第7話 桜秀、この人の思考が読めない
俺の名前は、明智桜秀。
明智光秀として織田信長に仕えた前世がある。
そして、現在。俺は信長様の生まれ変わり・織田撫子と行動を共にしているのだがー‥‥
「瀬名りかに話を絶対に聞きに行く!」
「やめた方がいいですよ!」
「聞きに行くんだ〜〜!!」
やめた方がいいと言うものの、彼女は全く言うことを聞く気配がない。
正直、俺には彼女の思考が全く読めない。どうしたら、初対面の後輩の「復讐したい」なんて願いを聞き入れることなんて出来るのか。そして、その復讐したいという相手に話を当たり前のように聞きに行くことが出来るのか‥‥
前世からこの人の思考回路が分からないことは多かったが、今世はもっと分からない。
何故だ?女性に転生しているからか?
途端に、”妹”の「あなたは、女心が分かっていないところがありますからね」という茶化したような声が聞こえた気がするが、慌てて首を振った。
多分、性別とかは関係ない。この人の、考え方も行動も一生読めないのだろう。であるからこそ、俺はこの人の側を離れられない。その鮮烈な言動ゆえに、目を離さないのだ。
結局彼女のゴリ押しの主張に俺は折れてしまった。そして、放送で呼び出し、生徒会室には瀬名りかさんがやって来た。彼女は始終不思議そう顔をしていた。
とりあえず、生徒会室のソファに座ることを勧め、織田さんはいきなり本題に切り込んだ。
「今日、君をここに呼んだのは、他でもない。小宮について聞きたかったからだ」
「かずくん、のことですか?」
その女子生徒ー瀬名りかは、コテンと首を傾げた。肩にかかる髪がさらりと揺れる。その姿は小動物のようで、庇護欲を掻き立てるものがある。
「そうだ。実は、彼を生徒会に入れようと思っててな。それで、彼の人となりを聞きたいんだ」
嘘八百。
「また、この人は‥‥」と、織田さんに何気なく視線を送るも、スルーされてしまう。一方で、織田さんの言葉に瀬名さんは、目を見開いて驚いている。
嘘がバレるのではないかと一瞬、ヒヤリとしたが、途端に瀬名さんは、顔を輝かせた。
「そうなんですか!すごい、かずくん」
まるで恋する乙女のように、手をあわせて、嬉しそうに喋る。
「やっぱりかずくんは優秀だもんなあ。そりゃ、生徒会の方も気にかけるよね。それもあの有名な織田先輩たちに!」
「‥‥‥」
予想外の言葉に、俺も織田さんも黙り込む。
「かずくんは、昔からすごかったんですよ。頭がよくて優しくて、私も昔からよく勉強を見てもらって。それで、私も成績が上がったんです。それから、小学校の時は学級委員も任されていたくらいしっかり者なんです。目立つの苦手だから、あまり人の前には出ないし、少し自信がないけど、そういうところも可愛くて‥‥」
「あ、あの?」
話の論点がズレてきたので、俺が戸惑いつつ声をかけると、彼女はハッとし、眉を下げた。
「ごめんなさい。嬉しくて。‥‥‥かずくんは、成績いいし、真面目だから、生徒会むいていると思います」
「そうか」
織田さんが答えると、照れたようにふふっと笑う瀬名さん。小宮君を貶めようとする様子は全く見えない。すると、織田さんは核心を突く一言を言った。
「そんなに、彼のことを思っているのに、何故振ったんだ?」
「え‥‥‥」
そこで、それを聞くのか?!と、正直思ったが、顔に出さないでおく。本当に、思考が読めない‥‥
織田さんの言葉に瀬名さんは目を見開き、そして視線を落とした。その時の表情は、とても苦しそうで印象的だった。
「かずくんとは、幼なじみなんです。それ以上でも、それ以下でもありません」
何かを隠すように、固い言葉だ。そして、先ほどの輝くばかりの笑顔を引っ込めて、本当に困ったように言った。
「もう、いいですか?」
「ああ。有益な情報をありがとう」
織田さんはそう言って、彼女を生徒会室から返した。
彼女は、ふうと息を吐き、生徒会長用の椅子に座った。
「何か、分かったんですか?」
「‥‥‥ああ」
「どちらが嘘をついているんですか?」
やはり、それしかないだろう。
小宮君の「裏切られた」という言葉を信じるなら、瀬名さんが小宮君を慕っている様子は嘘になる。
逆に、瀬名さんが小宮君を慕っている様子を信じるなら、小宮君の話は嘘になる。
どちらかが嘘をついているに違いない。と、俺は大方の予想をし、織田さんに尋ねる。
しかし‥‥
「どちらも、嘘はついていないな」
「どういうことですか?」
俺の驚きように、織田さんは「ははっ」と笑って、不適に、楽しそうに言った。
「とりあえず瀬名りかをストーキングするぞ」
「はあ?!」
本当に、彼女の思考は読めない。




