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薔薇の死神  作者: 族猫
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9.火災救助

「おや思ったより早かったね」

 

買い物袋を両手に抱え、店に無事に帰還した俺にゼルはそう声をかけてくる。見たところ、ちょうどお客はいないようだった。


「そう?これでもかなり大変な目にあったんだから」


 俺はそう言って荷物を奥の自宅のに運び、余ったお金をゼルに返そうと財布を取り出した。するとゼルはそれを手で制した。


「余ったお金好きに使っていいよ。高校生にもなれば色々とお金が必要になるだろうしね」

「え、いいの?っていってもあまり使い道が無いんだけど……まあ、ありがたく貰っておくわ」


 それにしても静かだ。確かに普段もそこまでお客が多いわけでもないし、いたとしても皆静かにコーヒーなどを飲みながら本を読んだり軽食を楽しんだりしているため静かではあるが、お客が一人もいないとそれ以上に静かに感じる。


「ねえゼル。テレビつけてもいい?」

「ああ、構わないよ」


 俺はやることが無くて暇なのと、その異様な静けさに我慢できずにテレビをつけた。すると午後のニュース番組がやっており、画面には先程までいたショッピングモールから盛大に煙が出ているのが見えた。


「これってあのショッピングモールじゃない!?何で燃えてるの!?」

「これはかなり激しいね……」

『現在ショッピングモールの火災の様子をお送りしております。火災が発生したのは、午後12時20分頃と思われ、二階のファーストフード店が出火元と思われます。中には逃げ遅れている人が少なくとも五十名はいる模様です』

「ゼル、ちょっと行ってくる」

「分かったよ。でも大丈夫かい?」

「大丈夫よ。変身するくらいの魔力はあるわ」


 そう言うと、俺は目立たないように店の裏口から出て変身した。


 今日は本当についていないと思う。つい数時間前には変な男達に絡まれ、今は……


「駄目だ!火の回りが早すぎる!出口に向かう通路はもう塞がれてる!」


 燃えるショッピングモールの中にいる。


「うぇぇぇん!ママーーー!」

「大丈夫だからね……直ぐに消防士さんが助けに来るから」


 私を含め五十五人程が逃げ遅れ、最上階である四階の防火扉で塞がれた通路の端の部分に逃げ込んだ。ここにいる人達は老若男女様々で、全員が「すぐに助けが来る」「大丈夫だ」と励ましあっている。しかし、内心どこかで諦めている部分はあるのかもしれない。消防署はここからどんなに飛ばしても二十分はかかるだろう場所にある。それに今回の火災は異常とも思えるほど火の回りが早かった。もしその後もそのペースで燃え続けるとすれば、この場所ももって十数分だろう。


(はぁ……何でよりによって私なんだろう……こんな事ならもっと親孝行しておくんだった……)


 人間死を目前にすると、恐怖よりも後悔が強くなると聞いたことがあるが本当らしい。先程から「ああしておけばよかった」「こうしておけばよかった」という考えが頭の中を駆けめぐっている。


「クソ!こんなとこにいても死ぬだけだ!」


 そんな時一人の若い男性がそう叫ぶと、窓を開け乗り越えようとし始めた。


「おいよせ!ここから下まで何mあると思ってんだ!」

「離せ!ここにいたって死ぬだけだろ!」


 飛び降りるのを必死で止める男性から何とか逃れようと暴れ、若い男性を掴んでいた手が離れた。


「キャァァァァ!!」


 その瞬間に上がる悲鳴、私も思わず窓に駆け寄り下を覗いた。すると若い男性はまるで時が遅くなった様にゆっくりと落ちていっているように見える。私が思わず目を逸らそうとしたその時、落ちていたはずの若い男性の姿が消えた。


「え?」

「き、消えた……」

「いたわ!」


 皆が消えたことに困惑する中、一人の女性が声を上げる。そして私達がその女性が指さした方向を見ると、そこには何が起きたかわからないような表情で座っている若い男性がいた。


「な、何が起きたんだ……」

「あ、あれ!」


 私はあるものを見つけて指をさす。そして全員が目を向けたその先にいたのは、真っ赤な長い髪に赤い衣装を身に纏った少女だった。


「魔法……少女」


 誰かがそうつぶやいた瞬間、その少女は物凄い速度で走り、ひとっ飛びで燃える建物の中へと消えていった。


『荒ぶる炎よ。我に従い、我が元に帰れ』


 俺は燃え盛るショッピングモールの中央付近に立ってそう呟いた。すると周囲の炎が徐々に俺の中へと吸い込まれていく。炎を司る力を持つ俺は、この姿では熱さを感じずこのように炎を取り込んで自分の魔力に変えることが出来る。


「ふう……とりあえず鎮火完了っと……あとは逃げ遅れた人たちを避難させないと」


 しかし、鎮火できたとはいえ、燃えていたこの建物の中を通って行くのは流石に危険と考えた俺は、先程人々がいるのが見えた場所へ急いで向かった。


 私は夢を見ているんだろうか……


「……………」


 建物から吹き出していた炎が建物の中央に向かってまるで吸い込まれるかの様に消えていく。そんな非現実的な事が今目の前で起きている。


「綺麗……」


 その光景に、私は思わずそう呟いた。他の人達も同じことを思ったのだろう。その光景をただ呆然と眺めていた。


「大丈夫ですか?」


 先程人影を見つけた場所にたどり着いた俺は、その場所にいた人々にそう問いかける。すると幼い少女が俺をみて口を開く。


「お姉ちゃんは魔法少女?」

「ええ、そうよ。お嬢ちゃんは怪我はない?」

「うん!」

「そう!それはよかった!他の方々も大丈夫ですか?」

「あ、ああ……君が助けてくれたのか?」

「はい、炎は私が完全に消しました。ですが、建物内はほぼ燃え尽きている箇所もあり、中は通れません。なので……」


 俺がそう言って指を鳴らすと、地面から巨大な薔薇の蔓が生え窓と地面を繋ぐ階段を生み出した。


「さて、皆さんはこの階段で順番に降りてください。もし歩くのが困難な方がいれば私が下まで運びま……」


 俺はそう言いながら辺りを見回して一瞬固まってしまった。というのもその逃げ遅れた人々の中に永瀬の姿があったのだ。


「……コホン。歩くのが困難な方がいれば私が運びますので、仰ってください」


 その後、その場にいた人は蔓の階段を降りていき、歩くのが困難な年配の男性は俺が抱えて下まで運ぶ事となった。


「改めて中を確認しましたが、他に逃げ遅れた人はいないと思います」

「そうですか。ご協力感謝いたします!」


 逃げ遅れた人々を救出した俺は、現場に待機していた救急隊に怪我人を任せ、消防隊には現場の現状などを伝える。そして来たときよりも多くの警察車両が到着して瞬く間に現場の調査などが行われ始めた。


「それでは、後はお任せします」


 俺はそう言って現場から立ち去ろうとしたが、突如後ろから声をかけられ、振り返るとテレビのリポーターらしき女性とカメラやマイク等の大型機材を担いだテレビスタッフらしき集団が立っていた。


「あの!スカーレット・ローズさんですよね!今回の火災では、迅速に消火し逃げ遅れた人々を救われたそうですね!どのように消火をしたのでしょうか?また、救助された人々の中には、炎が渦を巻きながら吸い込まれていったのをみたと言う方がいらっしゃるのですが、その辺り何か関係があるのでしょうか?どうか一言お願いします!」


 俺が何かを言う前に、矢継ぎ早に話すリポーターの女性に俺は若干引きつつなんとか口を開く。


「あ、あの!この後予定もあるので、この辺で‥‥」

「おおぉぉ!皆様!お聞きになりましたでしょうか!遂に謎多き魔法少女、スカーレット・ローズの肉声をとらえることに成功しました!」

「し、失礼しますぅぅぅぅ!!!」


 言っても無駄と判断した俺は近くのビルの上へと飛び、そのままビル建物の屋根などを伝ってその場を後にした。

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