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第6話 復讐

 

その日は、生徒会室に2人しかいなかった。

生徒会室には、用事のため桃吉も康久も寧々もいない。私と桜秀だけだった。ちなみに、文化祭準備に人手がいるのはまだ先のことの為、咲田も来ていない。


私と桜秀は、目安箱に入っている要望の整理をしていた。それら全てを一つ一つ書き出していく。


「匿名希望。クラスに馴染めない。クラス替えを学期に一度にしてほしい」


「1年2組、匿名。クラスにストーカーがいる。早くクラス替えして欲しい」


「2年9組、匿名。クラスでいじめがある。どうにかして欲しい」


私が読み上げていくものを、桜秀が書き出していく。

こういったクラス替えを望む声は少なくない。今までも何度かこういった要望は聞くことがあった。

なので、前々からこれに対する対策は前々から考えていた。


「よし!改組制度をつくるぞ!」


「改組制度ですか?」


「ああ」


一応造語なのに、しっかり漢字変換出来ている辺り、流石である。が、その意味は分かっていないようだった。


「希望者には学期を区切りにクラスを変更することを認めるっていう制度だ」


私が説明すると、桜秀は顔を顰める。


「問題点がありすぎだと思います」


その言葉に、私はぴくりと眉を動かし、挑戦的に聞く。


「例えば?」


「例えば、混乱が起きます。皆が皆好きな人とクラスになれたら、まとまりがなくなります。学級崩壊がおきますよ」


「そこは成績とか教師の裁量で」


「例えば。教師の裁量なんて贔屓であると批判がおきかねません。そもそも教師が許可しないでしょう」


「その教師を説得するのが私たち生徒会の役目だろう!」


「ですから、それはたかが生徒会の力では無理だった言ってるんです」


「たかがってなんだ!私は生徒会に誇りを持ってるし、そんな言い方は納得いかない!」


「‥‥‥俺かて生徒会の仕事には責任を持っています。それでも、改組制度はやり過ぎだって言ってるんです」


「だから‥‥!」


「ですから‥‥!」


そこで気が付いた。生徒会の窓が空いていて、外で部活をしている生徒がチラチラとこちらを見ていることに。「修羅場?」なんて声も聞こえてくる。

急に気まずくなって、窓とカーテンを勢いよく閉めた。


「‥‥少し、頭を冷やしてくる」


そう言って、私は1人で生徒会室を出た。

長期休暇中の廊下はしんとしていて、何処か物寂しい。侘しくなって、どうしても考えてしまう。


なんだか、うまくいかないなあと。


別に、私は桜秀と言い合いをしたいわけではない。桜秀の言い分ももちろん分かっているし、合理的だと思う。しかし、正論で言われると、どうしても聞き入れたくなくなってしまうのだ。前世から、そうだった。

生まれ変わって少しは変わったと思っていたんだが‥‥

うまくいかないものだな。

そんなことを考えていると、私に近づく1人の生徒がいた。


「あの!すみません!!」


突如かけられた声に、驚く。声の主を見てみると、男子生徒がいた。ネクタイが青色であることから、1年生であることが窺える。

そばかすと眼鏡が、大人しそうな印象をつくっていた。

しかし、その印象は次の瞬間に崩されることとなる。


「2年生の織田先輩ですよね??」


「そうだが‥‥」


「お願いします!!俺があの女の復讐をする手助けをして下さい!!!」


1年男子生徒に勢いよく頼み事をされる。

ものすごいデジャヴ‥‥ちょっと前に見たことがあるというか。

そんなことを考えていると、彼もまた、土下座をし始めた‥‥‥





⭐︎⭐︎⭐︎




「えーと、まず、どうして私のことを知っていたのか聞いておこうか」


土下座してきた彼をなんとか止め、人目のつかない生徒会室に連れてきた。なんか最近こういうのばかりだ。

「1年2組の小宮和也です」と名乗った彼に、とりあえず事情を聞くことにした。が、いきなり本題に入るのもなんだったので、そんな当たり障りのない質問になってしまった。


「はい!織田先輩は、学業成績1位、様々な部活のスケットとしての活躍も目覚しく、生徒会長ですから!まさに、文武両道・才色兼備の先輩がいると、有名ですから!」


噂って怖いな‥‥1年生の私への認識ってどうなってるんだ。

前回同様、かなり盛られていて、最早誰のことを言っているのか分からない。

そして今度は桜秀の方を向いて、早口で捲し立てた。


「それに、明智先輩は、まずイケメンの先輩が転入してきたと話題になっていました!更に、転入して間もなく行われた定期試験では好成績を収め、ライフル射撃部でも活躍をし始めているとか。ハイスペック転入生として今、注目を集めています!」


こちらもこちらで、中々凄まじく言われている。しかし、桜秀。1年生にまで有名になっているとは、やはり侮れないな。

ていうか。


「いつの間に、ライフル射撃部入ってたんだな」


「そうですね。最近ですけど」


コソコソと桜秀に話しかける。そうだったのか。最近忙しかったし、情報をキャッチ出来ていなかった。

その間にも、その男子生徒ーー小宮は、こちらをキラキラした目で見ている。そんなに期待されてもって、感じなのだが。

そもそも、話の始まりが物騒なのだ。復讐なんて。だが、このまま返すのも心象が悪い。

はあ‥‥まあ、仕方ない。


「じゃあ、文武両道・才色兼備な先輩に、なにを相談したいのか?」


「?!」


桜秀が、驚いてこちらを見るが、放っておく。

別に、多少盛られているとしても、そんな風に褒められて、嬉しかった訳じゃないぞ。ほんとうに。


「聞いてくれるんですか!」


「ああ」


なんとも言えない顔で桜秀がこっちを見ているような気がするが、今回もうまく乗せられたわけじゃないから!


「実はですね‥‥」


小宮が話し始めた内容はこうだ。


彼には、好きな同級生がいた。ちなみに、幼なじみである。名前は、瀬名りかさん。

彼らは珍しく、思春期になっても疎遠にならない幼なじみだったらしい。時々お互いの家に行って、一緒にご飯を食べたり、タイミングが合ったら、一緒に帰ったりする仲らしい。

こう聞くと、私と桃吉の関係に近いのかもしれない。しかし、その後の話は私たちと全く違うものだった。

穏やかで、可愛い彼女のことを、彼はとても好きだったそうだ。恋愛的な意味で。

ずっと、自信が持てなかったが、先日勇気を出して告白。しかし、想いは届かず、失恋してしまったのだ。


その内容に、私は思わず顔をしかめる。


「それで、振った腹いせに、復讐したいと?」


「いえ、違います!僕が振られることなんて分かりきってたことなので、それはいいんです!!」


問題は、その後であった。

何故か、小宮の告白が教室で噂になっていたらしい。しかも、動画まで撮られていて、晒されたのだと。


「それで、その子に復讐したい、と?」


「僕が告白した場所は、彼女の部屋の中です。そこで動画を撮るなんて、本人しか出来っこない!ずっと優しいフリして、りかちゃんは、僕を笑い者にしたんだ!!」


手で頭をかかえて、絶叫をする。

ここまで苦しんでいるのを見ると、助けたくなってしまうな。いや、別にさっき褒められたからじゃなくて。

また、彼の話を聞いて、少しばかり引っかかりを覚えたのだ。


「分かった!それなら、私と桜秀が、お前の望み叶えてやろうぞ!」


「本当ですか!」


「ああ!」


ガシッと手を握り合う私たちに、桜秀は「ええっ」という顔をしていたが。

こうして、後輩のために一肌脱ぐことになったのだ。





⭐︎⭐︎⭐︎






「復讐なんて、やめた方がいいですよ」


「‥‥‥」


「織田さん!聞こえてますか?」


「聞こえてる。別に、復讐するとは言ってないぞ」


小宮を一旦帰した後、私たちは生徒会室にて残った。私の言葉に、桜秀は怪訝な顔をする。


「どういうことです?」


「そのうち分かる。それに、小宮のクラス聞いただろう?」


「‥‥‥‥はい?」


「分からないなら、いい」


「いや‥‥‥」


私が突き放すと、何かを考え込み始めた桜秀。まあ、こいつのことだから、多分そのこと(、、、、)に気付いているだろうが。


まずは情報が足りないので、調べることにした。

私達は1年生の教室に向かい、部活で学校にやって来ている1年生たちに話しかける。意外と、みんなすんなりと答えてくれて、沢山の意見を聞くことが出来た。もっと、不審がられるかと思っていたので、正直助かった。

瀬名りかの評判は、「かわいい」や「やさしい」が大半を占めていた。裏表がなく、明るいとも言われている。あとは、「根暗な奴に話しかけられるほどに性格がいい」と。

一方、小宮和也の評判も併せて聞いた。「暗い」「何考えてるか分からない」「オタク」等の意見が。更に、「ストーカー」とも言われていた。


これらの情報を集めた後、桜秀は「うーん」と唸った。


「なんか、彼の証言と矛盾点がありますよね」


「そうだな」


「彼は、やはり嘘をついていたのでしょうか?」


「それは、どうかな‥‥‥次、瀬名りかに話を聞きに行くぞ」


「はい‥‥って、えぇ?!」


驚いている桜秀の顔は、ただただ愉快だった。



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