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第4話 義兄弟

※信秀‥‥信長の父

信行‥‥信長の弟



「どうしたのですか、のぶながさま」


昔、泣いている私を励ましてくれた"弟"がいた。


「父に、怒られたんだ。次期当主としての自覚が足りないと。父はいつもわしばかりを怒鳴る」


「のぶながさまの母上はどうなのです?」


「母上は、わしが嫌いじゃ。嫌っているから、怒ろうともしない。見向きさえしてくれないのじゃ」


私がそう言うと、困ったように彼は黙ってしまった。齢6歳にしては、大人びているこいつでも、私の悩みに答えるには難しかったらしい。


「もういい。忘れろ」


そう言って、去ろうとするが、引き止められる。


「跡継ぎに怒らなければならない信秀様※はともかく、奥様はなぜ、そのような態度なのでしょう」


「母は弟が好きだからな。弟を当主にしたいんだ」


「なぜ、信行様の方が好きなのですか?」


純粋に疑問に思っているとでも言うように、問うてくるその態度に、段々私は苛つきはじめた。


「もう、いいだろう!お前は失礼だな!」


そう怒鳴ると、彼はニッコリと笑って、言った。


「涙は止まったようですね」


私は愕然とした。いくつもの下の男児にこのように気を使われるとは思わなかったのである。

まあ、気を使わせたのは私だが‥‥


「僕は、のぶながさまの方が好きですよ。面白くて」


「竹千代‥‥‥」


下から私を見上げて、彼は勝ち誇ったように笑う。

彼ー竹千代は、幼いながら血の繋がっていない弟として私を支えてくれた。


それは、のちに竹千代が、家康と名を改めてからも変わらなかったんじゃないかと、思う。















この状況はなんだ。



「前は京都にいたんですね」


「そうだね。京都には来たことある?」


「いやあ、修学旅行以外ないですね」


「ああ、こっちの方では、修学旅行京都なのか。あっちでは東京が定番だったから」


「じゃあ、観光はスカイツリーとかですか?いいな」


はははーと、談笑する好青年2人。

その光景にうっとりとする女子達。どこか居たたまれ無さそうなその他男子達。


もう一度言う。


なんなんだ、この状況は。


皆んなの視線の的になっているのは、康久と桜秀。

2人が笑顔を振りまいて話し合っている。

2人とも無駄に、無駄に整った顔立ちをしているから、妙に憎い。


なんでこんな状況になったのかー‥‥








遡る事、30分前。


今日は、生徒会選挙戦(選)の立候補者向けの説明会の日となっていた。


「あ、俺、今日は行けないから」

「はあああああ」


桃吉を迎えにいくと、そんな言葉が返ってきてしまった。

しかも、行けない理由は、デートだという。


「仕方ないでしょ。この間デートをドタキャンしちゃったんだから」


「それは、おまえの責任だろう‥‥」


「違うよ。この間のぶちゃんのクラスの歓迎会行った日、デートの約束してたけど、のぶちゃんに頼まれたから断った。‥‥分かるよね?」


にーっこりと笑う顔に、なにも言い返せない。私が無理を言わなければ、今日は来たということだ。


「康久もいるから、明智のことは多分大丈夫だよ!それじゃ!」


ぐぬぬぬぬとなっているうちに、さっさと行ってしまった。逃げ足の速い奴め。

あいつ、この間言っていた、守るだとかなんだとかって、絶対ウソだろう‥‥‥。


「大丈夫ですよ、撫子さん」


「うわあ、おまえいつからそこに?」


「少し前からです」


学年が違うので、使っている校舎も違う康久がいつの間にかやって来ていた。


「僕が‥‥撫子さんを守りますから」


無駄に背景に薔薇を咲かせて、はにかみながら言ってくる康久。

だけど、たまたまわたしの後ろにいた女子が卒倒したから。おまえのはにかみは殺傷能力高いから。

やめてくれ。


「‥‥行くぞ」


にこにこと上機嫌でついてくる康久。


こうして、一抹の不安を覚えながら、集合場所に行ったのだがー

なぜか、康久は桜秀を見るなり、笑顔で話しかけ始めたのだ。






そして現在。

2人は気が合うのかなんなのか、楽しそうに談笑している。私はそっちのけである。

気まずい思いをしている私は、なんだったのかって感じだ。


「‥‥康久」


見るにみかねて、康久を廊下に呼び出す。

私がそれとなく威嚇してもなお、康久はどこ吹く風だ。


ダンッと、そんな康久を壁に押し付ける。


「おい、どういうつもりだ」


「撫子さんに壁ドンされるのも悪くないですね」


「真面目に答えろ‥‥」


睨み付けると、妖艶な顔で微笑み、大丈夫だ、と口にする。


「あれでいいんですよ。こちらが警戒すればするほど、あちらはこちらを疑うし、避ければ疑いも膨らんでしまう。現に僕には何も言われてませんよ?」


「‥‥」


確かに、チラチラと気にしているそぶりは見せたが、桜秀は最後まで何も聞いてこなかった。

私がジタバタしてるから、いけないんだろう。


「仕方ないですよ。前世、自分を殺した相手なんて、冷静でいられる訳がありません」


そっと、吐息のように囁いてくる。

氷のように、冷めた気遣い。いつもは笑顔なのに、時々見せてくる冷たさが、なんとも言えない気持ちにさせる。

それは、人質として育ってきたこいつらしい。


空気を変えたくて、私は肩をバシっと叩く。


「‥‥それにしては、話が盛り上がっていたようだがな」


皮肉を込めて、ニヤリと笑う。


「そりゃあ、流石明智様の生まれ変わりですよ。話が弾むし、面白い」


「ほーお、私が面白くないとでも言うのか」


「そんなんじゃないですよ。撫子さんは面白いです‥‥‥‥行動が」


「はあ?!」


食ってかかる私の様子に彼はクスクスと笑う。


「褒めてないだろ、それ。褒めてないだろ」


「行動が面白いって、最上級の褒めですよ?」


「よーし、あとで覚えとけよ。康久」






⭐︎⭐︎⭐︎




「最後に見回りするぞ!」


「はい、行きましょう」


生徒会選挙に関する説明が終わり、現生徒会委員である私たちは、会場の片付けをした。

あとは、最後に校舎の見回り点検をするだけだ。

見回りは原則2人でしなければならないので、康久を連れて校舎を歩いていく。


「どうですか?今回は、勝てそうです?」


生徒会選挙戦のことだ。


「正直、厳しいな」


一つ一つの教室の鍵を確認しながら、話す。時間はもう、6時近くになっていた。


「明智が来たことで、票数が見えなくなった。前の事前投票では他の候補者2人はそれぞれ2割、私は6割票数をとっていたが、明智がどの程度票を集めるか分からない」


「転校生だから、知名度はまだ低いですよ?」


「そこなんだ。転校生なのに、生徒会選に立候補することは、異例だし、注目も受ける。知名度がないからこそ、周りからは目新しく、クリーンな目であいつをみるだろう。つまり、これから1ヶ月、あいつがどう行動するかにかかっている。ゼロからのスタート分、何かきっかけがあれば、大きな起爆剤になりうるぞ」


「なるほど」


「それに、私に対して反発する者もいる。数が多いからといって傲り高ぶれば、痛い目を見る」


負け戦を、勝ち戦に。

それは前世からの勝ち方の一種の法則であった。

逆に勝ち戦ほど負けやすかったりする。


数の利というのは、存外、ひっくり返りやすい。


「まあ、だから、応援演説は頼んだぞ」


生徒会選挙戦の重要材料である応援演説。私は、康久に頼むことにしたのだった。

桃吉に頼んでも良かったのだが、一年生票を獲りたいから、康久に頼んだ。

それに、桃吉は‥‥女子とのゴタゴタを、かかえてたりするから‥‥。

桃吉は相当ごねてたが、説明すると、不本意ながらも了承した。


「応援演説、ですか‥‥」

「そう。何か気になることでもあるのか?」

「いえ」

含みを持たせる言い方だ。

康久は、言葉を飲み込む癖がある。私としては、言うなら言って欲しいものだが。


その時だった。



「きゃーーーーーーーーーーーーーー」


「?!」


「今、悲鳴が‥‥」


「分かってる!!」


私たちは、急いで声のした方へ走っていく。私の学年である1年生の教室の方だ。


ふざけているような声には聞こえなかった。


何か、問題が起きていると考えられる。私たちで対処できないような事態なら、教師を呼ぶしかない。どちらにせよ、迅速な対応が求められるだろう。




たどり着くと、座り込んでいる女子生徒がいた。


「大丈夫か?!」


「あ、あれ‥‥」


声をかけると、彼女は、震える手で、教室の中を指差した。

ユラリとうごめく大きな影。そして、床に滴る血。

私は、彼女を康久に預け、影の正体見据えて教室の中に入った。


「何者だ!!」


「‥‥‥」


ボタボタと血がたれる音がする。私が話しかけても答える様子はない。そこで察する。

こいつは、不審者だと。

だとしたら、ここで倒すしかない。手加減はなしの方向性で。


「康久、先生を呼んでこい」


「分かりました」


念のため、最終忠告をしておこう。


「名を名乗れ。さもないと、取り押さえるぞ」

「‥‥‥」


名乗る気はないらしい。

ここからは情けは不要だ。

ちょうど横に立てかけてあった、ほうきを手に取り、犯人に向かっていく。

そして、力いっぱい刀‥‥じゃなくて、ほうきを振り上げる。



「はあああああああ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!織田くん」

「ん?」


目を凝らすと、頭をおさえて縮こまる老人の姿がみえた。

先程までは犯人まで距離もあり、暗さも相まって、姿は全く見えなかった。しかし、こうして近づいてみると‥‥


「‥‥先生?」


「そうだよ、織田くん」


そこには、教員が。もうすぐ還暦を迎えるその顔は、人の良さが滲み出ている。

私自身、今年は担当されていないが、去年は国語を教わっていた先生だ。


「でも、なぜ?」


「いやあ、実はよろついてしまってね‥肩がガラスにぶつかってしまったんだよ」


ほら、と見せる肩には確かに傷ついついた。ガラスでささったために、血が出ている。

そのまま、先生はすまなそうに話し続けた。


「君に話しかけられてもすぐに答えられなかったのは気が動転してしまったね。騒がせてしまって、すまないね」


「いえ‥‥‥」


「撫子さん!先生方呼んできました‥‥って、どういうことですか?」


女子生徒を避難させていた康久が教師たちと共に戻ってきた。


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