2年ぶりのレベルアップ
次の日の朝。
鶏が鳴く声より甲高く、僕の声が宿中に響く。
同時に鳴いていた鶏は、逆に静かになった。
「やったあ!2年ぶりにレベルアップしてるッ!」
本当に、本当に長かった!
2年ぶりのレベルアップに、僕はベッドの上で小躍りした。
今なら、あのコボルトにも負けない気がする。
コトッ。
わずかな物音に気付き、ドアの方を振り返るとそこには。
「一応、ノックはしたんだけど、返事がないのでドアを開けてしまったよ。
嬉しいのはわかるけど、まだ眠っているお客様もいるんだ、もう少し小さな声で頼むよ。
それにしても外まで聞こえていたよ、レベルアップしたんだってね、なにはともあれ良かった。おめでとう」
その様子を、いつのまにか見ていたミレイユさんに、声をかけられ我に返る。
エプロン姿に箒を持っている姿を見ると、掃除中だったのだろう。
「ありがとうございます」
小躍りしていた所を見られていたと思うと恥ずかしい。
僕は顔を赤らめた。
「それで、レベルはいくつになったんだい?」
「はい!レベル6です!」
「え?」
「え?」
ミレイユさんは、あまりの低レベルに唖然としたのか、ポカーンと口を開けたまま、一度考えてから再度質問をしてくる。
「聞き間違いじゃないよね?」
「ろ、ろくです。シックスです……」
「あはは。ほ、ほら成長が遅い人もいるし、これからぐんぐん成長するかもしれないし」
無理やりの作り笑い。
慰めの言葉が、ちょっと痛いです。
「今日はお祝いに、まかないは豪華にしてあげるよ、デザートもつけちゃおう。
ただ、タダ飯ってわけにはいかないよ、世の中はそこまで甘くない。
デザートは甘いけどね」
デザート!?
ダジャレはひどいけど、その言葉に気を取り直し、頬を両手で叩き気合を入れ直す。
「はい。今日も頑張ります!」
元気いっぱい返事をし、勢い良く階段を駆け下り1階へ。
掃除は終わっているとのことだったので、部屋の隅に上下に積まれたテーブルを、食堂となる部屋に丁寧に並べていく。
続いて椅子を運び終えれば、次は朝食の準備だ。
ほっかむりを被り、いざ台所と言う名の戦場へ。。
木箱いっぱいに詰まったジャガイモや、ニンジンの皮を手際よく剥いていき、指定された切り方でカット。
鍋に入れた所で、竈に魔法で火がつけられた。
「ミレイユさんって、魔法は何歳頃に使えるようになりました?」
鍋が煮込まれる間の空き時間に質問してみる。
「そうだね。7歳頃だったと思うけど」
7歳か。
やっぱり、それ位で使えるのが普通なのかな。
僕の育った村でも、その年齢の頃には、使える人は半々だったようだし。
「魔法については適正もある。
産まれてすぐ使えるようになる人もいれば、一生使えない人も、今度は魔法で悩んでるのかい?」
「はい。物凄く練習しているのに使えないんです……」
「それは知ってるよ。誰かさんのせいで、『夜中にうるさい!』って苦情が来たことがあるからねー」
「すいません!夢中になると、周りが見えなくなることがあって」
僕はおたまを持ちながら、ペコペコと頭を下げた。
被っていたほっかむりが、ずれる。
ミレイユさんは鍋をかき混ぜながら言う。
「家事のことなら教えられるけど、私は魔導士でもないからこればっかりはね。
まあ頑張んなさい、努力はきっと実を結ぶ。
それはそうと、ナユタの今日の予定は、どうなんだい?夜には戻ってこれそうかい?」
「今日はギルドでの仕事があります。でもダンジョンに潜る仕事はないので、夕方頃には戻れると思います」
「じゃあ、めいっぱいお腹をすかせる魔法の練習して帰って来なさい」
「はい!」
元気良く返事をし、残りの手伝いを終えギルドへと向かった。




