第13話 その後の顚末
「え、寧々って転生してたの?」
「え、お前、寧々のこと気付いなかったのか?」
私と桃吉、2人の声が交差する。
その瞬間、窓の外では、鳥がバサバサと羽音を上げて飛び去って行った。
ここは、生徒会室。
今日は、生徒会選挙戦の演説についての説明が教員からされるので、ここに来ている。
今日この集まりがあることは、寧々に改めて話してある。書記になることを考えるなら、この集まりに来て欲しい、と。
彼女は、複雑そうな顔で、「考えさせて欲しい」と言っていたが。
他の生徒はまだ来てないため、今日いきなり寧々が来たら驚くだろうと思って、私は桃吉に寧々とあったことを話した。
寧々も転生していることには気付いていると思って、それを前提に話をしたのだがー‥‥
「知らないよ。全く気が付かなかった」
「‥‥」
それは、ちょっと可哀想なんじゃないのか。
あんなに一途に桃吉のことを想っているのに。
私は、てっきり桃吉の言っていた「好きな人」は、寧々のことなんだと思っていた。なんだかんだと言って、2人は両思いなのだと。
だから、生徒会に誘って、さっさと誤解を解いて、仲良くなればいいと思っていたのだが。
と、いうことを大体話すと、思いっきりため息をつかれた。
そして、呆れた目でこちらを見られる。
「あのね、前世は前世。今世は今世だから」
「‥‥‥そんなものか?」
「そーそ。前世で結婚した人と今世も結ばれなきゃいけない理由なんてないしね。‥‥それより、いつの間に明智と仲良くなってるよね」
「う‥‥」
それを言われると苦しい。
確かに、ここ最近は桜秀と行動することが多かった。
しかし、その前までは、私が駄々をこねて、桃吉に色々フォローしてもらっていたのだ。
桃吉は、「明智」という単語を発する時、顔を思いっきり歪めている。そのくらい嫌なことに付き合ってくれていたのだ。
「その、それは‥‥色々協力してもらったのに、申し訳ないと思ってる‥けど‥‥」
愚痴も聞いてもらったし、庇ってもらったし。なんだかんだと言って、桃吉にはいつも助けてもらったばかりなのだ。
桃吉は打って変わって、にこりと笑った。
「それなら、お礼して欲しいな」
「お礼?お金かかるのは無理だぞ」
「知ってるって。一人暮らしなんだから。‥‥そうだな。じゃあ、10秒間、目を瞑ってくれればいいから」
「そんなことでいいのか?」
「うん」
桃吉は異様なくらい上機嫌で、ニコニコしている。
桃吉の意図は分からないが、そんなことでいいならお安い御用だ。たった10秒だし。
そっと目を閉じる。
1、2、3
ん?なんか気配を感じる?
4、5、6、7‥‥‥
「っててて、ギブギブッ」
7秒まで数え終わったところで、桃吉の悲痛な叫びが聞こえてきた。
目を開けると、桃吉の腕を捻り上げている笑顔の康久がいた。桃吉は机に押し付けられている。
康久の笑顔が、怖い。
「ちょー、康久康久!やめて!!」
「ああ、桃吉先輩でしたか。不審者かと」
そう言って、康久はパッと手を離す。
桃吉はヒーヒー言ってるが、何故に桃吉を不審者に間違えたのか。
疑問に思いながら、扉の方を見ると、桜秀もそこにいた。こっちに会釈をしてちょうど空いている私の隣の席に座る。
すると、康久は私の目の前の席に座った。
「明智先輩と一緒に来ました」
「え、いつの間に仲良くなってるの」
こっちもこっちで驚きだ。
聞いてみると、この間の休みは、一緒に出掛けたらしい。コミュニケーション能力高さに脱帽する。
感心していると、隣の桜秀から耳打ちされた。
「あの、すみません。お邪魔でしたか?」
「? 生徒会選挙に出る奴は全員ここに参加しなきゃいけないんだぞ。邪魔も何もないだろう」
「いや、そういうことじゃなくて‥‥‥豊臣が‥‥」
「桃吉がどうかしたのか?」
「‥‥‥いえ、なんでも」
桜秀はなんとも言えない顔でこちらを見る。なんなんだ。失礼だな。
「それで、結局さ。姫野さん?達はなにがしたかったの?」
すると、先程まで痛みに悶えていた桃吉が、話を戻してた。
「あー、なんか。康久や桃吉と仲良いのが普通に気に食わなかったみたいで」
「ただの嫉妬ってこと?」
「そうだな」
私が寧々を追いかけに行った後、桜秀がきっちり動機などを聞いてくれていた。
ただ単純に、イケメンを侍らせているように見える私が、目障りだったみたいだ。
更に、桜秀は、2度とこのようなことはないように、と釘を刺してくれたようだ。
ただ、今度は桜秀を見る彼女たちの目がハートになっていたのが、少し気になったが‥‥‥
まあ、こちらが証拠を押さえていることもあって、もう同じようなことはしないだろう。
そんなことを話しているうちに、他の候補者と担当教員も集まってきた。
1人、2人、と席に座っていく。
‥‥‥寧々は、来ない。
いくら書記枠が1つ空いているからと言っても、今日来ないと、選挙戦には出馬出来ない。
やはり、駄目なのか。
彼女の新しい居場所になれたら、と思ったが。
「じゃあ、そろそろ始めるぞー」
参加人数が集まったので、教師が会議を始めてしまう。
選挙戦に関する必要事項など細々したことを伝えていく。寧々のことは気になるが、とりあえず真剣に話を聞くことに。しかし、話始めた事項は、さっそく書記に関することで、焦った。
「じゃあ、まずはそれぞれの役職の定員について。生徒会長・副会長・会計はそれぞれ1人。書記は2人。それに対して出馬人数は、会長・副会長選には、4人。会計・書記は1人ずつしかいないから、生徒に信任か不信任かを問うことになる。書記は定員に達さないから、もう1度再選を行うことになりそうだな」
「あの」
そこで、私はすかさず手を挙げた。
「なんだ?」
「書記に関してなのですが、実はもう1人候補がいて、今日来るはずなんですが」
教師は、私の言葉に怪訝な顔をする。
「そんなこと言ったって、今日ここに来なければ話にならないぞ。再選を待つしかないな」
「そう、ですが」
「なんだ。まだ何かあるのか」
教師は話を止められて、明らかに機嫌を悪くしている。しかし、それでもこのまま終わってしまえば、寧々は再戦には出てくれない気がしたのだ。
「織田、もういいだろう」
のぶちゃん、と桃吉が口パクでこちらに訴えかける。私は仕方なく、会議を止めてしまったことを詫びようかと思ったがー‥‥
「すみません!」
その時だった。
生徒会室の扉が開かれたのは。
「私も、生徒会選挙の書記を希望しているんですけど、まだ間に合いますか?」
「寧々‥‥」
寧々だ。
来てくれた。来てくれたのだ。
教師は寧々に渋顔で許可を出す。「次からは遅れないように」と。寧々はペコリと、頭を下げて席に着く。
目立ってしまったのが恥ずかしいのか、少し顔を赤くして、髪をいじっている。
彼女の様子を見ていると、パチリと目があった。途端に、不機嫌そうに目を逸らされてしまったので、苦笑いしか出てこないが。
それでも、私は嬉しかったんだ。
さあ、これで全てが揃った。
私たちの生徒会選挙戦が、いよいよ始まる。