エピローグ
「撫子!」
帰り支度をしている時だった。
寧々が、私の腕を絡めとってきた。
「どうした?」
「どっか行きましょう!生徒会選挙の打ち上げよ」
「あー、確かに打ち上げしてなかったな」
「ほらほら、このカフェとか行きましょうよ!」
寧々がスマホをかざす。一応、校内ではスマホ使うの、校則違反なんだけどな‥‥?
見てみると、ファンシーでキラキラな光景が広がっている。
とても可愛らしい。可愛らしいが‥‥‥
「これは、苦手な奴にはキツいんじゃないか?」
かく言う私も、少しキツい。
「じゃあ、女子2人でいきましょうよ!!ね!」
「ええ、いや‥‥」
というか、打ち上げじゃなかったのか?
ここ最近、寧々は私を誘ってどこかに行こうとすることが多かった。あのギスギスした関係は完全になくなり、こちらとしてはやりやすいのだが。
こうも、強く押されると断りきれない。困ったものである。
「のぶちゃーん!帰ろっ!あれ、なにこれ」
と、今回ばかりは、とてもいいタイミングで桃吉がやってきてくれた。しかし、その瞬間寧々は真顔になる。
「桃吉さんに、用は、ないの」
「えー!そんなつれないこと言わないでよ!ここで打ち上げするんでしょ!いいじゃーん」
「え、いいのか」
桃吉はデートでこういった所来慣れているから大丈夫なのだろうが。しかし明らかに打ち上げの場所ではないだろう。
「打ち上げするんですか?」
「うわ、いたのか」
すると、いつの間にか康久もやって来た。寧々のスマホを覗き込んで、「おお」と声を上げる。
「いいじゃないですか。行きましょうよ」
「え、いいの?本当にいいのか?」
なんでコイツらこんなにノリノリなの‥‥?
「桜秀先輩!こっち来てください」
康久が桜秀を呼ぶと、彼は不思議な顔をしてこちらにやってきた。
「どうしたん?」
「生徒会選挙の打ち上げやるみたいです。一緒に行きましょうよ」
「ん、了解」
康久は、これから向かう店については触れず、桜秀を誘う。何も知らない桜秀は、二つ返事で了承した。
もうどうにでもなれ‥‥
というか、カフェの内装について言わなかったの、康久は確信犯だよな。絶対。
「それじゃあ、決まりね」
寧々のその一言で、結局5人全員で、打ち上げに行くことになった。
⭐︎⭐︎⭐︎
打ち上げと称して、目的のカフェにやって来た。私は覚悟をして来たが、桜秀だけ挙動不審になっていて、少し面白かった。
「え、ここ入るんですか‥‥?」
「そうよ。行きましょう」
寧々に有無を言わさぬ迫力で笑いかけられて、黙りこくる桜秀。でも、少々顔が青い。
「うわあ‥‥」
扉を開けると、思わず声が出る。
キラキラ、フワフワ。そんな単語が似合う店内である。内装は、ピンクとパープルで統一されており、所々にクマやウサギのぬいぐるみが置かれている。
寧々は「可愛いー!!」とテンションを上げているが、私と桜秀はそれどころではない。居た堪れない。しかし、一方で桃吉と康久は至って平静だ。
「なんで、お前達はそんなに堂々としてられるんだ‥‥?」
「慣れてるからねー」
「興味深くはありますが、どうでもいいので」
桃吉と康久に聞くと、そんな答えが返ってきた。‥‥そんなものか。
とりあえず、席に座り、各々注文をする。最初はダラダラと好き好きに喋っていたが、突然桃吉がある提案をした。
「はいはーい。注目!これから自己紹介をしよう!どうせだから、前世の名前も言っちゃお!」
「急だな」
急だが、まあ、いいかもしれない。これからこのメンバーで1年間一緒に生徒会を運営していくのだから。
「まずは俺から!豊臣桃吉です。甘いもの大好きな、みんなのアイドルでーす。
前世は豊臣秀吉として、信長様の元で働いてました!今世ではのぶちゃんと幼なじみだからよろしくー!」
パチパチパチパチパチパチ。
私達は、やる気のない拍手を繰り出す。あえてツッコミは入れないです。
「じゃあ次は、私が」
次に名乗り出たのは、意外にも寧々だった。
「北野寧々です。生徒会書記としてこれから頑張りたいと思います」
ニッコリと、可愛らしい挨拶をする。が、そのあとは、全く持って可愛くないことを言った。
「それから、前世では豊臣秀吉の妻でしたが、今世は、そこにいるロクデナシ浮気男のことは好きでもなんでもないので、よろしくお願いします」
‥‥うわーすごーい(棒)
寧々は始終ニコニコしていたが、私達は皆、引いている。桃吉、何をしたんだ‥‥お前。
「じゃあ、次は、僕が」
次に名乗り出たのは、康久だ。会長と副会長を最後にしようと、気を使ったのだろう。
「徳川康久です。会計になりました。唯一の1年生ですが、よろしくお願いします。前世は、徳川家康として、三河の大名でした。信長様とは同盟を結び、共に戦ってしました‥‥ご存知でしょうけど」
康久も始終ニコニコしていたが、こちらは穏やかに終わった。さっきは心臓に悪かったな。
「じゃあ、次は俺ですね」
桜秀がで挙げて、名乗り出る。やはり、最後は私にするようだ。
「明智桜秀です。副会長の大命を承りました。ここの学校には編入したばかりで至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします」
堅い。相変わらずの堅さ。
「それから、前世の名前は明智光秀でした。‥‥‥‥色々ありましたが、よろしくお願いします」
省いたな。
色々のところが重要なのに、省いたな。いや、まあ何を言っても気まずくなることは目に見えてるし、仕方ないといえば仕方がない。
桜秀が終わったので、次は私の番である。
「じゃあ次は私だな。織田撫子、生徒会長に選ばれました。前世は織田信長で、天下統一を目指していました。今世も変わらないので、協力よろしく」
「いえーい。応援する〜」
桃吉が適当に相槌を入れた。
こうして、私、桜秀、桃吉、康久、寧々の新生徒会メンバーが揃ったのである。
そんな風に話しているうちに、注文していた品々が届いてきた。
寧々は、苺がふんだんに使われ、ハートのチョコレートが乗ったパフェを。桃吉は、抹茶ソースがかけられ、モナカの乗っているクレープを。康久は、抹茶のブラウニーケーキを。桜秀は、サンドウィッチの軽食を。私は、抹茶の大福を。
「抹茶率高いわね‥‥」
「これが落ち着くんだもん」
「お茶好きだったし」
「なんだかんだこれなんですよね」
ねえ、と顔を合わせる私たち。多分、私と桃吉と康久の気が1番合うのは、抹茶に関してだと思う。
寧々は「ふーん」って顔をした後、にっこりとして、私に話しかけてくる。
「ね、ね、撫子。このパフェ一緒に食べましょうよ!」
隣に座った寧々が、私にくっついてそう誘ってくる。
「あんまり、甘いのは」
「カロリーが気になるのよ!撫子痩せすぎなくらいだし、ちょうどいいでしょ?!」
「じゃあ、頼むなって」
「ほらほら、あーん」
そう言ってスプーン差し出されると、断れなくなる。仕方なく口を開ける。
「はい、寧々。職権濫用だから」
すると、横から桃吉が寧々のスプーンを取り上げた。寧々が目を細めて、不機嫌そうに桃吉を見つめる。
「桃吉さん、職権濫用の意味知ってる?」
「自分の立場を利用して、気になる人とイチャイチャすることじゃないの?」
「かわいそう。桃吉さんの頭が」
「なんで?!」
寧々と桃吉は、夫婦漫才を繰り広げている。どうでもいいが、私を挟んでは、やめて欲しい。
「じゃあ、代わりに僕が職権濫用しようかな」
「康久?」
「はい、あーん」
「ん?」
おかしくないか?なぜ、そこで私に康久のブラウニーを食べさせようとする。
「お前の分量、減るぞ?」
「撫子さん。前に、俺のこと弟みたいって言ってくれたでしょう?弟として、姉においしいものを共有したいんです」
なんだ、そのトンデモ理論。いや、確かに弟みたいとは言ったけど、弟は姉に「あーん」はしないだろう。それとも、私が知らないだけで、現代はそれが普通なのか??
戸惑っていても仕方がないので、取り敢えず康久のブラウニーを食べようとする。
「康久」
「はいはい、先輩」
しかし、桜秀が、康久を諫めて、スプーンを取り上げた。そこで、問題が起きた。私はもう、口を開けてそれを食べようとしていたので、そのままスプーンにかぶりついてしまった。
結果的に、桜秀が私に「あーん」なるものをしたことになる。
「え‥‥あ‥‥‥」
どんどん顔を赤くする桜秀。そして、
「すみません‥‥」
居た堪れなさそうに、謝ってきた。
「い、いや私も‥‥」
そんなに照れられると、こっちも気まずくなるんだが。あーあー。何これ。本当に、なにこれ。
「ちょっと、明智さあ!どさくさに紛れて何してんの!」
「明智さん、大人気ないわよ」
「言い返す言葉もありません‥‥‥」
顔に手を当てて、言い返さない桜秀をいいことに桃吉と寧々が責め立てる。康久も笑顔でさりげなく威圧している。本当に、なんだこれ。いつのまにか、私は蚊帳の外に追いやられる。
桃吉を筆頭に騒ぎ始めるせいで、他のお客さんもこちらをチラチラ気にし始めているし、やめて欲しい。
「ね、のぶちゃんもそう思うよね?!」
「え、えー‥‥‥」
急に、桃吉が私に話を振ってきた。全く聞いていなかったし、何がそう思うのかも分からない‥‥
答えあぐねているうちにも、皆、私を急き立ててくる。
「ああ、もう!お前ら、うるさいぞ!!」
私がそう叫ぶと、何事かと店員さんが姿を見せてしまった。慌てて謝罪をする。
その横でも、未だに皆、言い争っていて落ち着きがない。ゆっくり何かを食べることも叶わないのか、と途方に暮れる。
だけど、なんだかんだで楽しんでいる表情を見ると、「まあいいか」という気持ちにもなったり。
その時、私はふと、前世の最期の時に、願ったことを思い出した。
激動の時代を生きてきた私は、最後の最期で、侘しさと虚しさに囚われて、願ったはずだ。
「来世こそ、穏やかに生きたい」と。
欲にまみれた織田信長であったが、人生の最期に願うものなんて、そんなものだ。
しかし現状は、穏やかでは、全くない。
全くないが、こういう日々も悪くない。
むしろ、楽しいとさえ思う。
願わくば、こんな日々が出来るだけ長く続きますように。
これにて第1章完結となります!読んでくださった皆様、ありがとうございました!!
次回からは新章・文化祭編(仮)に突入します。新章開始に伴いまして、執筆期間を2週間ほど取りたいと思います。また、その間に、これまで投稿した話にルビを振る・改行を訂正する・表現を変える等の変更をしたいと思っております。内容は、変わらないので、ご安心下さい。
それでは。ありがとうございました!