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第1話 イベントを成功させたい


衣替えの季節になった。

外ではセミが鳴き始め、いよいよ夏本番という感じだ。


「みんな!もうすぐ文化祭だぞ!!」


生徒会室に入ると同時に、私は高らかに宣言した。桃吉・康久・寧々・桜秀の生徒会メンバー全員集まっており、来たのは私が最後だった。

しかし、私の言葉に対して、皆んなはきょとんとしている。首を傾げて、康久が問うてくる。


「まだ、6月ですよ?」


「もう、6月末だぞ!!」


私は勢いよく康久に返し、ビシッと指を指す。そして、生徒会室にあるホワイトボードの前まで進む。


「文化祭は9月半ばだ。途中で夏休みに入ることも考えると、今から準備をしなければ間に合わない」


そこまで話して、ホワイトボードに文字を書く。

『生徒会特別イベント』と。


「生徒会特別イベント、ですか?」


「そうだ。体育館のイベントブースで、生徒会に1時間割り振られる。そのための出し物を考えないといけないんだ」


「そんなのあるんですね」


康久は驚いている。

私も最初に聞いたときは、こんなこともやるのかと思った。そして、去年のことは思い出したくない‥‥


「あの、去年はなにをやったんですか?」


と、ここで今まで黙っていた桜秀が、質問をする。転校生である桜秀は去年の文化祭にいなかったので、なにも知らないのだ。

去年の惨状を‥‥!


「去年ねえ。楽しかったよね」


ニヤニヤと桃吉は言う。多分楽しんでいたのは桃吉と去年の出し物を決定した生徒会長くらいのものだ。


「あーやめろやめろ。思い出したくない」


「逆に気になりますね」


こちらをガン見してくる康久。つっこまなくていいから。


「私、去年の画像持ってるわよ」


一方で、寧々は、スマホを取り出して、そう言う。


「やめろって。校則違反だし!」


「残念。もう校則違反じゃないのよ」


そうだった。

今までは校内でのスマホの使用は、いかなる理由があっても禁止されていた。

しかし、生徒会が一新してから、まず、スマホの使用を認めるために動き出した。私の公約にあった通りだ。

「授業や部活動・委員会活動にて必要な場合のみ」という条件付きではあるが、スマホの使用は認められた。

今回ばかりは裏目に出たが。


「ほら、見て!これ」


寧々がお目当ての画像を見つけ出したようで、去年の惨状を知らない桜秀と康久に見せる。


「へえ、これ撫子さんですか」


「これは‥‥豊臣?」


「そうよ」


私も一応確認しておこうと、画像を覗く。そこには、前生徒会メンバーの男装と女装の姿が‥‥

そう。前回の生徒会特別イベントは『女装男装コンテスト』

出場者のサクラとして生徒会メンバーは強制参加。しかも、コスプレを強要されるという‥‥もちろん私も、男装した。何故か吸血鬼の格好させられて。まったくもって意味がわからなかった。



「恥ずかしい」


私が1人自分と格闘していると、後ろでコソコソと康久と桃吉が話す。


「撫子さんって、女性に生まれたのは嫌なのに、男装はしたくないんですか?」


「うん。色々気難しい子なんだ。許してあげて」


「そこ!うるさいぞ!」


もちろん聞こえているので、そちらを睨むと、2人は肩を竦めた。


「のぶちゃんは、文化祭の後からモテてモテて仕方なかったもんねえ‥‥‥‥‥‥女子に」


「そうなんですか」


遠い目。何故か文化祭あとから、同性に告白されることが多くなった。それから、何故か「お姉さま」と呼ばれることも‥‥不思議なことに。


「思い出したくない」


「大変だったんですね」


唯一桜秀だけが理解を示してくれ、同情的な視線を向けられる。

さすが桜秀!こういう時は、悪ノリをしない桜秀のみが味方となる。


「分かってくれるか!」


「俺もこれはやりたくないです。‥‥康久なら、女装も似合いそうだけど」


「あー‥‥」


その言葉に、納得してしまう。

うん。似合う似合う。絶対似合う。そして絶対美人になると思う。

元々中性的な顔立ちをしているから、女子にしか見えなくなると思う。しかし、康久に魅了されて、帰ってこれなくなる男子の図がみえるから、危険すぎる。


「僕ですか?撫子さんがやってくれって言うなら、全然いいですよ」


「いい!やらんでいいから!」


ニコニコ微笑んでいる康久を全力で止める。コイツは、本当にやってきそうだから、しっかりと断っておかねばならない。


「とにかく!別のものを考えるぞ」


「別のもの、ねえ。目安箱に何個かリクエスト入ってたけど」


「女装男装コンテストもう一度やってほしいっていう意見が多いですよ」


「それは却下で」


5人で手分けして、目安箱の確認作業を行う。しかし、中々生徒会イベントのリクエストは書かれていない。

それどころかラクガキも多くて‥‥こう‥‥いや、別に私も生徒会演説の時に「ラクガキでもなんでもいい」って言ったけどさ。

ぶっ潰したくなるなあ‥‥‥


「あ、これなんていいんじゃない?」


「ん、どれだ?」


「『演劇』」


演劇。演劇か。

悪くないかもしれない。演劇なら、1時間の尺も埋められるだろう。

しかし、その分準備も大変だ。演劇に関して、素人ばかりだし。


「いいと思うが、大掛かりになって大変そうだよな」


「脚本からつくるとなると厳しいでしょうね」


「それなら、私がつくるわ」


寧々が手を挙げて、そう言ってくれる、


「つくれるのか?」


「まかせて」


寧々が頼もしくも、脚本を引き受けてくれた。


「でも、大道具とか」


「それなら、俺のクラスメイトに演劇部の部長やってる奴いるから、貸してもらえないか聞いてみるよ」


ネットワークの広い桃吉がそう言ってくれる。


「でも、練習時間とかは?」


「夏休み中に学校で集まればなんとかなると思います」


桜秀が現実的なことを言ってきた。そして、最後に康久が私に問うてくる。


「それでは、『女装男装コンテスト2』にしますか?」


「よし!演劇に決定だ!!」


こうして、私たちは文化祭に向けて、準備を始めることとなったのだ。







⭐︎⭐︎⭐︎




 



そして、しばらく経ったある日ー‥‥


「脚本出来たわよー」


寧々がいよいよ脚本を持ってきた。それに私はすぐに反応する。


「さすが、寧々さま!仕事がはやい!!」


「おだてても何もでないから」


寧々は不機嫌そうに目を逸らす。それが照れ隠しなのだと、最近ようやくわかってきた。

康久は、寧々の持ってきた脚本を、コピーして、私たち全員に配る。


「よし、読むかー‥‥」


その時だった。

生徒会室に控えめなノックがされる。とても弱々しいノックで空耳かと疑うほどだ。

みんなで顔を見合わせる。

今日は、担当教師が来るという話はない。であれば、誰であろう?

しばらくすると、またノックがかかる。今度は、めちゃくちゃ大きな音だ。


「うわあーダブルブッキングしちゃった時に家まで問い詰めにきた女の子のノック思い出すー」


「何してんねん」


桃吉が謎のトラウマを発動させて、青ざめはじめている。どうでもいいので、放っておいて、1番ドアに近かった私が、扉を開く。


「なんですか?」


扉を開けると、そこには一年生の男子生徒の姿が。


「お、織田撫子先輩ですかっ?!」


「あ、ああ。うん」


顔は切羽詰まっていて、声はひっくり返っている。「必死」そのものだ。


「あ、あの。おれ‥‥俺!」


何回も「あの」と「俺」を繰り返している。何をそんなに緊張しているのかわからないが、一応優しく問いかける。


「なんだ?」


私の言葉に、意を決したように顔を上げた。そして、頭を下げて、意味不明な一言を大声で言い放った。


「俺を、あなたの弟子にして下さいーーー!!!!」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい?


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