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1.冒険者再登録にゃ

 眩しい日差しが照る中、私達はてくてくと歩いていた。

 あづい……。

 この暑すぎる火期(※暑い季節)に外套のフードを深く被りする人の気が知れない。

 まぁ、私の事なんだけど。


 早く森期(※木々が赤く存在感を増す季節)にならないかなぁ。

 いっそ、雪期(※雪が以下略)でもいいや。

 私は花期(※多くの花が咲く季節)が好きなんだけどね。


 魔法使いって記体した場所の露出が必要なんだけど、私の場合どこの露出が必要なんだろうと考えていた。

 後でナーゴから教えて貰ったけど、記体の手法と違う覚え方だから露出の必要はないらしい。

 それはこの後、魔法を乱発したせいでなんとなく気づく事でした。


 手加減の練習で歩きながら天空に向かってファイアーアローを撃ってみる。

 勿論、魔力の出力を意識して。

 結果は全然ダメで昨日と一緒。

 何発か撃ってもダメだった。

 一朝一夕にはできそうにないね。


 それは兎も角、今から向かうのはアルローってちょっと寂れた町。

 猫の森から一番近い町で普通に歩いてまる1日かかる。

 ちなみに、拠点にしてた町、フューレイクまではアルローから歩きで10日、馬車で3日はかかる。

 きっと復讐対象の彼らはフューレイクに居るハズ。


 暑さのあまり狂いそうだから少し走る事にした。

 ナーゴが四足で走って付いて来る。


 走り始めて気付いた事だけど、以前と比べて体が軽い。

 猫化の影響かもしれない。


「ちょっと全力で走って良い?」

「いいニャ、追いついて見せるニャ」


 しゅたたたたーと走ると、景色はまるで溶けた飴の様に流れて行く。

 たーのしー!なんて思っていると、もうアルローに到着してしまった。

 ナーゴもしっかりついて来てる、流石です。


「おい、お前、止まれ!」


 衛兵が私に槍を向け、警告する。


「はい、あ、お疲れ様で~す」

「お前は何者だ!?」

「人間ですけど?」

「あの速度で走る人間が居るものか!!」

「人間ですってば」


 一応、証明として口元を出してみた。


「子供……?ギルドプレートはどうした、持ってるんだろうな」

「あ~、それ夜盗に取られちゃって~。身分明かせるモノないんです」

「じゃあ、20ブロンズだ」

「はいはい」


 ちゃりーん10ブロンズ硬貨を2枚渡す。

 お金を持ってると言う事が人間である証になるなんて、変な話。

 それで、警戒を解いて「よし、はいれ」と言ってくれた。

 良かった良かった。


 さてさて、帰ってきましたアルローの町。

 ナーゴは慣れているのか、落ち着いた感じで後をついて来る。

 街中に居る時は普通の猫のフリをするらしく、体も普通の猫サイズに変化している。

 そして、話をしたい場合は人気の無い所に行くようにと言われた。


 冒険者ギルドに到着すると、私は受付までツカツカと進み、『登録したい』と言った。

 真面目そうな眼鏡をかけた受付の人が対応しようとしてくれた時、周りに居るゴツい体の冒険者が声をかけて来た。


「お前、そんなナリで冒険者になるつもりかぁ?」

「五月蠅い、良いでしょ。私の勝手よ」

「ははっ、女かよ!よーし、俺が冒険者としてやっていけるか見てやる!」

「いりませんっ」


 彼らの事は無視して用紙に名前にニヤ、職業にメイジ、特記になし、と記入して渡すと受付けの人が怪訝な顔をする。

 それを周りの冒険者が見て馬鹿にし始めた。


「ぷはっ、魔法使い?こんな厚着した魔法使いがいるもんか!嘘は大概にしとけよな!」

「本当だよ、私、魔法使えるもん」

「じゃあ、俺に撃ってみろよ。おい、受付け!それが試験代わりでいいだろ?」

「ええ、構いませんよ」


 ちょっと勝手に決めないでよ。

 私は手加減できないんだから……。

 でも、まぁ、ここは正直に言ってみようかな?


「私、手加減できないから死んじゃうよ?ねぇ、受付けの方、この人、殺しても文句ないよね?」

「ええ、構いませんよ」

「構わないのかよ!まぁ、無理だろうがな、ガハハ」


 ギルドを出て表通りで魔法を撃つ事になった。

 少し離れた場所から、最後の警告をする。


「少し上向きに撃つから、避けるなら伏せてね、じゃないと本当に死ぬからね、本当に本当だからね!」

「ああ、いつでも来やがれ!ガッハッハッハ」

「──、最後に名前聞いておくわ」

「俺の名前はデナンだ、一生覚えておけ!」


 警告はした。

 私はいつも通り、詠唱を始める。


「──精霊よ、熱く激しく燃やし尽くし、我の敵を葬らん『ファイアーアロー』!」


 その瞬間、周りが騒めいた。


「なんだありゃあ!」

「でかい、でかすぎる!」


 巨木の丸太にしか見えない矢が燃えている。

 いや、誰も矢だなんて、思ってないでしょうね。

 それを見たデナンは腰を抜かしたのか、その場から動けなくなった。

 この光景をギルドの受付の人も見ているから、もう正面に撃つ必要ないと思って軌道を上に逸らせる。


 それは、昼間の空に打ち上げた、真っ赤な狼煙の様に高く高くどこまでも昇った。

 雲を突き抜け、どこかに行ってしまい、雲にはぽっかりと穴が開いてしまった。


「だ、大魔導士様でしょうか」

「ただのメイジです!」


 ざわつく観客の一人が何かに気付いたかの様に言った。


「俺、その魔法見た事あるぞ、ちょっと前に東の森の方角で、何発も何発も空に向かって打ちあがってた」

「あ、それ、私です。手加減の練習してて、全然できてないんですが」

「あの大魔法を一体、何発撃てるんだ」

「大魔法じゃありません、ただのファイアーアローですよ~、だから殆ど無限に撃てますよ」

「いや、ファイアーアローでも10発撃てたら良い方だろう」


 そこまで聞いてデナンは平謝りをしてきた。


「もう生意気な事は言いません!師匠!」

「弟子持ったつもりはないし!」

「じゃあ親分!!」


冒険者ギルドの通過儀礼、所謂『いつもの』です。

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