第15話 言霊
「まったく。無茶苦茶ですよ‥」
そうあきれつつも、彼はどこか矜持を持つ表情をしていた。
桜秀はあとは何も言わずに、壇上へ上がっていった。
桜秀が壇上に現れると、生徒たちはざわつき始めた。
「あれ、あの人って次の候補者じゃない?今、応援演説だよね?」
「間違えちゃったんじゃない?」
「え、でもそういう雰囲気じゃなくね?」
「じゃあ、本当に彼が?」
「そんなのってアリなの?」
みんな、驚いている。「前代未聞」のことに。これで、桜秀の演説も気になって、気が逸れることはないだろう。
「応援演説をする明智桜秀です」
そう言うと、また再び会場はざわついた。戸惑いと期待。
何を言ってくれるのかと、会場内が僅かに沸き立つ。
そんな中で、桜秀は息を吸って、第一声を発した。
「織田撫子という人物は、はっきり言って、馬鹿です」
‥‥‥ドカンとやってくれたな。
会場内がまたも、凍りつく。それでも、桜秀は言葉を止めない。
「大馬鹿ものですよ。いきなり天下統一って言ったり、他の候補者に応援演説を頼んできたり。正気の沙汰じゃありません。この場を任された俺の気持ちも考えて欲しい」
会場内に「確かに‥‥」という雰囲気が流れる。悪かったとは思うが。おい。
「織田さんのエピソードはこれだけじゃないんですよ。一人の教師を救ったり、いじめを力づくで止めたり‥‥裏切り者を許したり。本当に馬鹿ですよ」
意味のわからない言葉に会場はまたもざわめく。
しかし、私には、その意味が分かる。
裏切り者。
その言葉に、驚く。
お前は、自分をそう言うのか。本当に、そう思っているのか、と。
「でもそういうことって、相手を本気で思っていなければ出来ないことだと思います。相手を思っているからこそ、強引で滅茶苦茶なんです。そして、それは、誰にでも真似できることではありません」
彼の演説を聞く誰もが、一つ一つの言葉に引き込まれていっている。もう、戸惑いの表情をする者はいない。
「彼女は、『やる』と言ったら、本気で実現しにいきます。だから、彼女が先程挙げた公約も絶対に実現してくれます」
裏切り者のくせに、そんなこと言ってくれるのか。なんで、そんな風に‥‥
「俺は、そう信じています」
私のこと信じるって言ってくれるのか。
それなら、どうか。
「だからどうか、織田撫子に清き1票をよろしくお願いします」
どうか、もう一度、私と共に、戦ってくれ。前世と立場違えど、今度こそ、私は果たすから。
静かに頭を下げる桜秀に、少しずつ拍手が向けられる。
彼の言葉は、大衆を動かし、そして結果、拍手といううねりを生み出した。
いつになく短い話になってしまいました‥‥反省です。