表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

プロローグ

 その時、高梨天輝(あき)の眼前、もっと正確に言えば眼下には、雪が積もった険しい山岳地帯が広がっていた。

(またこれか……。こんな山脈を見るのは初めてだけど、毎回凄くリアルだなぁ……)

 子供の頃から何度となく非日常的な光景を夢に見ている彼女は、普通目にする事が不可能な様々なパターンの景色を、素直に受け入れていた。

 当初は二卵性双生児の妹、海晴(みはる)に夢の内容を嬉々として話していたものの、数年前に妹が家を出てからはそれを誰にも話す事は無く、天輝だけの密かな楽しみとなっていた。

  

(うわ……、海が見えてきた。あ、凄い! 氷山だよね、あれ!)

 目にする景色は空中を移動する時のように徐々に変化し、視界一杯に広がった氷に閉ざされた厳冬海の光景に、天輝のテンションも上がる。


(毎回、この夢って何なのかしら? でも鳥の視界みたいなアングルで、行った事のない場所の珍しい景色を見られるから、お得だけどね。悪夢とかじゃないから、全く実害は無いし)

 そんな事を考えているうちに次第に視界がぼやけてきた事で、天輝は自分が覚醒し始めた事を自覚し、少々残念に思いながらもそれに抗ったりはしなかった。


「……ふぁあ、良く寝たぁ。また素敵な景色を見られたし、今日はなんだか良い事がありそう」

 すっきりとした寝覚めを迎えた天輝は、布団の中で満足げに呟いてから、鳴り響く直前だった枕元の目覚まし時計のタイマーをオフにした。そしてベッドから下り立ちつつ、何気なく壁に飾ってある複数のパネルに目を向ける。

 それらは高校卒業後に専門学校へと進み、才能を発揮して既に写真家として独り立ちしている海晴から贈られた物であり、数多い妹の作品の中でも天輝のお気に入りの風景作品群だった。


「世界中を飛び回っている海晴だって、ああいう景色は見られないだろうし。今日も頑張ろうっと」

 天輝は何気なくそれのパネルを見ているうち、妹の所在に思いを馳せる。


「そう言えば海晴、今頃どこに居るのかな? この前帰ってきた時は『次は北欧に行く』とか言っていたけど、その時その時の気分であっさり行き先を変えるから、全然当てにならないし……。本当に、まともに連絡をくれる方が少ないんだから。こっちは結構心配しているのに」

 困った事だわと最後は溜め息を吐いた天輝は、すぐに気を取り直して着替えを始めた。

 それは全く代わり映えしない、いつも通りの朝の光景だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ