第10話 怪文から恋愛相談へ?
次の日の朝。
例の通り、黒い手紙が入っていた。中身を確認すると、罵詈雑言が書かれた紙と生徒会選挙を降りろと手書きで書かれた紙の2枚が例の如く入っていた。
いつもはそれを、回収していくが、今回ばかりはそれに新たな紙を入れた。
そして、そのまま下駄箱の中に放置する。
私はほそく微笑んだ。さて、犯人はどんな反応をするのやら。
⭐︎⭐︎⭐︎
更に次の日。
いつもの黒い手紙が入っている。しかし中身を見てみると、手書きの文字が普段とは違っていた。
『つべこべ言わずに、さっさと辞退しなさい!!』
その文言にふふふと、笑いがこぼれる。文面に人物像が出てきたぞ。
何をしたかというと、簡単なことだ。手紙に返事を書いたのだ。もちろん直筆だとまずいので、パソコンで文字を打った。
『誰が辞退するか、ばーか』と。
せっかく手紙をくれているのに、返事をしないとは不誠実だろう?
だから、返事をしたまで。
まあ、目には目を歯には歯を方式で、罵倒に罵倒で返しただけだが。
さあ、もっと素を出してもらおうか。
私は今回もそれに返事を書いた。その度にそれに対する返事が返ってくる。
犯人と私のやり取りは毎日続いた。ちなみに、やり取りは以下の通りである。
犯人『生徒会選挙選を辞退しろ』
私『誰が辞退するか、ばーか』
犯人『つべこべ言わずに、さっさと辞退しなさい!!』
私『私が辞退することで得られる理由を20字以内で述べよ』
犯人『そんなのどうでもいいでしょう?!こっちの都合よ』
私『3文字オーバー。そっちの都合とは?』
犯人『都合は都合よ!そもそもなんであんた生徒会選に出るのよ!』
私『天下統一したいから』
犯人『頭、おかしいんじゃないの?!』
と、こんな感じにやりとりをしていった。
とりあえず、文章のかんじから、相手はやはり女子だと判断する。
それにしても、なんだか段々普通の友人ぽっいやりとりになってきたが。
その上、やりとりの頻度が上がって、今では下駄箱を確認すると1日に2、3回は返事が入ってる。不思議なことに、私を罵倒するパソコン打ちの文字は、朝にしか入っていなかった。
まあ、こうしてやりとりするのはなかなか楽しい。そう思うのはおかしいだろうか?
私『毎日飽きずに怪文を入れる方が、頭がおかしいと思う』
犯人『それは、悪いと思ってるわよ』
私『じゃあ、辞めてくれるか?』
犯人『無理よ。こっちにも事情があるの』
私『事情とは、恋愛事情か?』
この言葉には、反応を示さなかった。ということは‥
私『図星だな?』
犯人『うるさいわね!』
私『だからといって、こうやって陰湿なことはするべきじゃないぞ。好きな人には好きとはっきり言うべきだ』
犯人『はっきり言えないから、こんなくだらないことをしているんでしょう?!』
私『大丈夫。男子は女子が好意を示してくれば、嬉しいことに違いないから』
犯人『あんた、女子でしょう!なにが分かるの』
私『言えないなら、恋文でも書けばいい。なんなら、添削してやるぞ』
犯人『ばっかじゃないの?!』
‥‥‥‥‥段々、恋愛相談になってきた。
うーん。ツッコミどころ満載である。
それからしばらくは、何故か私が犯人にアドバイスするやりとりが続いた。
「のぶちゃん、最近楽しそうだよねえ」
「そうか?」
そんなある日のこと。いつも通り、桃吉と晩ご飯を食べている時、急にそんなことを言われた。私としては大した変化はなく、心当たりもないので、首を傾げる。
「うん、楽しそうだよ。一時は落ち込んでたみたいだし」
その言葉にハッとする。もしかして、と思ったのだ。私の表情を見て、すこし悲しそうに桃吉は笑った。
「知ってるよ、なんかあんまり良くないものが下駄箱に入ってたんだってね」
言葉を濁しているが、黒い手紙のことを言ってるのは、分かる。
「‥‥‥いつ、知ったんだ?」
「のぶちゃんが倒れた日。明智に言われた。幼なじみなんだろう、だって」
「ごめん、黙ってて」
「いーよー」
桃吉は何かを隠すかのように笑ったので、今まであったことを全部話した。もちろん、桃吉の前世の妻・寧々が犯人である可能性は伏せて。
犯人をおびき寄せる作戦や、罵倒に罵倒を返したこと。何故か最近恋愛相談をしていることを話した。手紙に返事を出したところの話あたりから、桃吉は爆笑していた。笑いすぎて若干呼吸困難になっていたくらいだ。
そして、最後に言った。
「まあ、結果どうなるか分からないけどさ、俺はいつでも味方だから。頑張ってよ」
それを聞いて、今まで考えもしなかったことをふと思う。
もし。もしも、寧々が本当に秀吉の妻のねねだったら。
こいつは、どうするんだろう、と。
⭐︎⭐︎⭐︎
それでも犯人とのやりとりは続いていく。
私『だから、小細工ばっかり使うんじゃなくて、ストレートに言えばいいんだ』
犯人『それが出来ないから困ってるんでしょ!』
私『だったらラブレターをおくれ。こんな不毛なやりとりしてないで』
犯人『古風すぎるわよ!それから、不毛なやりとり始めたのはあんたでしょうが!!』
私『古風だからこそいいんだろう。‥‥じゃあ、あれだ。ミラーリング効果を使え。最新だぞ?』
犯人『大して最新でもないわよ。それに気持ちがバレる可能性が上がるわ。それよりも、さりげないボディタッチの方が効果的だと思うのだけど、どう思う?』
『そうだなあ。人によるんじゃないか?』
‥‥‥‥‥‥‥そんなやりとりをした、その数日後。
「ちょっと、いい??」
そう声をかけられて、見上げると、そこには目をつり上げた北野寧々の姿が。体面的に笑顔を取り繕っているが、その顔は明らかに引きつっている。
私は余裕綽々と了承をして、寧々について行く。何を言われるのか、とても楽しみだ。
私たち2人は空き教室に入り、扉を閉める。
向かい合って、探りあいの視線が交差する。
どちらが口火を切るのか。その緊張感の中で、先に煮えを切らしたのは、そちらの方だった。
「‥‥んで‥‥‥‥のよ」
「ん?」
下を向いて、ボソリと発した言葉が聞き取れず、聞き返してみる。すると、こちらをキッと睨み、声を荒らげた。
「なんで、私があんたに恋愛相談なんてしてるのよ!!」
「いや、こっちが聞きたい」
本気でそう思います。