第3話 迷子の
その日は終業式だった。
長く、無味な校長の話を終えて、熱血な進路指導部からの話も通過する。そして、生徒代表として生徒会長である私が軽ーく挨拶をした。
そうして、つつがなく終業式を終えた。
「いや、どこがつつがなくなの?!」
少し先を歩いていた桃吉が振り向いて、私に勢いよく言ってくる。
「そうですね、つつがなくと言うには少々無理があるかと」
相変わらずニコニコとしているのは康久だ。私の隣を歩いている。
私は今、桃吉と康久との三人で文化祭のための買い出しに行っている。
その道中で、話しながらゆっくり歩いているのだが、終業式の話題になったのだ。
「いや、無難に終わってよかったなって」
「だから、どこが無難なの?!」
「無難だろう。校長と進路指導部が話して、私が代表で夏も頑張ろうって目標を語っただけだぞ」
「だから、そこ!のぶちゃんの目標がおかしいんだって」
桃吉はそう言うが、特におかしいとは思わない。
私はただ、総理大臣になるための一年ごとの計画を言っただけだ。
別に選挙戦演説の時みたいに、「天下統一したい」と言った訳ではない。つつがなく終わっただろう。
康久は愉快そうに笑う。
「僕はとても楽しかったですよ」
「康久は面白がってるだけでしょ」
桃吉は大袈裟にため息をついた。
「もう。今時、終業式の生徒の言葉で、総理大臣になるための計画を話す人なんていないでしょ」
「昔にも中々いないと思います」
「そうか?」
そうだよお、と前から桃吉の叫び声が聞こえる。ちょうど公園前を通っており、井戸端会議をしていた主婦たちが何事かとこちらを見る。
「桃吉、声を抑えろ」
「ごめんて」
まあ、私達の少し前を歩いて話しているから、自然と声が大きくなることも無理はない。
道を歩くときは、2列まで。3人ならば、誰か1人が前にいかなければならない。その役目をさりげなく引き受けてくれているのは、桃吉だった。
「それにしても、この3人で行動するの、久しぶりだな」
「そういえばそうですね」
「明智が来てー、寧々が加わったもんね」
「そうだな」
ここ最近は、咲田という1年生も生徒会に出入りしている。賑やかになったものだ。
それでも、やはり‥‥
「それでもこの3人でいるのが1番安心する気がする」
私がポツリと溢すと、桃吉がすぐさま反応を示した。
「え、えー!なに。デレのぶちゃん?!」
桃吉はニヤニヤしながら、私をからかう。
‥‥‥‥言わなきゃよかった。
「僕もですよ、撫子さん限定ですが」
「え、ひどい!!ねえ、のぶちゃん」
「あーもう。うるさいぞ」
私たちは3人で穏やかに歩いて行った。
⭐︎⭐︎⭐︎
大道具は、演劇部の方からほとんどを借りることが出来た。文化祭中の演目のテーマが演劇部とかぶらなかったことも幸いした。
私たちに必要なのは、小道具等を作るための材料だった。
一通り買い終わり、私は「よし」と呟いた。
「じゃあ、これで終わりだな」
「うん、そうだね」
「撫子さん、重くないですか?持ちますか?」
「鎧に比べたら、全然」
「比較対象ね」
それじゃあ帰るか、そう言ったとき。
何かが私の服を引っ張ってきた。そちらを見ると、齢5歳くらいの小さな女の子が。目には溢れんばかりの涙を溜めている。
え、迷子?
見回すが、親らしき姿は見当たらない。
「えーと、君。お母さんかお父さんは?」
「ふえええええぇぇぇぇぇぇええええええんふええええええぇぇぇぇえ」
突然、大声で泣き出した。私、めちゃくちゃ焦る。
「どどどど、どうする?!」
「落ち着いて、のぶちゃん。元子持ちでしょ」
「そんなこと言ったって‥‥!子育てなんて碌にしてなかったんだぞ!!」
その通り。前世に子供は沢山いたが、世話なんてしたことがない。妻か乳母に任せていたのだ。
とにかく焦っている私は、なんとか桃吉に女の子を預けようと説得を試みる。
「それ言ったら、晩年に親子ほど歳が離れてる幼妻もらって、ちゃっかり子供つくって大層可愛がった秀吉の方が適任だと思うぞ!」
「言い方に悪意がある!」
桃吉もとい、秀吉の黒歴史をぶちまける結果に。
大声で泣く子供。子持ちだなんだと言っている高校生たち。このカオスな状況に周りも注目を集め始めた。
「それを言ったら、なんとも言えないネーミングセンスで沢山いる自分の子供に名付けた信長様の方が慣れてるんじゃないの?!」
「ううううるさいな!」
今度は信長の黒歴史を暴露される。
確かに、信長はネーミングセンスが皆無だと揶揄されることが多い。しかし、そんなことはないと思う。全員いい名前なのに、何故か誰にも理解してもらえなかったんだ!
そのまま桃吉と言い合っていると、康久がおもむろにやってきた。
「お二人とも、そろそろ黙ってください」
うわ、康久が若干キレてる。うわー。
私たちを牽制した康久は、すぐに女の子の元へ近寄り、彼女に目線を合わせて問う。
「君。名前、なんていうの?」
すると、女の子はキョトンとした顔になり、少しだけ泣き止む。
「‥‥ふぇ‥‥うぅ‥‥えみ」
「えみちゃんか。かわいい名前だね」
「‥‥‥うん」
「それにえみちゃん自身もすごくかわいい」
「う、うん」
「だから、かわいいえみちゃんの、笑った顔が見たいな」
その子、えみちゃんは少し顔を赤くして、口角を上げた。康久はそんなえみちゃんの頭を優しく撫でる。
えみちゃんは恥ずかしげな表情をしながらも、泣き止んでいた。
すると、えみちゃんはテテテと康久の元に近寄り、ギュッと手を握りしめる。
「お兄ちゃん、好き」
お兄ちゃんこと、康久は、あははと笑っている。
康久とその女の子はいい雰囲気を醸し出しているが、それを静かに見ていた私と桃吉は‥‥
「「おまえ、そういうところだぞおおおおおおおおおお」」
ブチギレました。何故、女児をたらしこむ。
私たちは、珍しく、息ぴったりだった。
本日は投稿遅くなってしまい、すみません‥‥
迷子の話、明日も続きます。