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冒険者試験

 ギルド前。


 紙製のメガホンを片手に、檀上でルイさんが大声で叫んでいる。

 いつもの服装と違い、パーカーにレギンス姿。

 長い髪は紐で結ばれ、サイドテールになっている。


「試験を受ける方は、こちらで受付を済ませて下さい。

その際は書類への記入と、試験料として銀貨1枚をお支払い下さい。

同時に寄付も無制限で募っておりますよー」


 ついにやってきた試験当日。

 僕は緊張している。


 服装は自由とあったけど実技に備え、頭から足まで皮装備で固めて来たのは間違いだったろうか。

 他の参加者は皆ラフな格好だ。

 僕はそっと鎧を脱いだ。


 ギルドの外に設けられた受付に、周囲にはお祭りのように出店がいくつか並ぶ。

 応援に来たレナが串焼きを買い、美味しそうに食べている。

 気楽なものだ。


 受付席に座るダグラスがゼッケン9番と紙を渡してくれ、それに記入する。

 ギルドで働くことになったのだろうか?


「ダグラスさん、ギルドで仕事を始めたんですか?」


「えぇ!姉御にやられてから心を改めまして、一生着いて行くと決めました」


 姉御とはルイさんの事だろう。

 よほどあの事が堪えたんだなと思う。


 壇上からルイさんの大声が、直に響く。


「こらー、下僕2号!あんた年上だから、妹君と呼べって言ってんでしょうがぁ」


 おそらく1号は僕だろう。

 嬉しくない称号を貰ってしまった気がする。


 受付を済ませると、オロオロしているアルトさんが気になって話しかける。


「どうしたんですか?」


「そ、その、問題が起きてしまって」


「体調が悪くなったとかですか!」


「い、いえ。申し上げにくいことなのですが、銀貨1枚を貸して頂けないでしょうか!」


「それくらいでしたら」


 僕は袋から取り出し渡す。


「ありがとうございます!でも、これでまた借りが増えてしまいました……」


「気にしないで下さい。冒険で返してくれれば」


「倍にしてお返しします!」


 彼女は銀貨を握りしめ、受付へ向かった。


 周りを見れば僕達を含め、10名の志望者が並んでいる。

 がたいの良い戦士系の男から、ローブを着た細見の女性。

 同い年くらいに見える男の子、一人場違いとも思える老人がいるけど。

 いや、見た目だけで判断してはいけない、もしかして凄腕の人物かもしれない。


 そろそろ受付時間終了だ。


 壇上で息を大きく吸い込み、ルイさんが叫ぶ。


「お前ら冒険者になりたいかぁあ!?」


 シーン。


 いきなりの問いに全員が声を無くした。


「返事がないぞ!お前ら冒険者になりたいのかああ!!」


「「「お、おー」」」


 全員が仕方なく拳を突き上げ応えてあげた。


「よろしい。これから皆さんには、殺し合いをして貰います」


 ざわざわ……。


 まさかの発言に、その場の全員が固まる。

 互いに牽制しあうように距離を取る。

 その場に張り詰めた空気が流れた。


「というのは冗談で、緊張はほぐれたかな?」


 逆に緊張感ましたけど!

 ルイさんなりの激励のようだった。


「まず心構えとして、今から皆さんは、パーティだと思って下さい。

それと体調が悪くなったら遠慮なく言って下さいね。

まずは体力測定のランニング。

町内1週しますので試験官の私に付いて来て下さい」


 戦士男は手を上げて質問する。


「質問よろしいでしょうか?」


「スリーサイズ?」


「いえ、それも気になりますけど、スキルは使っても構いませんか?」


「構いません。ただこの後も試験は続くので、魔力切れを起こさないように注意してね。

ちなみにスリーサイズは秘密でーす。

他に質問なければ始めます」


 そしてルイさんを先頭に、ダグラスは後方に控え、皆は走り出した。


 走る速度はジョギング程度、無理のないペースだ。

 遅れてくる人は、老人を除いて誰もいない。


 町の中を走っていると、沿道から声がかけられる。


「頑張れよー」と八百屋のおじさん。

「試験に落ちたらうちに来いよ、雇ってやっからな」と大工の棟梁。

「頑張ってね」と子連れの母親。

「がんばえー」と幼い子供まで。


 余裕のあった僕は、笑顔で手を振って応えた。


 町内を半周した頃、先頭を走るルイさんが振り返って声を上げる。


「そろそろペース上げるわよ」


 言葉通りペースが上がった。

 徐々に先頭から離される人も出て来る。

 アルトさんも、その1人だ。


 中盤に居た僕はペースを落とし、アルトさんと並走を始める。


「大丈夫ですか?」


「ハァハァ」


 返事をする気力もなく辛そうだ。

 やっと声を振り絞り彼女は言う。


「だ、大丈夫です。ナユタさん、ざぎ行ってくだ」


「いえ、気にしないで下さい。一緒に頑張りましょう」


 その後は返事もなく、先頭集団からは大きく離された。

 そして曲がり角を曲がった時だった。

 驚愕の事態が発生する。


 あの老人が目の前にいるのだ。

 まさか転移の使い手なのか!?


 ただ者ではないかもしれない老人に、ルイさんが声をかける。


「はーい、おじいちゃん。周回遅れよー、無理しないでね」 


「ふがっ、ふざけるな!わしゃあ、まだまだやれるぞ。すぐに追いついて見せるわ!ふがふが」


 どうやら魔法ではなかったようだ。


 やがてギルド前に戻ると、全員が息を切らして立ち止まっている。

 両手を膝につける者や、座り込む者まで。

 最後尾の僕達も遅れて到着する。

 3kmは走ったかもしれない。


 全く息を切らしていないルイさんは、軽い身のこなしで全員に水を配り始める。


「はいはい、お疲れ様。30分の休憩後に実技がありますので、ギルドの中に入ってお待ち下さい」

 

 ありがたく受け取り、半分は飲み、半分は頭から被る。

 熱を帯びた体が冷やされて気持ち良い。

 ルイさんは僕の様子をしばらく観察して戻って行った。


「お疲れ様でした。得点を掲示板に発表します。10点満点で採点されてるので確認してね」


 僕の点数は8点、アルトさんは5点か。

 掲示板を見上げていた戦士男は声を荒げ、ルイさんに詰め寄った。


「なんで一番にゴールした俺が、最後尾だったやつと同じ8点なんだ!」 


「最初に『パーティだと思って』って言ったでしょ。

9番の子は後方を気にかけて走ったので加点しました。

あとは疲れた様子もないことから、その得点をつけました」


「そんな試験だなんて聞いてないぞ」


「試験内容は各ギルドに一任されてますから、まあ最高得点だったし良いじゃん」


 それ以降は戦士男は黙ってしまう。

 良く見ると肩を上下させ息が荒い。

 話すのもきつかったんだろう。


 休憩も終わりギルドへと入り、各々が席に座ると問題集が配られた。


「皆に配り終わったかな?名前の書き忘れの内容に注意してね、0点にするから。

それじゃあ時間は1時間です、始めー」


 問題集をめくり、まずは算数だ。

 !?

 僕は驚いた。

 『これ過去問集でやった所だ!』

 ふふふ。

 だけど油断してはいけない、ちゃんと検算をして合っているか、確認を怠ってはいけない。


 次は地理、これも国と首都の名称と、有名な山脈、川の名称と、さらに過去問にヒットする。

 もしかしたら楽勝かもしれない。


 しかし、魔法の問題で落とし穴が待っていた。

 『初級魔法をできるだけ書きなさい』は問題がなかったけど

 『各属性の魔法の対処方法を書きなさい』で躓く。

 火には水、闇には光しか思いつかない。

 風には同じ風が効果あるかも、当てずっぽうで書き終える。


 問題集2枚目に入り、僕は吹き出しそうになった。

 『モンスター名と弱点を書きなさい』

 この問題が可愛いイラストで、手書きで描かれていたからだ。

 おそらくルイさんが描いたのだろう。

 下手で解り難いのもあるけど、合っているのを祈ろう。

 はずれたらいちゃもんをつけてやる。


 最後はギルドについての問題だ。

 ここで仕事をしていた僕には楽勝、これでよし。

 残り時間は、間違いがないか再度チェックし、やがて試験は終わった。


 得点の張り出される掲示板の前では、ざわめきが起こっていた。

 1人だけ満点がいて、アルトさんだったからだ。

 なぜか僕も誇らしげになる。

 ちなみに僕は72点です。

 平均点が60なので悪くはない。


「アルトさん、満点すごいです」


「ありがとうございます、頑張ったかいがありました。

これで体力測定の分を取り返せたかな」


「取り返せましたよ」


 筆記は10点で1点となるので、これでアルトさんは15点。

 僕も15.2点で並んだ形だ。


「でも次の実技が心配で」


「僕も魔法が心配です」


 2人で肩を落とす。


「ここでめげていても仕方ありません。頑張りましょう!」


「はい!」


 ギルドの裏の広場に設けられた場所で実技試験を行う。

 まずは剣技。

 全身を甲冑の姿で覆ったダグラスが、中央で剣を地面に突き刺し、仁王立ちしている。


「冒険者になりたいなら、この俺を倒して行け!」


 どこかの四天王のような台詞を吐いた。

 ルイさんは構わず説明に入る。


「はーい、というわけで木剣での実技に入ります。

頭を狙うのは無しで、各々好きに打ち込んで見て。

回復できるから、殺さない程度なら遠慮いらないわよん」


 ゼッケンの順番で打ち込みが始める。


 ガンッ、ガンッ。


「ふはは、どうした効かんぞ!」


「はい、次の方~」


 ガガガッ。


「ふはは、早いが軽い。そんな剣で俺を倒そうとは笑止!」


「次~」


 ドガッ、バゴッ


「ぐふ、ちょ、ちょっと待て」


 戦士男の攻撃には耐えられないようだった。


 いよいよ僕の番だ。


「くくく、こんなガキでは相手になりそうにないな。好きにかかってこい!」


 まず魔法もスキルも使わずに、こて調べ。

 カンッ、カンッと軽い音が響く、勿論ダグラスには全く効いてない。

 それならと、風魔法で強化しての攻撃だ。


「うむ、やっと調子が出て来たか、だが早いだけでは俺の体は崩せんぞ」


 ならば身体強化を加える。

 軽い金属音が鈍い音に変わった。

 ダグラスは徐々に押され始める。


「む、まさかこれほどとは、侮っておったわ」


 とどめだ、肉体操作で生み出した”筋力増加”!


 ボギッ、木剣が折れ。


 ガゴンッ!


 金属の鎧がへこむ鈍い音が響き、ダグラスが膝を突き悶絶した。


「#$%&?!」


「ストップ!ハイヒール!」


 すぐに回復し、ダグラスはやっと声を出す。


「あばらがぁ、ばらばらがぁ、あばら!」


 やり過ぎてしまっただろうか、僕もダグラスの元へ駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「あ、兄貴///」


 痛みの涙だと思うけど、ウルウルとしたその目が、果てしなく気持ち悪かった。

 さらに兄貴と呼ばれ鳥肌が立つ。

 咄嗟に後ずさっていた。


 回復を待ち、残りの志望者の打ち込みが終わった。

 疲れ切り座り込むダグラスを放って、魔法の実技に移る。


「30m先の的に魔法弾を撃ち込んでね、別に届かなくてもいいわよ」


 用意された5つの的に、各々が魔法弾を放つ。

 的に届かない者や、はずす者。

 老人はまだいたのか、見事に命中させたが、威力はほぼ0だった。


 交代し僕達の出番だ。

 集中して魔力を練り込む。

 先に撃ったアルトさんは見事に的へ命中し、木で出来た的にヒビが入った。

 続けて2射、3射と命中させている。

 素晴らしい命中率だ。


 僕も負けてはいられない。

 右手を突き出し溜まった魔力を一気に放出。

 が、予想以上に大きい塊は、的に当たらなかった。

 残念と思っていたが、その後が驚く。

 魔力弾が約50m先の町の外壁まで到達してしまったのだ。

 威力は尽きていたのか、全く無かったけれど。


 さすがに全員が唖然とする。


「上手く風にでも乗ったかなー」


 僕は照れ笑いで誤魔化した。


 こうして全ての試験が終わり、待つのは結果発表だけだ。

 どこにいたのかレナもやって来る。

 両手に食べ物をたくさん抱えて。


 掲示板に張り出された結果を固唾を飲んで見上げた。


 僕の番号は……あった!

 隣のアルトさんも無事に合格できたようだ。

 僕達は歓喜しハイタッチ、飛び上がって喜びを爆発させた。


 これで晴れて冒険者の仲間入りだ。


「合格した方はライセンスを発行します。

呼ばれたら元気良く返事をして、受付までお越し下さい」


 ルイさんはそう言うと、カウンターの奥へと入って行った。


 やがて僕の順番が来る。


「おめでとう!」


「ありがとうございます!」


「これでやっと冒険者になれたわけだけど、これは始まりに過ぎないわよ。

これからナユタが為すべき事を探しなさい」


「はい!」


「元気が有ってよろしい。じゃあ、最後にステータスの確認と、この魔法紙にサインと血を一滴お願い」


 あ、ステータスは不味い。

 僕のレベルと比例しない、常人離れした数値が見られてしまう。


「どうしたの?まさか血が怖いとか?」


 でも見せなければ冒険者にはなれないし、ルイさんなら言いふらす事もないと思う。

 多分。


「見ても驚かないで下さい」


 僕は意を決してステータスを開いた。

 ええいままよ。


「!?、これは……。あはは、驚かないわよ、ていうか笑える!

あははは、スケベって、下僕一号って。

はい、いいわよー、あとは書類をお願い。あはははは、あー、お腹痛い」


 変態称号が役に立った。

 ルイさんはレベルと称号以外は見ていないようだ。


 ステータスを閉じ書類にサイン。

 血を一滴垂らすと魔法紙が青白く光った。


「はい。オーケー。新人の冒険者は、Dランクから始まります。

実績を貯めて昇格するよう頑張ってね。

あと、これがライセンス」


 銅で出来た名刺サイズのカードが渡される。

 大事にしなくちゃ。


「細かい説明はナユタには要らないわよね」


「大丈夫です」


「よし、期待してるぞ新人君」


「はいぃ!」


 もう一度、大きく返事をした。

 アルトさんもライセンスを受け取り、ギルドの外に出た時レナが提案する。


「よし、今日は祝賀会よ!お祝いに私が全部おごってあげましょう!」


「ありがとうございます」とアルトさん。


「ありがとう、でもレナはかなり食べたんじゃ?ほっぺにソースついてるし」


 慌ててソースを拭うが逆の頬だ。


「大丈夫。腹6分目に止めて置いたから」


「そうと決まれば行きましょう!」


「うん。高い物を食べるぞー!」


「あんまり高いのは勘弁してー!」



 こうして無事、僕は冒険者の道を歩き出した。

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