5.帰り道にゃ
場の雰囲気と言うのは恐ろしい物です。
飲めないのにみんなが飲んでると飲める気がする。
ニヤは楽天家だから、流されやすいみたいです。
ラットランド兵との戦いが終わり、村に帰る途中にナーゴを見つけた。
「ナーゴ、もしかして心配で付いて来てくれてたの?」
「バレては仕方ないニャ、猫神様の花嫁に何かあっては一大事だから離れて見守ってたニャ」
「じゃあ、私の魔法もみてくれた?」
「見事でしたニャ。これでこそ猫神様の花嫁に相応しいニャ」
「そ、そうかな、あははは」
今まで魔力タンク以外で褒められた事が無かった分、褒められるのは正直に嬉しい。
ただ、両手を上げて喜べないのは猫神様の力が全てで私でなくても良かったんじゃないかという疑問あるから。
「ねぇ、ナーゴ、猫神様はどうしてケットシーの誰かに力を与えなかったのかな」
私が神酒を飲んだからって理由なら、ケットシーの誰かに飲ませて嫁にして嫁にしたら良いと思った。
私みたいに中途半端な猫人間が嫁になるよりはるかに良いハズ。
ナーゴはその質問に、さも当然の様な表情で答えを返した。
「ケットシーは全員、猫神様から力を貰ってるニャ。ニヤだけに与えた力ではないニャ」
「え?だって、他の人の威力が全然違うよ?何が違うの?」
「そんな事までは知らないニャ。そもそも魔力供給技能持ちは魔法適性が高いニャ」
「じゃあ、これって私の才能だったって事?」
「そうニャ、自慢してもいいニャ」
「そっかー・・・えへへ・・・」
ちょっとは自信持っていいのかな。
嬉しいな。
誰かに頼らなくても生きて行ける。
今までと違うんだ。
「ニャニャニ!?ニヤ、どうして泣いているのニャ?嬉しくないのかニャ?」
「ニヤ、大丈夫かにゃ?」
「あれ?涙、出てる、あははは、嬉しいよ。嬉しい。ホントに嬉しいよ」
ナーゴとミーちゃんが心配そうに見守る中。
私は9年振りに泣いた──
最後に泣いたのは両親が起きれない程衰弱した時。
魔力が枯渇する恐ろしい流行り病で私の村は私を残して全員死んだ。
当時4歳の私は遺体を動かす事も出来ず、お墓も作れなかった。
それから2年近くは村の備蓄倉庫で凌いだけど、村に夜盗がやってきて状況は一変した。
彼らは小さかった私を捕まえ、奴隷として売る事にしたのだ。
フューレイクの町に連れてこられた時、隙を見て逃げ出した。
それから夜盗が町を去るまで、昼は夜盗に怯えひたすら飢えに耐え、夜にゴミ漁りをした。
夜盗が町から居なくなるのはすぐの事だった。
そうして、私は晴れて浮浪児となった。
この時点で奴隷になっていないだけ私は幸運だったに違いない。
それからは惨めなりにどうにか生き続けた。
やがて魔力屋という定職に就いたり、錬金術の師匠に出会って教わったりした。
それからあのパーティとの出会ってここに居る。
そんな誰からも必要とされない私が魔法で人の役に立った。
幼い頃から憧れた魔法使いなれた。
そして私を必要としてくれる──
もう、このまま捕虜や奴隷でもいいかなと思ってしまう程に、嬉しくなって涙が溢れて止まらなくなってしまった。
「もしかして、猫神様のお嫁さんになるのが嫌なのかにゃ?」
「そんな事ないよっ、ただね、お嫁さんになるのは良いんだけど、子供を作れる年じゃないから・・・」
「あのにゃ、猫神様は体の結びつきを求めてないにゃ」
「それじゃあ、お嫁さんの役割って何なの?」
その事にナーゴが厳しい表情で口を挟んだ。
「ミー、それ以上言う必要は無いニャ」
「ごめんなさいにゃっ」
うん~~~~?
種族関係ないなら、どうして私は猫耳生えてるのかな。
まぁ良いんだけど。
ただこれ、人間の町で住みづらいのよね。
私の今の状態は、猫科の獣人族に近い。
それはかなりの問題で、獣人族はこの国では奴隷として扱われ、高額商品とされている。
特に私みたいに人間に耳と尻尾が生えているだけなのはマニア受けするらしく、さらに高額なる。
そんな訳で、この姿を他の人に見られたら即奴隷行き。
やばいよね、元人間って言っても聞いてくれないでしょうし。
これから町に行くなら、そのリスクを考えて行動しなきゃいけない。
そうこうしている内に私達は村に戻った。
ラットランド兵の主力をやっつけた事で、みんなが大喜び。
猫神様を称え、カンパーイ!なんて言いながら、村全体の宴会に発展した。
「よーし、今日もみんなで飲もう~~」