第19話 天下統一したい
本日は18話・19話と、2話分投稿しております。ご注意下さい。
あれから、数日が経った。
「生徒会長・副会長選の結果を発表する」
いよいよ、結果発表である。候補者4人が生徒会室に集められ、教師から結果を聞くのだ。
他の生徒には、次の日に掲示板にて知らせることになっている。
「織田撫子、346票」
まず、私の結果が言われる。
拍手が流れるが、このくらい取れることは予想済みである。気になるのは、桜秀の結果だ。
他の候補者の票も発表されていく。そして最後に、桜秀だ。
心臓が、鳴る。
「明智桜秀は」
ドクンドクン。
「345票!‥‥‥結果、1票差で、織田を生徒会長に、明智を副会長に任命する!!」
他の候補者から拍手が送られたので、私と桜秀は立ち上がり、一礼する。
ふう。終わったのか。
喜びより、安堵の方が大きい。
しかし、1つだけ気になることがあった。チラリと桜秀の方を窺う。
このまま新生徒会メンバーで会議をするそうで、他の候補者だった2人は生徒会室を出る。先生も、桃吉たち他のメンバーを呼ぶために、生徒会室を去る。
部屋には、私と桜秀だけが残される。
「終わりましたね」
「そうだな」
桜秀に話しかけられて、頷く。空気の心地いい、静かな時間が、訪れる。
「長かったですね」
「短かったような気もするけどな」
「充実していました」
「色々なことしたもんな」
「もう1度、あなたと戦えて、よかった」
「なんだ、それは」
少しだけ笑って、ゆっくり桜秀の方を向く。
ざわりと外で風が吹く。
私も、そう思っている。だけど、それは言わない。
ザワザワザワザワ。
風の揺れる音がする。
「なのに、お前は、自分自身に投票しなかったんだな」
私の言葉に、桜秀は目を見開いた。その瞬間、私は悟ってしまう。
「な‥‥んで、それを‥‥」
「図星なんだな」
「! 嵌めましたね」
候補者も、投票は出来る。しかし、皆自分自身に投票するので、意味のないものだと思っていたがー‥‥
こいつが、私に投票したのではないかと疑ったのは、ただの勘だ。根拠があった訳ではない。ただ、私と桜秀が1票差と聞いた時、なんとなくそう思っただけだ。
だから、こうしてカマをかけた。その予想が外れて欲しいと思いながら。
残念ながら、当たってしまったが。
「なんで、自分に投票しなかったんだ?」
「それは‥‥‥」
「随分となめられているんだな」
「違います!」
桜秀は否定するが、私は止まらない。
「違うことないだろう。あのサイトをつくったのはお前だ。つまり、集計結果も確認できる状況にあったんだろう」
「違いますって」
「愉快か?自分のお情けで、私を勝たせたことは」
「織田さん!」
桜秀が机を叩いて、立ち上がる。桜秀の椅子が音を立てながら、転がっていった。
「俺の票は、あなたのものです!!」
「え?」
「え。あ、いや。ちが‥‥」
なんか、今すごいセリフが聞こえたような。桜秀も顔を赤らめて、いそいそと座っているし。
驚きのお陰で、少しばかり溜飲が下がった。
「えーとですね‥‥弁明してもいいですか?」
「どうぞ」
コホン、と咳払いをして桜秀が尋ねる。なので、私は手で催促した。
「はい。俺、最初の投票の時は自分に投票していたんです。ただ、自分でこれでいいのかってずっと腑に落ちなくて‥‥」
言葉を探しながらも、桜秀は続ける。
「あなたに投票しようと思ったのは、あの時です。あなたが、2階から飛び降りた時」
「え、そこなのか?」
「そこです。あの時のあなたは、心底楽しそうな顔をしていました。ああ、この人は、目的の為なら手段を選ばないんだなって俺は思って」
「アホなんですかって言われたけどな」
「それとこれとは別です」
ツッコむと、キリッと返される。別なのか。
「そもそも、俺には会長は向いてません。どちらかと言うと、あなたを補佐する方が得意だと思います」
眉尻を下げて、確信的にそう言う。
その言葉に、嘘偽りは全く感じられなかった。
そして、私は、少し困ったようなその表情に、思わず笑いが溢れてきた。
「ふ‥‥あははは」
「織田さん‥‥?」
「いや、悪いな。そういえば、お前はそういう奴だったよな」
そういう奴だ。野心も何もない、ど真面目な、馬鹿。
だから、私はこいつを信頼していたのだ。
ひとしきり笑ったあと、私は彼に手を差し伸べる。桜秀もすぐにこちらに手を出してきた。
「それじゃあ」
「はい」
「改めて、よろしく」
「よろしくお願いします」
これから1年間、私たちは同じ生徒会役員として共に働くのだ。しっかりとした手で握手を交わす。すると、外で騒がしい声が聞こえてきた。そのまま、生徒会室の扉が開く。
「あっれー!何してるの?!」
テンションが高いのは、桃吉だ。
「相変わらず変なことしてるのね‥‥」
呆れ顔でいるのは、寧々。
「素敵ですね」
いつも通り笑顔なのは、康久。
3人がやって来たことにより、生徒会室は一気に賑やかになった。
騒がしい私達の様子に、遅れてやって来た担当教師は、呆れていた。もう仲良くなったのか、と。
「仲良くなった」?いいや、私たちはそんな生優しいものではなかった。
私たちは戦国時代を生き抜いた武将。それぞれが様々な感情を抱き、傷つきながらも、必死にその時代を駆け抜けた。例え、その結末がどんなに幸せだったものでも、残酷なものであったとしても。
私たちの絆は、途切れることなく、今世にも繋がっていたんだ。
それは、とても、すごいことだと思う。
私は、もう一度みんなの方を見る。
「だーかーら、なにどさくさに紛れて手を繋いでるんだって言ってるの」
「手を繋いでる訳じゃなくて、握手だって」
「桃吉さんこそ、どさくさに紛れて抱きついたりしてるくせに」
「へえ‥‥そうなんですね」
「康久、目が笑ってないよ!」
その表情には殺伐としたものはなく、ただ楽しそうに輝いている。
ああ、やっぱり天下統一したいな。
今の、みんなの笑顔を、守れるだけの力を今世こそ手にしたいんだ。