表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/80

バルトワの恋?

 あの後、ガウスはどうなったかは、翌朝に門兵が訪れ事情聴取で聞かされた。

 フードの女性が自ら出頭したそうだ。


 何のお咎め無し、というわけにはいかなったけど、マリオネットで操られていたのだ。

 アルトとも友人のようだったし、減刑を望む。


 ガウスとは何者だったのか、後で聞いた話によると。

 南にあるソリルージュ領の領主の次男で、予想通りに性格も評判も悪かった。

 アブソーブションを悪用し、様々なスキルを奪い、その結果が身の丈に合わない時間干渉を得ての暴走。

 ガウスは、もう一生を牢獄で終えるだろう。


 アルトは、自分はソリルージュ家とは疎遠で、言い方は悪いけど、ガウスが手あたり次第に産ませた子供の1人。

 エルフォードへ行こうとしたのは、アブソーブションの呪縛から逃れるためでもあったかもしれない。

 皮肉にも、そのおかげで僕達は出会えたのだ。

 その点についてだけは感謝しよう。


 そして、サリアとアルトは遠縁に当たり、代々続くルージュの血を2人は持っていた。

 サリアが以前、会っていたのは、子供の頃にどこかで会っていたかもしれない。

 クラッシュダミーで作った、子供の頃を見せたら思い出していた。

 窮地を救ってくれたサリアに感謝だ。

 あとで何か買ってあげよう、安い物を。


 そんな話を、その日の夕食を摂りながらしていた。


 メンバー全員の顔触れが揃い、食べ物を奪い合う姿、些細な事で言い争う姿に、僕は自然と顔が綻ぶ。

 鼻先をフォークがかすって飛んで行ったが気にしないよ。

 今は気分が良いからね。


 サリアがフォークを拾い上げ、顔を上げた時に気付いたのか、僕の頬を指さした。


「パンくずが、ほっぺに付いてるわよ」


 ほっぺ!?

 キスの事を思い出してしまい、すぐに頬をはたく。

 耳に熱がこもるように感じ、赤くなっているかもしれない。

 それにしても、パンがほっぺにくっつくとは、なかなかしつこいパンである。


 レナは食卓の上のパンを取った。


「ほっぺぱんって良いわよね。具材が乗せやすい」


 アルトは訂正する。


「こっぺぱんですよ、これ」


 !?、く、ちょっとした事で意識してしまう。

 というか、なぜレナはそんな間違いをしたんだ。

 もしかして、知っていてわざとか?

 レナの顔色を窺って見るが、表情はいつもと変わらない。

 相変わらずのあほ、いや凛々しい顔立ちだ。


 落ち着け僕。


「ははは、レナもおっちょこちょいだね。ほっぺぱんって面白い」


 レナは唇を突き出すと、自然と唇に目が行ってしまう。


「そうよね。名前が似てたし、ほっぺの硬さと同じくらいで勘違いしちゃって」 


 アルトが料理の感想を言えば「シチュー美味しい」、チュー!?


 カエデが「隙だらけだ」と僕の肉を奪えば、スキ!?


 サリアがその様子を見て「カバね、あ、間違えた。バカ」、スキを逆さにするとキス!?


 レナが僕の頬を指さし「もー、ほっぺに注意してよね。シチューが付いてるわよ」、あばばばッ!?


 間違い方があざとい。

 遠回しに、全員で僕を陥れようとしているのか、もしくは時間干渉の暴走で、実は別の世界に来てしまったのかもしれない。


 ここは空気を変えなければ。


 無関係そうなバルトワさんに救いの手を求めるが、どこか上の空のようで、食事にも手を付けていない。

 どうしたのだろう?気になったので、僕は小声でレナに聞いてみる。


「バルトワさんの様子がおかしいけど、どうかしたの?」


「さあ。アルトの事で精一杯だったし、戻って来た時から、ずっとあの調子よ」


 もう一度、バルトワさんを見て見ると、今度はニヤけていた。

 ちょっと気持ち悪い。


 アルトも小声で会話に参加する。


「あれは恋ですね。Likeではなく、Loveの匂いがプンプンします」


 そうだろうか?

 なんでもかんでも、恋愛と結びつける恋愛脳のアルトのことだ、直観か想像だけで考えてそうだ。


 全く。



 そして次の日の朝を迎えた。


 朝食を済ませ、宿を出るスーツ姿のバルトワさんを追うレナとアルト。

 どこに向かうかと思えば、花屋で花束を購入し、街の中央にある噴水広場へ。


 え?なんで見た様に話しているかって。

 気になって付いて来ちゃいました。


 僕達は建物の陰に隠れている。

 アルトは、スキンヘッドを気にするように触るバルトワさんを見て。


「ほぉー。花束にあの身だしなみ、デートですね、これは」


 スキンヘッドを気にする必要はあるのだろうか、はさておき。

 十中八九、異性と会うのは間違いないだろう。

 同性だったら、僕はバルトワさんと距離を置かなければならない。


 レナは鼻息を荒くし、僕の頭に息がかかっている。


「誰が来るかな?やっぱり貴族?それとも平民?それともすっぽかされる?」


 最後の悲しい結末だけは、勘弁して欲しい。

 もしそうなったら、バルトワさんを慰める会でも開いてあげよう。


 しばらく待っていると、カエデが噴水に近づいて行く姿があった。

 まさか!?相手はカエデなのかッ!

 と思ったが、軽く手を振って挨拶しただけで、そのまま素通りして行った。

 僕は安堵のため息をつく。


 次にやって来たのは、衛兵の1人だ。

 同じくスキンヘッド、いや、やや毛はある髪に、バルトワさんと同身長に同等の体格。

 僕は強く願っていた。


 やめて、この人だけは。


 衛兵は足を止め、会話をし始め不安が膨らむ。

 ただ、花束を渡す素振りもないので、どうやらただの尻合い、あ、ちが、知り合いかもしれない。

 そう思っていると、衛兵は膝に手を当てて笑った後、去って行った。

 膝が悪いのかもしれない。


 そして、ついにその時が訪れた。


 やって来たのは、ギルド受付嬢のカイラさんだ。

 まさか、彼女なのか?妹というオチではないのか!?


 カイラさんがバルトワさんに近づき、花束が渡された。

 レナが身を乗り出し、僕におぶさるような形になり重い。


「え?えー!まさかの、えぇー!」


 アルトは目をキュピーンと光らせ、勝ち誇った表情をした。


「ふふふ、私の目に狂いは無かった」


 勝負などしていないのに、なぜか負けた気分だ。

 まあ、これでモヤモヤは消えたのだ。

 僕達もそろそろ消えようとしよう。


 そう思って振り返ると、2人の姿が見えなくなっていた。

 いつの間にかアルトとレナの姿も無く、後を付いて行く気満々のようで、スパイさながらに陰から陰に移動している。


 もう、しょうがないなー。


 2人が2人の邪魔をしないよう、監視しないとならなくなったじゃないか。

 ステルスを使用して、僕も後に続いた。


 仲睦なかむつまじい様子で、笑顔で会話をしている。


 ハイヒールを履いていたせいか、石畳で躓きそうになるカイラさんの手を取って支えてあげたり。

 馬車が通る際には、身を挺して守る動作をしたり。

 怪しい男が声を掛けて来たら追い返したり。


 なんか、あまりの紳士っぷりにイラっとした。


 アルトは楽しんでいるようで、男が追い払われる時に。


「いけー、やれー、倒せー」


 と剣闘でも観戦しているように、はしゃいでいた。

 暴力は行けない。


 男はレナにも声を掛けて来た。


「お姉ちゃん、可愛いねー」


 レナは無視していたが、しつこいので仕方ない。

 僕はクラッシュダミーで、ネクロマンサを出して威嚇してあげた。


「ひっ」


 男は悲鳴をあげて逃げて行く。


 それにアルトはなぜか怒り出す。


「私には声を掛けなかったんですけど!」


 それはどうでもいい。



 しばらく歩き、2人が到着したのは教会だった。


 レナは「お祈り?」とだけ。


 アルトは「結婚ですか!?」と、超展開を期待している。


 流石に結婚はないと思う、それなら隠す必要もないし、僕達にも一言あって良いだろう。


 教会の前には、珍しく多くの人がいた。

 スーツやドレス姿の人が多く、中にはおめかしをした子供まで。

 結婚式があってもおかしくない状況ではある。


 カイラさんは、入口前で花束を関係者に渡し、話をしている。

 その横でバルトワさんは、いつもの笑い声を響かせていた。


 しばらくして話を終え、2人は教会に入って行く。


 関係ない僕も入って良いのか迷っていると、アルトとレナは臆することなく、まるで関係者ヅラで突入して行った。

 図太過ぎる神経に呆れてしまう。

 恐る恐る僕も続いた。


 街の教会は、30人程が入れる小ささだった。

 長椅子が並び、天井に採光窓は無く、両脇の窓から明かりを取り入れている。

 ステンドグラスもなければ、神の象も、豪華な装飾品も見当たらない、質素な構え。


 アルトは参列者に声を掛けられても冷静で。


「この度はおめでとうございます」


 完璧に振る舞っている。

 これでお葬式だったら最悪だけど、笑顔溢れる和やかな雰囲気なので、それはなさそうだ。


 バルトワさんと、カイラさんは最前席に近い席に座り、残りの参列者も席に座る。

 席が新郎側なので、新郎の関係者なのだろう。


 やがて式は始まり、白いスーツを着た新郎の入場。

 続いてバージンロードを歩き、白のウェディングドレスに、ベールダウンした新婦の入場が始まる。


 レナとアルトは黄色い声を上げた。


「「キャー、奇麗」」


 もはや隠れる気はゼロのようだ。

 司祭の咳払いで注意され沈黙する。


 バルトワさん達は気にしていないのか、気づいていないのか無反応。

 式が始まってしまったのだ、騒ぐわけにもいかないだろう。


 そして、結婚式はおごそかに行われ、誓いの言葉に、指輪の交換、結婚証明書からのキスの流れだ。

 キスの場面で僕は、チラリとアルトの方を見たけど、アルトは目を輝かせているだけで、特に反応はなかった。


 新郎新婦が再びバージンロードを歩き外に出ると、フラワーシャワーの祝福が待っていた。

 もうレナとアルトは、式に興味が移ってしまったようで、完全にゲストになってしまっている。


 お待ちかねのブーケトスにまで参加しようと、ひしめく女性達の中に混ざり始めた。


 何を考えているのか、知人でも友人でもないのに迷惑すぎる。

 力尽くで排除しようにも、式で暴れるわけにもいかない。

 すでに新婦は、背中を向けてしまっているし、後は運にまかせるしかない。


 投げられるブーケ。


 修羅の形相に変わった女性達の熱いバトル。

 あっちやこっちにブーケが飛び跳ね、落ちようとした場所はアルトの目の前だった。

 僕はすかさず、風魔法を使用してしまっていた。


 するとブーケは風に飛ばされ、運命にでも吸い寄せられるように、参加していなかったカイラさんの胸元に落ちる。

 驚いたものの、受け取ってしまったのはしょうがない、という表情に変わり、バルトワさんの方を見て微笑する。


 なかなか良い雰囲気に見えたのは、僕の気のせいだろうか。


 さて、戦場で散ったアルトはと言えば。


「無念。あと一歩。いえ、一手届かなかった」


 と地面を叩きながら悔しがっている。


 レナは、それほど欲しくは無かったのか「残念」と一言だけ。

 なぜ、参加した。


 そこで、僕達に声を掛けて来たのはバルトワさんだった。


「ん?皆も呼ばれていたのか?」


 呼ばれていないです……。

 アルトは誤魔化すように感想を述べている。


「いやー、良い式でしたねー。途中で新婦を奪いに来る、男が現れなかったのは残念でしたけど」


 現れたら困る。

 冗談と捉えてくれ、バルトワさんは笑う。


「ガハハ、それはそれで面白そうだ。この後の披露宴で余興の1つにしてみるか」


 ああ、アルトのせいでとんでもない披露宴にならなければいいのだけど……。

 カイラさんも僕達に話し掛ける。


「それにしても驚いたわ。まさか、あなた達も親族だったなんて。

新郎とは、どんな間柄なのかしら?」


 レナは諦めたのか、項垂れて小声で返す。


「じ、実は、他人です……」


 カイラさんは驚き、開いた口を手で押さえ。


「あら、やだ。知らない人の式に参加しちゃったの」


 そう言った後に笑ってくれる。


 僕達は頭を下げ。


「「「ごめんなさい」」」


 声が重なった謝罪をした。

 バルトワさんは気にする様子はなく。


「良いじゃないか、祝福してくれる人は、多くても構わんだろう」


 カイラさんも笑顔のまま。


「私達に謝られてもね。まあ、新郎か新婦を奪いに来たわけじゃないし、許してくれるわ、きっと。

それじゃあ、私達はこれから披露宴があるから、ここで」


 その場を後にしようとする、2人にアルトは声を掛けてしまっていた。


「お2人は、どういった関係ですか?」


 直球だ。


 2人は顔を見合わせ、バルトワさんは両腕を組んで考えた後に答える。


「新郎の従兄弟だが」


 次にカイラさんは。


「新郎の友人よ」


 ふむ、どうやら血縁関係はないようだ。

 これで2人が、もし、もしも、万が一、結婚というのがあっても、おかしくはないかも。

 それ以上の事を聞くのは無粋なので、これだけにしておこう。


 2人はこの場を後にし、残された僕達はすることもなくなった。


「うーん、モヤモヤが残っています」


 アルトはそう呟く。

 レナは背伸びをした後。


「昼食にでもする?」


「良いですね」


 アルトは調子良く返事をした。


 あとはそう、ブーケにでも託そう。


 2人が結ばれるとは限らないけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ