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幼馴染レナ登場

 ここはどこだろう?


 周囲は薄暗く、どこまでも続いてるかのように、広大な空間が拡がる。

 中央には丸いテーブルが一つ、その上にはランプが置かれ、周囲を弱々しく照らす。


 灯りに照らされて見えるのは布。

 近寄って見ると、そこにはいくつかのパンツが置かれていた。

 どこかで見覚えのある黒いパンツ。


 まさか、これは!?


 ぼ、僕はこんな物は盗ってない、これは間違いだ、陰謀だ、きっと夢だ、僕は深く考えないようにした。

 どうせこれは夢だ。

 現実逃避だ。


 手に取ったパンツを見なかったことにして、そっとテーブルに戻す。

 そして、やっと自分の異変に気づいた。

 自分の手が透けていたのだ。

 良く見れば手だけではない、どうやら体全体が透けていている。


 幽霊にでもなってしまったかな。

 そうすると火傷の傷が原因か。

 ここは地獄か天国か、うーん、どうしよう。

 そんな事を考えると。


「おい、聞こえてるか?」


 声変わり前の少年のような声が部屋に響いた。

 声の主を探そうと辺りを見渡したが、姿はどこにも見えない。


「聞こえてまーす」


「だめか聞こえないか?」


「聞こえてますよー、おーい」


 ……。


 返事はなかった。


「これも駄目かよ。また別の手を考えるか」


 声の主がそう言い終えると、目の前のテーブルが突如として消える。

 完全な闇に包まれ、床も無くなったのか、自由落下を開始する。

 襲い掛かる浮遊感、底なしの穴に落ちて行く。


「うわぁああ!」



 …………。



「という不思議な夢を見まして」


 ギルドで仕事をしている僕は、今朝の夢をルイさんに話していた。


「え?パンツってやばくない?欲求不満?きゃー、襲われるー」


「襲いません!それこそ本当に地獄に堕とされそうですから」


「なによ、天国に送ってあげるって。

てかなに!私に魅力が無いみたいじゃない!このこのー」


 頭をグリグリされる。


「痛い、痛いです。離してくださーい」


「今すぐ地獄に堕としてくれようぞ」


 そんな茶番をしていると、スイングドアが開き4人が入ってきた。

 ルイさんはメイド服を整え、すぐに仕事モードに切り替わり対応する。

 速い!


「本日はどのような、ご用件でしょうか?」


 一番先頭を歩く男はリーダー。

 名前は”ジスタ”でA級ランクの冒険者だ。

 肩まで伸びた茶髪に耳にはピアス、背丈は175cmほど。

 是非、分けられるのなら、身長を分けて貰いたい。


 全体は鉄の鎧を装備し、腰には立派な長剣。

 背中のマントはお洒落か、はたまた特別な効果でもついているのか。

 とにかく一言でいうと贅沢、流石はAランクという所か。


 後ろにはパーティの3人。

 身長170cmほど、迷彩柄の服を着て、クロスボウを持った細身の男性のアーチャー(弓使い)に。

 身長155cmほど、グレーのローブ着て、立派な木の杖を持った、僕より小柄な女性のマジシャン(魔導士)かヒーラーだろう。


 そして一番、後方にいるのは幼馴染の”レナ”だった。

 こちらに気付き、ヒラヒラと軽く手を振ってくれる。

 僕も手を振って返した。


 久しぶりに見るレナは相変わらずみたいだ。

 身長は170cm、肩甲骨まで伸びたピンク色の髪に、バストは目測でDカップ。

 鍛えられた体はキリッと引き締まり、余分な脂肪はなく適度な筋量。

 職業はCランクのソードファイター(剣士)をしている。


 装備はライトアーマで、鉄の胸当てに腰には長剣。

 膝上の長さのミニスカートを履き、足元はロングブーツに鉄の膝当てをつけている。


 ジスタは軽い感じで挨拶してくる。


「こんちわっ。ダンジョンに入る許可を取りに来ました」


 エリーさんは淡々と業務をこなす。


「それではこちらの書類に、ご記入下さい」


 書類には入るダンジョンと日付、日数、人数、名前、潜る最大層の欄がある。

 遭難や事故に備え、ちゃんと記入しなくてはならない。

 もし日数を過ぎても帰還届がない場合、死亡したと見なされる。


「これでいいすか?」


 書類を書き終え、ルイさんが確認する。


「はい、問題ありません」


「あ、もう一つ。荷物持ちが欲しいんですけど」


「荷物持ちですか、いま手が空いている者は……こちらのナユタしかいない状況でして」


 ジスタは僕を見て、あきらかに不機嫌になる。


「こいつが?女みたいで剣も持てなそうな体してるじゃねえか。冗談だろ?」


 エリーさんは、コホンと咳ばらいを1つ入れ。


「お言葉ですが、ナユタは今回潜る5層まで、荷物持ちの実績と経験があります。

こう見えても意外と力持ちですし問題はないかと」


「じゃあこの荷物を持てたら、こいつでいいわ」


 ドサッ。


 そう言って彼らの荷物が放り投げられた。

 冒険者なら中身は、食料と回復薬などだろう。

 他には予備の装備品と野営用の寝袋。

 僕はそれを軽く背負い、全て持ち上げ歩いて見せた。


「ふーん。お前でいいわ」


「それでは荷物持ちの契約のサインもお願いします」


 荷物持ちにも書類が必要。

 記入することは名前など、さきほどの書類と同じ。

 違う所は戦闘への不参加を認める、荷物持ちを守る義務などの規約も盛り込まている。


 規約も読まずにサラサラと書類を書き終わり、羽ペンを投げるジスタ。

 いくらAランクといえ態度が悪すぎる。


「つうわけで、明日はギルドで待ち合わせよろしく」


 ぶっきら棒に伝え、荷物を奪うように取ってギルドを出て行く。

 帰り際にレナは、僕の元へ小走りで近寄り耳元で囁いた。

 こそばゆい。


「今日は何時に帰れそう?まだ、渚停でお世話になってるよね?

久しぶりにあそこの料理が食べたいし、一緒に食べない?勿論おごり」


 僕も耳元に囁き返す。


「夕方には帰れると思う。待ち合わせは渚停でいいかな?」


「オッケー、それで」


「おーい!レナ何してんだ、早く行くぞ」


 外からジスタの大きな声が聞こえて来た。


「じゃあ、またね」


 約束を交わし、レナもギルドを後にした。



 辺りは薄暗くなってきた。

 渚停で待つ事しばらく、通りの奥からレナが手を振り、こっちに向かって走って来る。


「お待たせ。じゃあ入ろうか」


 時間がまだ早かったようで、渚停の中はまばら。

 空いている奥の席に座ると、ミレイユさんが声をかけて来る。


「あら、誰かと思えばレナちゃんじゃないか、随分と久しぶりだね」


「お久しぶりです。エルフォードまで遠征に行っていて、戻ってきたのは今日なんです」


「エルフォードまでかい、それは大変だったろう。

無事に帰って来てくれて嬉しいよ。今日はいっぱい食べて行って頂戴」


「はい、そのつもりです!

もう遠征中はろくな物を食べられなかったので、ここでの料理を楽しみにしてたんです。

まずはガッツリ肉が食べたいです!あと葡萄ジュースを濃い目で」


「あいよ。いつものだね」


 注文を受け取り、ミレイユさんは厨房に入って行った。

 ジューっという肉を焼く音と、香ばしい香りが漂って来る。


「あー、疲れたぁ」


 レナはそう言ってテーブルに突っ伏す。


「お疲れ様」


「もー、ほんとお疲れよ。

遠征もそりゃあ疲れたけど、なんと言っても原因はパーティの人間関係。

あれがリーダでしょ?俺様主義で意見とか全く聞かないから喧嘩も絶えないの。

Aランクのパーティ依頼があったから引き受けたけど、完全に失敗よ。

あー、契約破棄したい」


 僕は仕事の癖でテーブルを布巾で拭きながら質問する。


「ジスタって人だよね?たしかにきつい性格してたけど」


「そう、とにかくきついのよ。

あいつね、面接の時はすっごく良い子ぶって、加入した瞬間に豹変、完全に詐欺。

あと何かと言うと体を触って来るし、もうそれが嫌で嫌で仕方ないのよ」


 それは許せない!

 僕に力があったらボコボコにしてやるのに!


「契約はいつまで?」


「あと2か月……。逃げたい」


 しかし、契約がある以上、よほどの事情がないとパーティは抜けられない。

 独断で勝手に抜ければ信用を失い、今後の冒険に支障をきたすどころか、冒険者ライセンス剥奪までなりかねない。


「Aランクに釣られたのが悪かった。同じ剣士で勉強になると思ったのに、あいつから学ぶことはない!」


「まあまあ、落ち着いて」


 レナの肩を叩き慰めていると、やがて料理が運ばれてきた。


 湯気が昇る厚切りの豚肉は、表面はカリカリで、しかし中身は柔らかく絶妙な歯ごたえ。

 水臭くない葡萄ジュースは、濃い紫色がグラスの中で映える。

 サラダはシャキシャキの水菜に、半分にカットされた瑞々しいミニトマトにレタスにキュウリ。

 かいわれがピリリとアクセントとなっている。

 いくつもの大きめの野菜を煮込んだシチューは、鶏肉と骨を煮込んだスープに、山羊のミルクが加わり濃厚な仕上がりに。

 これはもう食の宝石だ。


「これよ、これ!待ち望んでいた物は」


 フォークで大きくカットした熱々の肉を頬張る。


「あふ、あつ。美味しい!

硬い干し肉や、色が変わってヌメヌメした肉じゃない、これが本当の肉。

んー、ジュースも美味しい。ゴミとかも浮かんでない奇麗な飲み物よ!」


 過酷な食生活を物語るような発言だ。

 可哀想に、ちょっと涙が出そうになった。


「落ち着いて食べよう」


「これが落ち着いていられるもんですか、食える時に食べる。それが冒険の鉄則よ」


 随分と冒険者らしくなって。

 その成長を喜ばしく思う反面、置いてかれて行く悲しさもあった。

 僕はまだスタートラインにすら立っていないんだ。


 やがて最後のデザートも平らげ、レナは満足そうにお腹をさすった。


「余は満足した」


「お粗末様でした」


「空いているお皿、お下げしますね」


 アルトさんがテーブルに来て片付け始める。

 ちょうど良いタイミングだと思い紹介をする。


「レナ、こちらはアルトさん、渚停で働いて貰ってるんだ」


「「初めまして」」


 声は重なり、2人は同時に軽く会釈した。

 レナは僕の顔を見て聞いて来る。


「2人はどういった関係?」


「知り合い、いや友達かな」


「ふーん。そうなんだ」


 レナは唇を突き出して、不機嫌そうに言った。

 どこか棘のあるような言い方なのは、気のせいだだろうか。

 アルトさんは気にも留めず。


「あ、ナユタさん。あとで包帯を取り換えに、部屋へ伺っていいでしょうか?」


「はい、お願いします。背中だと届かない所もあるので」


「それじゃあ、また後程」


 それだけ伝え、皿を持ってアルトさんは厨房へと戻って行った。


「部屋に……。まさかナユタ、変な事するつもりじゃないでしょうね!?」


「しないよ!前に火傷をしたので、包帯を変えて貰うだけだよ」


「火傷って何したの大丈夫なの!?」


 両肩を掴まれ、前後にガクガクと揺られる。

 僕はガクガクにカクカクシカジカで説明した。


「フレアサークルと言えば中級魔法。良くそれで軽傷ですんだわね」


「魔法が上手く行ったんだと思う」


 レナは目を丸くして。


「魔法も使えるようになったの!?」


「うん。つい先日だけど、威力だけは結構あって、お墨付きを貰ったよ」


「へー、私は魔法はダメダメだから羨ましい」


「それだったらアルトさんに教えて貰うといいよ。すごく教え方が上手なんだ」


 ……。


 その提案に、すぐに返事はなかった。

 しばらくして「そうなの。じゃあ、時間ができたら甘えちゃおうかな」と笑顔を見せた。


 レナはふと外を見て呟くように言う。


「もう暗くなったね」


 僕も外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 レナは背伸びをし、少し間を開けて。


「それじゃあ。あんまりのんびりしていると怒られるから、そろそろ行くね。明日はよろしくー」


 元気に手を振って僕達は別れた。


 別れは少し寂しかったけど、明日はダンジョンでまた会える。

 気合を入れて準備をしなくちゃ。


 僕は部屋へと戻った。

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