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第2話 弟子入り


ーー時は明治時代。

ここに1人の男がいた。


『時代も、人も、変わってしまったな‥』


彼の名は、織田撫壱。

彼は今、首都・東京に来ていた。都は明るく、新しい時代を迎え、活気に満ちている。

一方対照的に、撫壱の衣服は貧しく、顔は所々汚れている。

実は、彼はかの織田信長の末裔で、しかも織田信長の生まれ変わりであった。しかし、明治時代になり、武士の身分は著しく下がっていた。

そして、今彼が持ちたるはその身と愛刀のみ。彼は自分の正義を貫くため、今日もゆく!








⭐︎⭐︎⭐︎






「っていうの書いてみたのよ」


「いいねー」


「引き込まれるよ」


「いいと思う」


今、私たちは寧々が描いてきてくれた脚本の読み合わせをしている。

皆、寧々の書いてきてくれたものに口々に同調する。が、私は戸惑いを隠せない。


「いや、ちょっと待て」


私は、念のために寧々に確認をとる。


「この、織田撫壱っていうのは誰がやるんだ?」


「撫子に決まってるでしょう?」


「いや、おかしい!」


本当におかしい。私は男装が嫌だから、演劇にしたのに、どうして男装しなきゃいけないんだ!


「要望にも多かったし、いいかなって」


「よくないよくない」


全力で拒否する私の肩をポンポンと桃吉が叩く。


「ま、のぶちゃん諦めなよ」


「他人ごとだと思って‥」


「だって、のぶちゃん。演説の時に言ったよね。生徒の要望をなるべく叶えるって。仕方ないんじゃない?」


「‥‥‥‥」


またも演説が裏目に出てしまった。もう、これは仕方ないのか‥‥‥


「分かったよ。やるよ」


私が諦めてそう言うと、周りから何故か拍手が。何故に?


「他の登場人物はいるんですか?」


「そうね。あとは、ヒロインの町娘と旅を共にする猿とキジ」


「サルトキジ」


「それから、鬼」


「後半、桃太郎感ハンパないね」


「配役は?」


「猿は、桃吉さん」


「悪意を感じる」


「キジは康久さん」


「頑張りますね」


「鬼は明智さん」


「だと思った‥‥」


なんだか、みんなそれぞれの方向でダメージを受けている。突っ伏したり、遠くを見つめたり。

しかし、私達のなんとも言えない雰囲気をぶっ壊す者が一人いた‥‥


「す、素晴らしいですっ!なんて泣ける話なんでしょう!!!」


いや泣ける要素なんてなかっただろ、という言葉はみんなが飲み込んだと思う。

ズズッと鼻をすすって、ガチ泣きしているのは、後輩の男子生徒。

彼の名前は、咲田守くん。

本日、私に弟子入りを申し上げてきた、一年生男子生徒である。


なんと、戸惑う私たちを他所に、土下座までしてきたのだ。とりあえず、今日は帰ってもらおうとしたのだが、なかなか土下座を辞めようとしない。


桃吉はじめとする男子たちは彼を無理くり立たせて、強制的に追い出そうとしたのだが‥‥


『やっぱり俺みたいな貧弱では、弟子にはしてもらえないですかっ?!』


と言いながら号泣してきて、注目を集めてしまったので、とりあえず生徒会室に入れた。

部外者がいるとは言え、会議をやめるわけにはいかないので寧々の書いてきた脚本の読み合わせはしていた。


うーん。なんだろう、この空気の読めない感じ。まだまだ若いのだし、別に悪いことだとは思わない。しかし、元武将たち何年も生きてきた奴と仕事していると、息も合うし、スムーズにいく。年の功というか‥‥

その点、彼はまだまだ若くて青い。実際、彼の存在に気が散って、さっきから会議があまり進んでいないのだ。

うーん、これじゃあ会議も進まないしなあ。


「よし、今日のところはこれまでにしておくか」


私は、そう言って、手を叩く。すると、渋々みんながうなずく。先ほどから話が全く進まないことに気付いているのだろう。


「‥‥そうだねえ」


「脚本は各自読んでおくってことで」


「了解」


「じゃ、解散!」


と、言うが、みんな帰る気配はない。根っこでも生えたかのように椅子に座って離れない。

はいはい。分かりました。彼に聞けばいいんでしょう!


「えーと、咲田?」


「はいっ!」


私が呼びかけると、目をキラキラさせて返事してくる。ま、眩しい。


「‥‥‥なんで、私に弟子入りなんてしようと思ったんだ?」


色々聞きたいことがあるが、まずそこだ。今時弟子入りなんて、あまり聞かない。学生同士なんてもってのほかだ。

咲田は、よくぞ聞いてくれた!と言うように更に目を輝かせて、口を開く。


「はい!織田先輩は、学業成績1位、様々な部活のスケットとしての活躍も目覚しく、まさに、文武両道・才色兼備の先輩がいると、有名ですから!まさに生徒会長の鏡!そんな方の弟子になれたら、どんなに素敵かろうと思いまして!」


わーお。滅茶苦茶、脚色されているじゃないですか。もはや誰ですか、それ。噂って怖いな‥‥

みんなも苦笑しているし。

私は、足を組んで、手に顎を乗せて、再び彼に聞く。


「それで、その文武両道・才色兼備な先輩から、何を学びたいんだ?」


「え、めっちゃノリノリ」


桃吉がツッコむが、違うから!

別におだてられて気を良くしたとかじゃあ、ないから!!みんな、生温かい目で見ないで。


「はい!ただ側に置いてくだされば結構です!先輩のお姿から、色々なことを学びたいだけですから!その間は雑用でもなんでもいたします!」


「なるほどなあ」


「どうか、どうか、お願い致します!!」


「うーん‥‥」


私は静かに唸った。私個人としては、彼がいること自体は別に構わない。構わないが、生徒会役員以外の人間を軽々しく、生徒会室に入れることは少々問題がある。

それに、生徒会は、今のところ良好な関係を築いている。桃吉と桜秀は少々仲が悪いようだが、それを表に出すこともない。康久が二人の間ににこやかに入ってくれているのも、いいバランスを作っている。しかし、そこに、新しい人間を入れると、崩れる可能性がある。

みんながどう思うか。


「私は別に構わないわよ」


ふいに、寧々が口を出してきた。すると、これまで黙っていた桜秀も口を出してくる。


「文化祭には人手が入りますし、手伝ってもらうのは、どうでしょう?」


「あー。そうか」


確かに、文化祭まで時間があるとは言え、演劇をやるとなると人数的にも厳しい。それなら、助っ人として彼に居てもらうのも有りか。


「桃吉と康久はどう思うか?」


「僕は、撫子さんがいいなら、なんでもいいですよ」


相変わらず笑顔で真意を隠しているようだが、まあとりあえずはいいらしい。あとは、桃吉だが。


「桃吉?」


「‥‥‥別に、いいけどさあ」


ああ、これは不貞腐れているな。

でも、他のみんなの許可は取れたし、人手が足りないのは事実だ。


「じゃあ、とりあえず文化祭の手伝いということで、いてもらってもいいか?」


「はい!!」


咲田は目を輝かせる。

桃吉のフォローは後でするとして。先生に許可は得なければならないが、文化祭に向け、手伝いという名目で彼に生徒会へ来ることになった。こうして、勢いよく走り出したと思われた生徒会に、新たなメンバーが加わったのだ。



‥‥のちに、これがあんな騒動に繋がるとは思いもしないで。


明日・明後日は更新をお休み致します。

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