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第17話 そんな奴、出世しない



「中間発表が出たぞー!」


クラスのお調子者が教室に帰ってきた途端、声をあげた。その瞬間、クラスメイトがヒューヒューと声を上げて、私と桜秀の方を見る。

中間発表とは、生徒会選挙の会長・副会長選のことだ。教師たちが途中まで集計した結果を、張り出すのだ。

さて、結果はどうなっているのかー‥‥‥



「現在、1位、織田さん!2位、明智くん!!」



おおおおおおー!とテンションが上がる教室内。「やったな!」「うちのクラスから生徒会長・副会長2人ともでたら、すごくない?!」「頑張ってたもんなー」といった具合で、私と桜秀を口々に祝ってくれる。

本当に、いい奴らだなと思う。


「俺らのために、勉強教えてくれたり、色々してくれてるからな」


「2人が当選したら、嬉しいよ」




「まあまあ、まだ最終結果じゃないしな」


そう言って、謙遜すると、「ま、確かにそうだね」「ちょっと盛り上がりすぎちゃった」とみんなそれぞれ席に戻っていく。あれ?


私の元には桜秀だけがポツーンと残される。

こんなはずではなかったのだが。


チラリとお互いが顔を見合わせる。が、すぐに顔を背けてしまう。


うん。なんだか、この間の演説の日からとてつもなく気恥ずかしい。


あの演説の日、桜秀が私の応援演説をしてくれたように、私も桜秀の応援演説をした。

結果は上々。私の奇抜さと、桜秀の堅実さがいい相乗効果をもたらしていた。


だが‥‥‥

応援演説ってこんなに恥ずかしいものだとは思わなかった。相手を褒めなければならないし、変なこと言っていないか、後から考えると不安になってくる。


それに。

桜秀は「信じる」と言ってくれた。

あれが例え、演説のパフォーマンスだったとしても、物凄く嬉しかったんだ。


だけど、そう考えてること自体が恥ずかしい。なんだこれ。


変な空気になってしまったので、それ以上におかしなテンションで話しかけることにした。


「ふふふ。今のところ私が勝っているようだな。見たか、明智!!」


「え、ああ。まあ、そうですね」


いきなり話しかけた私に桜秀は驚いているが、そこには僅かな悔しさが滲み出ている。負けず嫌いだからな。

少しばかり口を尖らせて、それを隠すように顔を背ける。


「そもそも、俺は生徒会長に興味ないので」


「はあ?自分から立候補した癖に?」


「それは、あなたが織田信長って認めないからでしょう?」


「認めたあとだって、立候補取り消さなかったじゃないか」


「それは、織田さんに生徒会選挙に立候補した状態で応援演説をして欲しいって頼まれたからですよ」


「あれ?そうだっけ?」


呆れ顔の桜秀。

私としては、そういえばそうだったような、くらいの認識だった。なにせ熱でフラフラしてた訳だし。


「のぶちゃーん!今んところ1位だってー!!おっめでとー!!」


と、更に気まずくなってしまった雰囲気の中に、桃吉がやってきた。相変わらず、いいのか悪いのか分からないタイミングだ。


「‥‥お前も、書記決定オメデトウ」


「あれ、なんか片言だね?!ま、ありがと!」


そう、書記と会計はもう既に決定している。

ちょうど定員通りの候補者数だったので、信任不信任決議を取るだけだった。他に代理もいないのに、不信任をする奴は生徒の中にほとんどおらず、無事、桃吉・康久・寧々は生徒会メンバーに決定した。

あとは、私と桜秀だけである。


まあ、でも中間発表を見た限り、私と桜秀は僅差だが、他の候補者とはかなり差が開いていた。これが覆ることはないだろう。

覆るとしたら、私と桜秀の順位で‥‥‥


ギッと、桜秀の方を睨む。

桜秀はビクリとする。


「ぜーったいに、負けないからな!!」


そう、指を指して宣言をする。そして、教室を出て行く。「えっ俺は無視?」と桃吉の声が聞こえた気がするが、気にしない。


桜秀には負けたくない。一度は共闘もしたが、こうなったら私たちはライバルでしかない。


「負けるわけにはいかないんだーー!!!」


そう、窓から外に向かって叫ぶ。周りから変な目で見られたが、まあスッキリした。


「ん?」


窓から外を見ると、姫野さんたちが見えた。あの、黒い手紙事件の黒幕だった、姫野さんだ。

彼女たちは、箱のようなものを持っているが‥‥

なんか、既視感のある光景だ。

奇妙に思って眺めていると、後ろから教師たちの声が聞こえてきた。


「は?!投票箱が盗まれたって?!」


「ちょ、声が大きいですって」


「なんで、見張ってなかったんですか?!」


「鍵はかけたんですけど‥‥」


教師たちは話しながら、そそくさとその場を立ち去る。


なるほどな。今ので、大体分かった。


姫野さんたちは、あの後、桜秀の説得もあってか、すっかり大人しくなっていた。まあ、桜秀へのラブコールと私への妬みが半端なかったが。こちらも録音を消すことを条件にして、あちらももう私に危害を加えることはしないと約束していたので、実害を被ることはなかった。


しかし、今の光景は‥‥


彼女たちのもとに行くか、と階段を降りようとする。が、その時には彼女たちは、姿を消している可能性を考慮する。

チラリと窓の方を見る。


うん。二階だし、大丈夫か。


そっと後ろを見て、教師が既にこの場にいないことを確認する。遠くから明智がこちらに向かってきているのが見えたが、まあ問題ないだろう。


そして、私は、勢いよく窓から飛び降りた。


後ろから「え、織田さん?!」という声が聞こえた気がするが、無視無視。


地面に着地し、姫野さんたちと目が合う。

あちらは、驚いて固まっている。

二階からだと見えなかったが、近くで見ると、やはり彼女たちが持っている箱は、投票箱であった。

それを見て、ニヤリと笑う。


「お前ら、録音のバックアップ期間は、まだ過ぎてないぞ」


最初は口をパクパクさせていただけの3人だったが、私がにじり寄ると、逃げ出して行く。


「まてーい!!!!」


彼女たちは、私より先に走り出したが、戦国時代を生き抜いた私の足に勝てるわけがない。彼女たちは学校の敷地外へ慌てて出て行く。が、すぐに追いついた。


お前たち。

そんな風に姑息な手を使ってばかりだと‥‥


「出世しないぞーー!!!」


そう言って、素早く箱を奪い取る。よし。これで大丈夫だろうと思ったが‥‥


「ちょ、やめてよ!」


肩を強く押されて、体が傾いていく。そして、その先には川が‥‥


ガードレールを体が乗り越えて、体が宙に浮く。


お、落ちるーー‥‥‥‥!


目の前がスローモーションに見える。落ちる時って、本当にこんな感じに時が遅く感じるのか。60年以上生きてたけど知らないこともあるんだな‥‥‥ってマジでおちるおちる!!!


しかし、その瞬間、上から私を引っ張り上げる者が。


「‥‥」


上を見ると、呆れ返っている桜秀がいた。


彼に引っ張ってもらい、なんとか着陸する。

ジトーと桜秀に目線を向けられるので、あさっての方向を向いた。


「いやー、助かったよ」


「アホなんですか?」


「‥‥」


言い返せない。言い返せないが、投票箱の危機だったから仕方ないんだ‥!


そこまで考えてハタと気がつく。

私、投票箱を持っていない‥‥??

慌てて、ガードレールに身を乗り出して、川を見てみる。桜秀は、私が飛び降りるのかと再び慌てたが、そんな場合じゃない。

そして、投票箱は‥‥‥‥無残にも川の中に落ちていた。しかも、中に入っていた投票用紙を散りばめ、濡らしながら‥‥


「あ、あー!!投票箱がー!!!」


この事態、どうしましょう。



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