4.魔法使いニヤ爆誕にゃ
宴会の翌日の朝、私はふわふわした気持ちいベッドで寝ていた。
それがまさか巨大な猫のお腹の上だったとは思わなかった。
「やっと起きたかニャ」
その猫は真っ白な毛並みで私の何倍も大きい。
抱き心地は最高で本当に気持ち良すぎたくらいなのに、何か酷くイケナイ事をしてしまった気がする。
でもっこの感触には贖えない~~~。
「おはようございます」
状況がいまいちつかめないでいると、離れた場所から一匹のケットシーが強い口調で言ってきた。
「そこの人間、控えるにゃ。猫神様の御前にゃ!」
「猫神様……?」
「この者は既に我の嫁にゃ、人間ではないニャ」
「も、申し訳ありませんにゃっ」
人間ではない?嫁?
そういえば、何か頭とお尻に違和感が──
頭を触ってみると、そこには猫耳が。
お尻には尻尾が生えてる!
猫人間になっちゃった!
どうしよう!どうしようもないね!でも、どうなってるの!?
「嫁ってどういう事ですか、あとこの耳と尻尾はなに!?」
「お主は神酒飲んだニャ。耳と尻尾はその影響ニャ。一生付いたままニャ」
「ああ、あのお酒がそうなの?」
「うむニャ。神酒を飲んだと言う事は、お主自身が供物となったという事ニャ。即ち嫁として奉納されたという事ニャ」
「ちょっと待って!私まだ12歳!じゃなかった13歳なったばっかり!まだ結婚は早いと思うよ~~!!」
「たったの99歳差ニャ。問題ないニャ」
えええ、もう、話になんないよ!
99歳差婚って聞いた事ないんですけど?
あ、でも、よく見ればこの猫、中々包容力のある毛並み……って、ちがーう!
とにかく、今は駄目!アイツラにぎゃふんと言わせないと気が済まないよ!
「ううう、わかったよ。嫁でもなんでもなってあげる!でも条件があるの!」
「言ってみるが良いニャ」
「まず冒険者として名を上げたい。
そして私を嵌めたパーティーの人達に復讐したい。
せめてそれくらいはやらないと、私、一生後悔するの!!
あと、結婚はちょっと待って欲しいの。
心の準備が・・・せめて体の成長が止まるまで・・・」
復讐なんて絶対無理だと思うよ。
だからこそ、意味があるのよ。
これを受け入れなきゃ狭量として批難できるし、受け入れたら結婚を無期延期にできる。
私の完璧な計略を見たか!!!
あ、でも、言った内容は嘘偽りのない本心だよ。
そして、猫神様はその事に深く同情してくれた。
「わかったにゃ、それを成し遂げるまで待つにゃ。その為の力を授けるにゃ!!」
猫神様が大きく可愛らしい手を掲げ、放たれたまばゆい光が、すーっと私の中に入って来た。
何か力が湧いて来る感じがする……気のせい?
「なにが……おきたのかな?」
「今はお主の力が必要ニャ。
少し練習がてらにラットランドの奴らをやっつけてきて欲しいニャ。
復讐をするならその後にするニャ」
「私が?ムリムリ!」
「ムリならずっとこの村に居る事ニャ、
その程度ができないなら復讐もできないニャ」
御尤もです──
***
それから私はミーちゃんと二人でラットランドに向かった。
ラットランド兵が集まる所が割と近いらしく、すぐにガヤガヤとした騒がしい声が聞こえて来た。
「ねぇ、本当に私がやるの??」
「そうにゃ。猫神様が言うならできるにゃ」
ミーちゃんが付いて来てくれたのは嬉しい。
だけど、これ、どうやっても出来る気がしないよ~~。
そんな弱気の私に自信を持って欲しいと
「最初に準備魔法を唱えるにゃ」
「魔法?」
「私に続けて唱えるのにゃ」
「う、うん」
「──にゃにゃんよ、にゃのにゃにゃににゃをにゃせ、にゃのにゃをにゃせよ『スピードスペル』にゃ!」
「──にゃにゃんよ、にゃのにゃにゃににゃをにゃせ、にゃのにゃをにゃせよ『スピードスペル』!」
ふわ~と青白い光が口の中に広がる。
これで詠唱が早くなるらしい。
「これで早口で詠唱できるようになったにゃ」
「私にも魔法が使える様になったんだ……」
「次は攻撃魔法にゃ。指二本で敵を指すにゃ。そして、こう唱えるにゃ───」
「わかった、じゃあ唱えるよ。えっと、──にゃにゃんよ、にゃくにゃしくにゃやしにゃくし、にゃのにゃをにゃらん!『ファイアーアロー』!」
ボオオオオオッという大きな音と共に生成された巨大な炎の矢が巨大すぎて地面を抉りながらラットランド兵に向かって飛んだ。
いや、これ飛んでないから!地面抉ってるもん!
そしてその巨大な炎の矢が中心にいるラットランド兵を轢き殺した!
それだけじゃない、直線状のラットランド兵を全て轢き殺して燃やした。
これは、ちょっとした虐殺ショーとしか言いようがなかった。
しかしこの魔法、なにか聞き覚えがある。
もしやと思って、リーンさんの魔法をマネて撃ってみる。
「──精霊よ、熱く激しく燃やし尽くし、我の敵を葬らん!『ファイアーアロー』!」
その魔法で生き残ってるラットランド兵を次々と轢き殺す。
効果はさっきと一緒でした。
こっちの方が私には覚えやすいかも?
「次々撃つにゃ!同じ魔法なら『レペティション・ファイアーアロー』っていうにゃ!」
「う、うん、『レペティション・ファイアーアロー』!」
そこからの事は、一方的な虐殺過ぎて語るまでもありません。
目に見える範囲のネズミは燃えて灰になった。
もう、そうとしか表現できません。
「戦いはいつも空しいわ」
「一方的な虐殺の上に初戦闘だったのにゃ」
「えへへ、その通り」
でもさ、あの魔法、絶対ファイアーアローじゃないよねっ。
だって太すぎて矢じゃないもん!巨木の丸太だよ!破城槌よりも半径大きかったよ!
しかも私の魔力の回復量程度の消費しかなかったから、実質消費0。
持久戦になっても余裕で勝てるレベル。
「その強力な魔法、猫神様の加護によるものにゃ。
猫神様は魔術の神様にゃ。
その妻なのにゃ。加護も凄いものがついてるにゃ。
さらに、その猫耳が魔法の効果を高めてるにゃ」
猫神様が放ったまばゆいものがきっとそうなのだと思う。
「もう、ラットランド兵は十分倒したにゃ。
数年は私達の村も安全にゃ。
ありがと………にゃ」
私は嬉し泣きするミーちゃんを抱きかかえ、撫でながら村への帰路についた。
本来は精霊と契約したり、魔術回路の記体が必要なのにそれも済んじゃった事になってる。
私の魔法使い人生はここから始まった!って感じだね♪
***
【ミーちゃんの補足こーなー】
・精霊と契約と魔術回路の記体についてにゃ。
一つの魔法を使うにあたり必要な工程は3つにゃ。
1)魔術回路(魔法陣)を体や手など、露出した場所に記入する。
かなり痛い。
時間が経つと見えなくなる。
記体師への依頼が必要で多額のお金がかかるにゃ。
2)その魔術に必要な属性の精霊と契約するにゃ。
結構探すのが大変。
精霊が見つかるかは運次第。
旅費がかさむにゃ。
3)詠唱するにゃ。
呪文を知らないなら、創造する。
創造には精霊に対する深い理解と親交が必要。
創造しないなら師匠とする人から教えてもらうか、闇ルートで知るしかない。
どちらも多額の(以下略にゃ
つまり魔法使いはお金持ちが多いにゃ。
本来ならニヤがなれる職じゃなかったのにゃ。
しかも、多く記体する程、皮膚の露出が増えるにゃ。
男性の場合、上半身裸も珍しくないにゃ。
ニヤの様に貧相な体じゃ誰も喜ばないにゃ。
補足は以上ですにゃ。
桁外れの力を手にしたニヤ。
魔法の申し子の誕生に猫神様もにっこり。