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第11話 不穏②



新学期が始まった。

文化祭の準備も佳境に入っているが、取り敢えず学業が優先だ。それでも、校内には、文化祭が近いということで浮かれた雰囲気が漂っていた。

文化部は浮かれているというより、修羅場な雰囲気だったが。


生徒会も、演劇の練習だけでなく、文化祭のための諸業務で忙しい。

例えば、各クラス・部活の団体宣伝ポスターを承認する作業である。客寄せをするために、校内にポスターを張るのだが、そのポスターは生徒会の承認なしには張ってはいけない。(もし、未承認のものを見つけたら即剥がす)なので、ポスターを一つ一つ確認して、問題がなければ承認ハンコをポスターの端に押すのだ。

まあ、大したことのない作業のはずだが。それが割と難航していた。


「ねー、のぶちゃん。これどう思う?」


「ん?‥‥‥あー」


それは、3年生とあるクラスのポスターだった。お化け屋敷をやるとのことで、そのイラストが描いてあるのだが‥‥‥


「グロすぎない?」


「グロすぎるな」


血糊っぽいものもついていて、少々いや、かなりグロい。上手な分、リアリティもすごい。しかし文化祭には見合わないので、却下。


「じゃあ、そのポスター駄目って言いに行ってくれ」


「えぇーこれ行きづらいんだよなあ。変な空気になるし、よりによって上級生だし」


「そのクラスに知り合いいないのか?」


「あー‥‥あ、みき先輩いた。よし、行こう!」


「いってらー」


扱いやすい桃吉。アイツが女好きでよかった。桃吉が生徒会室を出て行く。


「なんで、ダメなんですかっ?!」


と、少し離れた場所から声が聞こえてきた。

そちらを見ると、桜秀と2年生の女子生徒がいた。なにやら、揉めているようだ。


「ですから、それは」


「この絵が素晴らしくないとでも言うんですか!」


「そういう事を言ってる訳ではなく‥‥」


「じゃあ、いいじゃないですか」


「文化祭のポスターにしてはあまりに過激のため、もう少しマイルドに‥‥」


「これこそが芸術なんです」


話が見えたぞ。とある団体(恐らく美術部)がポスターをつくってきたはいいものの、明らかに相応しくないものであったため、桜秀は却下をだした。しかし、相手はこれを芸術だと言い張り引き下がらない、と。

生徒会長である私が丸く収めなければいけないところではあるのだが‥‥


「あれ助けに行きたくないなー‥‥」


「同意します」


「お前、いつからいた?」


気づくと、私の隣には康久がいた。いつもの如く、いつからいたの?


「さっきです。桜秀先輩は放っておきましょう」


「いや、助けてて!!」


康久は爽やかな笑顔で言い切ったが、桜秀はそれを聞いていたらしく、こちらにヘルプを求めてきた。多分、桜秀ならば1人でも対処出来るとは思うので、多分ノリツッコミ的なアレだろう。

が、ここで無視しては体面が悪いので、桜秀の元へ向かう。


「どうしたんですか?」


「この人が、このポスターを承認できないって言うんです!」


「あ、これはー‥」


「素晴らしい芸術ですよね?!」


「そうは思いますけど」


見せてもらった美術部のポスターは、やはり高校生の文化祭には相応しくなかった。

まあ、うん。裸体画である。

これも芸術ではあるのだろうが、学校見学に中学生も来るのだ。見せるべきではない。

だが、これを見て、桜秀が助けを求めた訳が分かった。男子生徒が女子生徒に、これがダメな理由を話すのは少々抵抗があるだろうと思う。


「芸術ではあると思いますが、この絵は中高生が見るべきものではありません。別のものにしていただけますか?」


「でも、このために描いて‥‥」


「ご納得頂けないようなら、顧問の先生にもお話しさせて頂きますけど」


私がそう言うと、その生徒は「うっ‥‥」と言葉に詰まった。その様子を見るに、顧問にも苦言を呈されていたようだ。


「どうでしょうか?」


「分かりました。描き直します。ご迷惑をおかけしました‥‥」


彼女は、そのまま大人しく生徒会室から出て行ってくれた。ふう、とため息をつく。


「ありがとうございます」


「いや、いい。それより、ここまでで不承認になったやつ、各団体に伝えに行くぞ」


現在生徒会室にいる、私と桜秀と康久で役割分担をする。そしてそれぞれ、役目を果たすべく生徒会室を出た。

2人と別れて、ポスターを手に廊下を歩く。文化祭前ともあって、放課後にも関わらず、いつもより人は多い。



『ねー、あれ』


『生徒会長が?』


『本当なの?』



1年の教室の前を歩いていると、気になる囁き声が聞こえてきた。そこには悪意、というより敵意を含んでいて、少々引っかかる。しかも、無視するにはあまりにも数が多く、嫌な予感がするのだ。


「あっ織田先輩!」


と、そこでとある女子生徒が私のもとに駆け寄ってきた。


「お久しぶりです!」


「ああ、瀬名か。久しいな」


はい、と可愛らしくニコニコ笑っているのは、ストーカー事件の被害者であった瀬名りかだった。

夏休みの初めは、ストーカーに関する事情聴取やらで2人にも何回か会って会話は交わしていた。が、事情聴取も終わった今では接点もなく、会ったのは久しぶりだった。


「あれから小宮は元気か?」


「はい。お陰様で‥‥‥かずやも元気です」


瀬名は顔を赤らめながら、答える。

うん。2人は上手くいっているみたいだ。いつの間にか、呼び捨てで呼んでいるし、何か進展があったと予想できる。


「あの、本当に織田先輩と明智先輩には、感謝しています。改めて、ありがとうございます」


「ああ」


彼女は丁寧にも頭を下げてくれた。

色々あって大変だったが、やはりあの時助けられてよかったなと思う。

しかし、ほのぼのとしている時間はない。


「ところで、だ。少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「はい‥‥‥どうしたんですか?」


私は、彼女に気になっている事について聞く事にした。






⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎







「しまったなあ。みき先輩と話し過ぎた」


絶対のぶちゃんに怒られる、とぼやきながら桃吉は生徒会につづく道を歩いていた。

無事、ポスターの件を伝えられた桃吉であったが、可愛がってくれる先輩に捕まってしまったのだ。そのまま先輩方(女の)に、ちやほやされ、しかし愚痴も聞かされ、気づけば時間が経ってしまっていた。女性の先輩に絡まれるのは悪い気はしないが、のぶちゃんに怒られるのは頂けない。康久みたいな趣味はないのだから、と足を早める。


「はい。え?袋ですか?」


しばらく歩いていると、人気のない場所で咲田くんがスマホで話しているのが見えた。どうしたのかと、声をかけようとするが、彼の不穏な雰囲気を感じ取って、すんでのところでやめておく。

彼は、敬語で何かを話しており、その顔は険しい。彼からは桃吉は死角にいるようで、桃吉の存在に気づいていない。


「これで‥‥?」


彼は、黒い袋から何かを取り出し、そして目を見張った。桃吉からは、彼が取り出したものが何かは見えない。


「そんなの無理です!!」


と、彼は急に大声を上げ、しかしびくりとして辺りを見回した。誰もいないことを確認すると、彼は電話の相手と言い争いをしているようだった。

桃吉は不審に思い、更に耳をそばだてる。

そして、聞こえてきた言葉は。


「だって、こんなの犯罪じゃないですか‥‥!」


低く、小さな声だが、桃吉にはしっかりと聞こえたその言葉。


「‥‥‥犯罪?」


桃吉は、腕を組んで考える。彼の電話の相手は誰なのか、何をしようとしているのか、を。だから、彼の通話が終わったことに気付かなかった。


「え、豊臣先輩?」


「あ‥‥あー、元気?」


もっとうまい返しがあるだろう!と、思わなくもなかったが、あとの祭だ。


「今の話聞いてました‥‥よね?」


「‥‥‥聞いてたって、何のこと?誰かそこにいた?」


桃吉は取り敢えず、しらばっくれる事にした。すると、咲田はホッとした表情を見せた。


「いえ、なんでもないです。少し用事があるので、しばらくしたら生徒会室に行きますね」


そう言って去って行った彼の背中を桃吉は黙って見送った。



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