘れたのか?例の学校での戦闘だ。あれの報酬を貰ったから貴公にも渡そうと思っておったのよ」

「い、いいわよそんなの‥‥別に金銭目的でやってるわけではないもの。あなたに全部あげるわよ」

「そうはいかん。これは正当な報酬というものだ。正直貴公に受け取ってもらわねば、我としてもこの金の使い道がないのだよ。それに筋は通しておきたい」


 リリーの様子に、俺はどう言っても無駄だと判断して渋々報酬を受け取る事にした。


「‥‥‥はぁ‥‥分かったわよ‥‥受け取ればいいんでしょ?」

「うむ、それでいい。そしてもう一つ貴公に話があってな」


 リリーは真剣そうな表情でそう言った。このタイミングでリリーが俺に話したい事とは何かと考えると、一つだけ思い浮かんだ。その為俺はリリーの言葉を待たずに口を開いた。


「もしかしてタイタンの事?」

「ほう‥‥良く分かったな」


 やはりそうかと俺は思った。恐らくタイタンの事をフェアリーかグレイシア辺りに聞いたのだろう。


「貴公はタイタンがこの国に戻ってきた理由を知っているか?」

「さぁね、でもおおかた政府が私を倒させる為に呼び戻したんでしょ」

「そこまで分かっていて、何故逃げぬ」

「逃げる理由が無いもの。私は逃げも隠れもしない。来るなら正々堂々迎え撃つだけよ」

「奴は現役の魔法少女の中でも最強クラスの実力を持つと聞く。そんなのをまともに相手するつもりなのか?」

「もしかして心配してくれるの?」

「我は死ぬかもしれぬ相手を何もせず見送りたくはないだけだ」

「フフフ‥‥大丈夫よ。私だってまだ死にたくはないもの。勝機があるからこそ戦うのよ」

「そうか‥‥恐らく、我がこれ以上言ったところで無駄であろうな····ならばせめて、我もその戦いに同席させて欲しい。別に邪魔しようというわけではない。ただ、魔法少女の頂と称される貴公らの戦いを見てみたい」


 俺はその言葉にどうするか悩んでいた。というのもタイタンとの戦いともなれば俺も本気を出さねばならなず、タイタンも恐らくは本気を出してくるだろう。そんな物を近くで見ていて無事で済む保証はない。しかし、改めてリリーの顔を見てみるとその表情は真剣そのものであった。


「分かったわ。ただし、自分の身は自分で守ってもらう。それでもいい?」

「当然だ。貴公らの戦いの邪魔になるようなことにはならぬと約束しよう」


 リリーの言葉に俺はゆっくりと頷いた。そしてわざわざタイタンの事を教えてくれた事に礼を言ってその日は別れた。


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