8.歯車が狂い始めた(ローン視点)
俺達、パーティ・フォーチューンナイトは珍酒・マタタビ酒を納品すると同時に、ニヤの死亡をギルドに報告した。
「と、言う訳なんだ。1年目という節目にこんな事になって残念だよ。それでこれがアイツのギルドプレートだ、預けてる荷物は全て俺らに譲渡すると言われているのだが、受け取れるか?あと、メンバーを補充したいから、紹介してくれ」
そうして渡された荷物には、少しのお金と、錬金術の道具に着替えといったロクでもない物ばかりだった。
殆どを問屋に売り払い、はした金を手に入れた。
それで多少なりとお金を手に入れた事をリーンが嗅ぎ付けて声をかけて来た。
「いくらになったのかしら?少しはこっちにも回してよね。魔法使いはお金かかるんだから」
「ネックレス以外は碌な物無かった。本当にはした金さ、一体なにに金を使っていたのやらだ」
価値があるかはわからないがネックレスだけは売らなかった。
装飾が少ないが何か効果がある様に感じた。
その内、鑑定すればいいかと思い、リュックに放り込んだ。
「そうそう、新しいメンバー連れて来たわよ」
新しいメンバーは小柄で明るい感じの、少女とも少年とも思える感じだった。
ただ、ひたすら真面目な感じのニヤとは違い、パーティの雰囲気も明るくなるかもしれない。
「始めまして、レミーです。荷物持ちしかできませんが、よろしくお願いします!」
「そうかぁ、よろしくな」
「はい!」
「それで、次のクエストは良いのがあったか?」
「ええ、あったわよ、それはね──」
***
俺達が拠点にしてる町はフューレイクといい、クエストの場所はそこから北西に向かって馬車で3日程の所にあるココボルドの森、方角で言うと猫の森の真反対になる。
残念ながら近くに町が無いので辻馬車を途中で降りる事になり、帰りは、通りすがりの辻馬車に拾ってもらう事になりそうだ。
その辻馬車で移動する際の最初の夜で、トラブルが発生した。
「レミー、俺らのキャンプの設営はまだ終わってないのか!」
「私がするのですか?それならそうと最初から言ってくださいよ」
「前任者は言わなくても率先してやってたんだよ!お前もそれくらいやれ!」
俺達が13歳未満の冒険者をパーティーに入れる理由、それはギルドの制度にあった。
駆け出しをパーティーメンバーにする事で、ギルドランクアップのプラス補正が貰える。
それ以上でもそれ以下でもない。
本来は、無知な冒険者に教え込むのが目的の制度なのだが、ニヤはその点、教える必要が無かった分、感覚がずれていた。
ただ、ニヤの場合どうも、俺に執着しているのでストーカーになっても困る、それならいっその事と思い魔力タンクを欲しがっているという噂の猫の森のクエストを受けたのだった。
結果は代金はなしの上、さらに秘酒とされる酒まで譲ってもらえた。
その結果、俺達は多額の報酬が貰えたのだ。
「おい、飲み物と食事の用意はどうした」
「それも私がするんですか?それならそうと最初から言ってって言ってるでしょ」
「前任者は言わなくても率先してやってたんだよ!お前もそれくらいやれ!」
「じゃあ後は何をやったんですか!」
「うっせー、出来る事は何でも率先してやれ!」
そしてこの、レミーはやれと言った所で出来る訳ではなく、何度か教えてようやく理解した。
それも程度は低く、食事に至っては常に何かが多くてまずかった。
この日なんて、塩が多すぎてまともに食べれなかった程だ。
次のトラブルはメイジのリーンとクレリックのレインからだった。
「ねえ、最近ポーションの値上がりが酷いんだけど、こっちの報酬の分配増やしてよ」
「あ~~~、ポーションかぁ、レミーも作れるって言ってたよな」
「作れますよ」
「じゃあキャンプの度に作ってくれないか?」
「え?無理ですよ」
「どうしてだ、前任者は作ってたぞ」
「錬金術の道具がありません、それにあの道具重いんですよ、あれを持ち歩くなんてとんでもないよ、もし必要なら町にいる間に言ってください、それでも作れるのは1日1本程ですよ」
「前任者は1回の休憩毎に3本は作ってたぞ、日に10本作る事もあった、どうしてできない!」
「その人が異常なんですって!尋常じゃないですよ!あ、もしかして、その人ってあの人ですか」
「あの人?」
レミーは推測を語った。
最近、ポーションが値上がりしている理由。
それは前任者のニヤが1年前まで毎日毎日何十本ものポーションを納品していて、相場が安くなっていた事から始まっていた。
ギルドも在庫が豊富になった事で値段を下げていたのが、俺らのパーティに入った事で納品が無くなった。
供給が絶たれ、自然にポーションが値上がり、それはニヤが納品する前よりも深刻な値段になっていたのだ。
それもそのはずだ、値段が安いポーションを頼りにしてた冒険者が増えていた。
強いては、ポーションが安いという触れ込みでフューレイクの町の冒険者自体が増え続けていたのだ。
「リーン、レイン、お前ら今回魔法を極力使うな、恐らくポーション頼みにしていると赤字になるぞ」
「えええ、じゃあ報酬の分配は?」
「変更しない」
「「えー!」」
森に入って何度か戦闘するとバルドが文句を言っていた。
「おい、コイツ裁縫できないって言いやがるぞ。使えねえ!クビだクビ!」
「裁縫なんて出来る訳がないでしょ!そんなのできるなら職人になっていますよ!」
「もうメンドクセエ、リーン、レイン、お前らは裁縫できないのか?」
「「むりーーー」」
「だってさ、バルド、諦めろ」
「マジカヨ」
そうして、俺達の雰囲気は最悪な状況になっていった。
主人公が相場をかき乱した罪の疑い