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ギルドでのお仕事

 ギルドに着いた僕は、早速受付へ向かう。


 受付にはルイさんという、細見で奇麗な女性が立っている。

 20代後半で身長は165cmくらい。

 メイド服にも似た制服をフワリと着こなし、手入れの行き届いたサラサラの金髪が腰の長さまで伸びる。

 まさに完璧な受付嬢、と言いきりたいとこだけど。


 先に用事があった冒険者の1人が話を終え、ギルドの外に出てから挨拶すると。


「ルイさん、おはようございます」


「おはよ。だるい、帰りたい、寝たい、仕事したくない」


 と、さきほどの緊張感は一気に消え失せ、受付テーブルに突っ伏した。

 とめどなく怠惰の言葉が溢れ出していた。


「もうちゃんとして下さい。ギルマスに知られたら怒られますよ」


「それは困るなー。ちくったら殺す、2回殺す、末代まで殺す」


「いや殺しちゃったら、末代もなにも次代ないですから」


「あー、たしかに。そこまで頭が回らなかった。

というわけで頭のいいナユタ君、仕事を変わって。

これは命令です、拒否権はありません」


「どういうわけでですか、僕に受付の仕事なんて出来ませんよ」


 ルイさんは自分の制服を触りながら、意地悪そうな顔をした。


「そう?以外に似合うと思うんだけどなー、このせ・い・ふ・くー。

ほら、なんだかんだ言って、レベルに比例して男らしさ皆無の小柄のナユタじゃない。

それに合わせた童顔、まあ実際に若いけどね、その若さが憎い。

うーん、髪の長さは流石に短すぎるから、ウィッグで肩まで伸ばせばいけると思うの。

いや、いけるはず!」


 そう言って獲物を捕らえる目に変わったルイさんは、両手をワキワキと動かし捕まえようとする。

 すぐに身構え、距離をとる。

 とりあえず本題に入らないと、女装させられかねないし、話は始まりそうにない。


「今日の仕事は、何からすればいいでしょうか?」


「私の接待」


「お、お金貰えるのであればやりますけど」


「え?本当?いくら?銅貨1枚で一生奴隷?」


「安すぎ!遠慮しときます」


「遠慮するなー。はー、喋るのも面倒臭いけど、仕事早く終わらせて帰りたいし。全部丸投げしよう。そうしよう」


「そろそろルイさん投げていいですか?」


 全然、話が前に進まないので、少しすごんでみた。

 ルイさんは頬杖をついて、ほんのわずかだけやる気を出す。


「触ったらセクハラよ、まあいいわ。

まずは倉庫にある素材の運搬に、各店舗を回って注文していた品物を貰って来て。

その際は必ず請求書など書類に不備がないか確認すること。

いい?少しでも計算ミスがあれば分かるわよね?」


「ぞ、存じております」


 銅貨1枚でも額がずれれば徹夜確定だろう。

 細心の注意をしなければ、命の危険で僕は夜を越せないかもしれない。


 一連の漫才のようなやり取りをし、やっとギルドでの仕事が始まったのであった。


 ギルドの仕事というからには、採集依頼や討伐依頼、ダンジョン探索を考えた人もいるかもしれない。

 けれど冒険者登録ができるのは、レベル10からと厳格に決められており、もちろん達していない僕は、冒険者登録できず雑用しか出来なかった。

 それでもいつかは、と鍛錬を続けているわけだけど。


 荷車に素材を乗せれるだけ積み込み、町の中を走り始める。

 レベルアップしたおかげか、体調は万全だ。

 むしろ上がったステータスのおかげか、それ以上と言っていいかもしれない。


 これで魔法や身体強化のスキルでも使えれば、さらに楽になるんだろうけど。


 走りながら魔法について考えてみた。


 まず魔法とは、この世界に流れる魔素という見えない物質を感じ、コントロールすることで発動できる。

 身体強化のスキルも同様で、魔素を体内に取り込むことで、発動させることができる代物だ。


 身体強化については、発動条件であるトリガーは、まだわかっていないけど、使えることから問題はないと思う。

 けど魔法については、やはり素質だろうか、使うことが出来ない。


 いっそのこと精霊や神様でも現れて。


『君、無理だわ。無い無いないわー』とでも言ってくれれば諦めもつくのだろうに。


『お腹をすかせる魔法の練習して帰って来なさい』


 魔法のことを考えていて、ふと朝のミレイユさんの言葉を思い出した。

 一見何気ない日常のあらゆる動作も、魔法という概念の一つではないだろうか。


『ザザッ。肉■■作獲@#?*ザッ。』


 突然、視界に映るノイズと声が頭の中に響く。

 この感覚は、あの時の自動スキル発動に似ていた。


 思考が追いついていけない。


 注意散漫になっていたようだ。

 ノイズの上に白い何かが覆い被さり、視界が完全に塞がれる。


 緊急停止!


 顔に張り付いてきた白い物を手に取り、思わず赤面してしまった。

 それは布で、女性物のパンツだったからだッ。


「すみません!洗濯物がー」


 民家の庭から、若い女性の声が聞こえてくる。

 状況からいって、これはそれであれなのだろう。


 慌てて駆け寄ってきた女性に、気まずい雰囲気のままパンツをお返しした。

 先ほどのノイズの事を、忘れるには十分な出来事だった。

 すっかり、そのことを気にせず再び走り出した。



 仕事を終えギルドに戻ると、何やら中が騒がしい。

 スイングドアを開け、おそるおそる中へと入って行く。


 カウンターの前に、この町では誰もが知る、Bランク冒険者の戦士”ダグラス”がいた。

 いかにもThe戦士という高身長に肉体、いくつもの傷。

 いかつい顔面もプラスされ、バーサーカかと思わせるほどの脳筋だ。


 他には3名の冒険者が、やり取りを見て震えていた。

 ダグラスが受付カウンターを強く叩き、まくしたてる。


「このダグラス様がやれと言ったら、やれ」


「そう言われましても、すぐに出来る案件ではございませんので」


 お仕事モード中のルイさんが、ご説明されておられます。


「今日中に金がいるんだ、つべこべ言わずやれ」


「しかし、これは依頼案件でございます。依頼を受けずに達成されましても、すぐにとは行きません」


 ギルドに依頼される案件は、いくつか種類がある。


 常時案件は、依頼を受けずとも案件が解決し、報告すれば依頼達成となる。


 いっぽう依頼案件は、依頼を受けてから必要なら依頼主とも話し合い、その後に案件を解決すれば達成の流れだ。

 依頼案件は、報酬額、限度額などを考慮し、他者と重複しないよう配慮した形式でもあり

 冒険者同士、金銭問題が発生するのを防いだりする。


 他にもあるけど、今は必要ないので省略。

 今は目の前のいざこざの対応だ。


「話にならねぇな」


「お話になりませんわね」


 ルイさんの顔が曇り、暗黒の門が開きそうな気配。

 僕はあわてて2人の間に仲裁に入る。


「ダグラスさん、まずは落ち着きましょう」


「なんだ冒険者にもなれねぇ雑魚が、ガキはひっこんでな」


 少し頭にカチンと来たが、務めて冷静に対応する。


「まずはどうでしょう。入用でしたらギルドからの借り入れを考えては?」


「残念ながらダグラスさんは、限度額を超過しております」


 提案にルイさんが即答する。

 信頼のギルドでの超過、これはすでに町金でも借りていそうだ。


「それでは今から僕が、依頼主の元に向かい事情を説明します」


「無理です。依頼主は別の街に住まれていて、最低でも馬で1日かかります」


 再びの提案にルイさんが答えてくれる。


「な・の・で。お待ち頂くしかギルドとしてはできかねます!」


(ヒー!)


 ついに暗黒門が半開きになったようだ。

 半面、鬼の形相に変わったルイさんを見て、思わず声を上げそうになった。

 形的になぜか、僕がルイさんを怒らせてる感じになってるし。


「お前じゃ話にならねぇ。ギルマスか、サブマスを呼べ」


「ギルマスは不在です。サブマスは私ですので、お話は以上、ということでお引き取りを」


「終わってねえだろうが!」


 ダグラスは声を荒げ、ルイさんの胸倉を掴んだ時だった。


 目にも止まらぬほどの手刀が繰り出され、ダグラスの手が勢いでカウンターにぶつかった。

 次の瞬間には、その手は捻り上げられ、関節が決められる。


 往生際の悪いダグラスは、腰の剣に手をかけた。

 その刹那、地獄の底から這いあがる亡者のような低い声がギルドに響く。


「抜く?町中での抜刀、および暴力の禁止。抜いたら最後まで行くから」


 ルイさんの呟きと迫力にダグラスは腰からくだけ、ヘナヘナと床に座り込んでしまった。


「はい。というわけで、一応処理はしておきますので、お気をつけてお帰りをー」


 そう言われ、やっと正気をとり戻せたダグラスは、這いずり逃げる様にギルドを出て行った。


 ご愁傷様です。


 しかし、意外だった。


 Bクラスの冒険者が、まだルイさんの洗礼を受けていないことに。

 ”ギルドの地雷”、”笑顔の殺戮者”の異名を知らないことに。

 これで触れてはいけない、開けてはいけない門が、ここにはあるという事を身をもって知っただろう。


「はー……」


 大きくため息をつき、両手で頭を抱え項垂れるルイさん。

 まさか、あの一瞬のやり取りで怪我でもしたのか?

 Bランクというのは、伊達ではなかったのか?


「どうしたんですか?大丈夫ですか?」


「仕事増えた」


「そ、そうですね」


 心配は無用だったようだ。



 残務を終え、残業のルイさんの痛い視線を背中に受けながら、僕は帰路についた。



 渚停は、相変わらずの賑わいだった。


「いま帰りかい?」


 僕の姿を見つけたミレイユさんが、声をかけてくれる。


「手伝います」


「頼むよ」


 こうして、また1日が終わりを迎えたのだった。

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