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7.幽霊屋敷の原因にゃ

 服を買って貰った日から毎晩、抱き枕の様に抱かれて眠る日々が続いた。

 それが嫌かと問われても肯定する程ではなく、寧ろ安らぎを感じていた。


「ニヤはここで定住するのかニャ?」

「しないけど、どうして?」

「かれこれ、1週間もここに居るニャ。冒険者としても活動しないで毎日アシーネとデートしてるニャ。もしかして、目的を忘れてないかニャ?」

「うー・・・そうなんだよねー」


 脅されて従ってた初日と違って、今となっては断ろうと思えば断れた。

 何故かそうする事が出来なかった。


「もしかして、私、アシーネさんの事好きなのかなぁ・・・」

「・・・・お金持ちに靡いてるだけに見えるニャ」

「ギクッ」

「贅沢ばかりしてるニャ。甘い物ばかり食べて太るんじゃにゃいかニャ」

「ギクッギクッ」


 そんな私の心に釘が刺さりまくりのダメージを負っている時に部屋にノックの音が響いた。


「やほー、今晩も来たよ~」


 ノックの返事も待つことなく入って来ては、私を連れてベッドに誘った。

 私もそれを拒絶する事無く、横になった。

 抱きしめられ、胸囲の格差を思い知らされながら、眠りにつくのが最近の恒例行事でした。


「また来たんですね、アシーネさんって普段何してる人なのですか」

「いやあ、一応これでも研究者なんだよ。錬金術のエキスパートなのさ!}

「へえ、私も多少の錬金術は使えますよ」

「ほほぅ、ならば何か独自に編み出した錬金術を披露し合おうじゃないか」

「それって、秘密にしてくれるの?」

「勿論だ、先ずは私からだな──この紙でいいか。さらさらーっと・・・」


 アシーネさんはサイドテーブルに置いてあったメモにレシピを書き始め、効能まできちんと記載する。

 それは私の知らなかった分野のレシピで少し興奮してしまう。


「───そうなんだ、なるほど、そういう事が出来るんですね」

「そうなんだよ、姉に取り憑かれてから気づいた事なんだ。これは人類にとってはどうでもいいかもしれんが、私にとっては重要な一歩なんだ」

「それで、お姉さん静かなんですねー、ちょっと気になってたんだよ」


 ほぼ筆談で行われた情報交換。

 盗聴防止対策の一つで、研究者はそうしてる人が多い。

 口頭での会話は何処からか漏れてしまうのが、この世の情報だそうです。

 特に錬金術界隈は。


 アシーネさんのそれは、幽体を眠らせるお香の開発に成功したと言う話でした。

 それに倣って私も筆談で、技術をアピール。

 と言っても、特殊なポーションの作り方の話で、錬金術とは微妙に違うのですけどね。


「なーる程な、苦くないのなら最高じゃないか、だがそれは誰でも出来る訳ではないのだな、残念だ」

「あはは、真似は出来ないねー」

「いや、嬉しいな、こんな話が出来るとは思いもよらなかったよ」

「・・・そうですね」

「ちょっと昔の話を聞いてくれるか──」


 アシーネさんは少し表情を曇らせて語った。


 子供の頃、姉は霊障体質で無意識に幽体を引寄せてしまい、周りや自分を傷つけてしまっていた。

 アシーネさんはその事をどうにかしたくて、錬金術の研究を始めた。

 ただ、錬金術とは言え、霊関係の技術というのは周りから薄気味悪がられ、話をしてくれる技術者は居なかった。

 その事により孤立し、人と関わる事をしなくなった。

 研究と被害を抑える為に、町から離れた屋敷に姉を隔離して研究は続けた。

 そんな状況に、父親くらいの年の男が訪ねて来た。


 彼はハーレチ男爵と名乗り、霊に関して共同で研究して欲しいと申し出てくれた。

 それから、研究はちょっとずつ進んで行き、次第に姉は以前よりも明るい表情を出す様になった。

 男爵と私は徐々に仲が良くなり、お付き合いしたいと考える様になった矢先、私は見てしまった。

 男爵と姉が目合ひ、特別な関係になっている事を。


 それから、しばらくは研究に熱が入らなくなった。

 男爵にも会わず、今のこの屋敷で少し酒に溺れていた。

 よくよく調べればハーレチ男爵はこのあたりの領主だったんだ。

 最近、領主が変わったと聞いていただけで知らなかったんだよ。


 だが、男爵は既婚者だった。

 問い詰めると、妻とは別れると約束してくれた。

 その直後、姉は死んだと知らされ、町から離れた屋敷は入れる状況になくなり放置される様になった。

 それから私の研究はこの部屋で進めた。

 次第にこの部屋自身が呪われしまった。


 それ以来、男爵とは会えていない。

 殺した張本人だと言う事は分かっているのに、それを立証する方法がない。

 そして、自分の非力を呪った。


「あの、仇討ちはしないの?」

「しても仕方がない。相手は貴族、ここの領主だ、どう考えても勝ち目はないよ、悔しいけどね」


 その日、心はざわつきながら、いつも以上に強く抱きしめられて眠りについた。


男爵、この時は美形だったんですよ。

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