第18話 ハイテクがすぎる
「失礼しました」
そう言って、職員室を出て行く。
少し進むと、桜秀が姿を見せた。どうやら、私を待っていてくれたらしい。
「どうでした?」
「説明したら分かってくれたよ。私に非はないということで、お咎めはなし」
全校生徒が投票した選挙用紙が入っている箱ごと川に落としてしまった後、事態に気づいた教師たちが駆けつけてきた。
川に落ちている選挙用紙の入った箱と、姫野さん達、そして私達を見比べた教師陣は、それぞれ事情聴取を受けた。
放課後になっていないにも関わらず、学校外に出たことは怒られたが、それ以外は私に非はなかったので、思いの外すぐに解放された。
桜秀が口添えしてくれたのもあるだろう。
一方、北野さん達は、選挙結果を改ざんしようとした為、未だ説教中である。
なんでも、桜秀にガチ惚れしてしまった彼女達は、なんとかして桜秀を生徒会長にし、私を蹴落としたかったようだ。
今回の件で、私は黒い手紙のことも教師に提出した為、停学処分くらいは受けるだろう。
だが、問題はそこではないーー。
「投票、もう1回やらなきゃ駄目なのか‥‥」
そう、投票である。
川に落としたことにより、投票用紙はびしょ濡れ。ふやけて、文字が全く見えないものもある。
姫野さん達に非があるとはいえ、落としてしまったのは私である。
生徒たちや、投票を集計している途中だった先生方に申し訳ない。
「どうすればいいんだ」
「ああ、それなら大丈夫みたいですよ」
「は?!」
私が呟くと、先程までスマホをいじっていた桜秀は簡単に言ってのけた。
「いやいや、どう考えても無理だろう。もう1回投票を生徒に頼むしか‥‥」
「それが‥‥」
そう桜秀が言いかけた時、私の後ろから声がかかる。
「あ、いたいた。桜秀先輩。準備が整ったみたいです」
康久である。てか、今、名前で呼んでなかった?
「撫子さんも、安心して下さい。大丈夫ですよ」
と、私のフォローも忘れない安定のフェミニストっぷり。
って、訳が分からないんだって。
「どういうことだ??」
「こういうこと、です」
目を細めて、康久がそう言う。と同時に、ピンポンパンポーンと、校内放送が鳴った。
『みなさーん、こんにちは!豊臣桃吉です。この度、新生徒会役員の書記になりました。みんな、信任決議どうもありがとう!はーと』
桃吉だ。桃吉の声である。やたらとテンションが高いが、桃吉だ。
『えーと、なんかトラブルが発生したみたいで、もう1度生徒会長選の投票を行わなければいけなくなってしまいました。申し訳ありませーん!‥‥‥てなわけで、再投票お願いします。詳しくは皆さんのスマホにURLを送るので、そちらをご確認くださーい』
「ど‥‥」
ピンポンパンポーン、と放送は終わりを告げる。
放送を聞いたが、結局、意味を理解できなかった。
「どういうことだーー!!!」
康久の襟首を掴んで、振りながら、問い詰める。
この状況でも、はははと笑える彼は、猛者だ。
「織田さん、落ち着いて下さい。これです」
すると、桜秀が近づいてきて、私にスマホの画面を見せる。
そこには、『生徒会選挙会長・副会長選 投票ページ』と書かれていた。そして、その下には、候補者の名前が。
「康久と協力して、投票用のサイトをつくりました。そのURLを全校生徒に知らせています」
「僕がしたのは、先生方への根回しだけで、サイトつくったのは桜秀先輩ですよ」
「教師たちの許可が取れたのか?」
「はい。最初は渋っていたのですが、牧野先生が協力してくださったので」
牧野先生とは、以前糖尿病を患っていて、教師を辞めようとしていた先生だ。私と康久が倒れてしまったところを助けたのも、記憶に新しい。
その先生が、今度は私たちを助けてくれたのか。
桜秀の見せてくれた画面を食い入るように見つめる。そのサイトはプロ顔負けのものがある。
すごい。すごすぎる。この短時間でそんなこと出来るの。普通出来ない気がするのだが。
しかも、そのサイトで投票されたら、自動で機械が計算をしてくれるそうだ。
今までわざわざアナログで集めて、集計していた教師陣の苦労とは‥‥ハイテクがすぎる。しかし、気になる点もあった。
「だが、電子端末を持っていない生徒もいるだろう。そういった場合、どうするんだ?」
「それなら、生徒会室でスマホを貸し出せるように、北野さんに待機してもらっています。問題はありません」
「え、えええ‥‥‥」
「さあさあ、撫子さんも投票してみて下さい」
康久に促されて、スマホを開く。
この学校の生徒会選挙では、候補者も、投票出来るようになっている。まあ、とは言っても、候補者は自分自身に票を入れるだろうから、ほとんど意味がないのだろうが。
自分の名前を候補者の中から選び、タップする。
『決定しますか?』という表示が出たので、OKを押し、投票を完了させた。ものの15秒で出来ぞ、これ。
ただただ驚く私に対し、したり顔の2人が妙にニクイ。
桜秀とともに教室に戻ると、新しい投票制度に、クラスメイトのテンションは高く、それをつくった桜秀を絶賛していた。結果的にいい方向に向かってくれたみたいでホッとする。
こうして、生徒会選挙戦は、無事、幕を閉じたのだった。