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帰国 2

「それで、その〝優れた成果〟はそろそろ出そうなのか?」


 ダニエルの問いかけに、私は首を横に振る。エドは色々と試行錯誤を繰り返しているようだが、未だにいい結果が出たという話は聞いていない。


「魔法を使えない人間でも発動する魔法陣を作りたいようですが、なかなか難しいようです」


 ダニエルは「そうか」と一言だけ言うと、何か思考に耽るようにそのまま黙り込んだ。



 馬車乗り場に到着する。

 ナジール国とサンルータ国の王族が乗っていた馬車が同時に停車していたので、辺りは豪華な馬車でさながら舞踏会会場のような華やかさだ。


 つと、ダニエルが後ろを振り返る。


「魔法を使えない者でも使用できる魔法陣の研究をしているそうだな?」


 ダニエルは後ろから歩いてきたエドに、そう語りかけた。


「もしもそれができれば、ナジール国だけでなく我がサンルータ国やここニーグレン国でも色々な魔法が身近に使えるようになるということだな?」


 エドは突然ダニエルに話しかけられて少し驚いたような表情を見せたが、すぐにダニエルが我が国の魔術の研究成果に興味があるのだろうと悟ったようだ。


「はい、その研究をしております。ただ、まだまだ先は長そうです」


 ダニエルは「そうか」と言うと、一拍言葉を止める。


「ところで、俺は時折、とても面白い夢を見る」

「夢、ですか?」


 エドは、ダニエルのなんの脈絡もない話題転換に、戸惑ったような表情を見せた。ダニエルはそんなエドの様子に構うことなく、意味ありげに口の端を上げた。


「ああ。その夢で、魔力を放出できないはずの男が魔法陣を発動させた」


 エドは眉根を寄せたまま、ダニエルの顔を見つめる。


「……そんなことが、可能でしょうか?」

「さあな。所詮は夢だ。その男が持っていたのは、魔力放出を防ぐための拘束首輪と魔法珠。たったそれだけだった」

「魔力の放出を防ぐための拘束首輪と魔法珠……?」


 ダニエルはそれだけ言うと、フッと笑う。

 

「よい成果を期待しよう」


 そして困惑するエドから目を逸らすと、驚愕で目を見開く私のほうを見つめた。


 私は驚きのあまり言葉が出てこなかった。

 魔力の放出を防ぐための拘束首輪と魔法珠ですって?


 だって、それは──。


「アナベル姫。一年後、きみを迎えに行けることを楽しみにしている」


 ダニエルはそう言うと、少し屈んで私の唇すれすれのところにキスをした。


「では、達者でな」


 青いマントが風に靡いてはためく。

 私はただただ、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。





 ナジール国への帰国は、行きと全く逆のルートを辿る。

 ニーグレン国の王宮からナジール国の国境までを馬車で向かい、ナジール国に入国後は国境沿いで一番大きい都市で一旦馬車を降りる。そして、そこからは転移の魔法陣で王都に戻るのだ。


 出発の合図と共に、カタンと車輪が動く音がする。

 そのとき、私は微かに自分を呼ぶ声がした気がしてハッとした。


「アナベル様!」


 今度は空耳ではなく、はっきりと聞こえた。

 慌てて馬車の窓から顔を出すと、キャリーナが王宮のほうから走り寄ってくるところだった。よっぽど急いで来たのか、頬は紅潮している。


「キャリーナ様、どうされたのですか?」


 キャリーナはまだ大事を取って、自室で療養中だ。先ほど控えの間に見送りに来てくれただけでも驚いたのに、一体どうしたのだろう。


「あのっ、本当に感謝しています。わたくしを助けてくれて──」

 

 キャリーナは息を切らせながら、私にそう告げる。

 そして、小さな箱を私に差し出した。真っ白の箱の蓋にはリボンが付いており、可愛らしい印象を受けた。


「これ、アナベル様が来るって決まったときに作ったみたいなの。わたくしとお揃いで」

「え?」


 私はその白い箱を受け取って蓋を開ける。

 中には小さな花が付いた金細工のブローチが入っていた。


 きっと、私をニーグレン国に招待した直後は、キャリーナがまだエレナと入れ替わる前だったのだろう。

 思いがけないプレゼントに、私は驚いた。


「また、ニーグレン国にいらっしゃってくださいますか?」


 キャリーナは私の顔色を窺うように、おずおずと口を開く。そのエメラルドグリーンの瞳は不安げに揺れていた。


 トールによると、トールやエドはキャリーナにかかった魔法を解くためにできる限りのことはしたらしい。その甲斐あって、元に戻った直後のような幼児性はなくなった。

 けれど、キャリーナの記憶は入れ替わった期間とその前後を中心に、まだ完全には戻っていない。これは、ときの経過と共に回復するのを待つ他ないようだ。


 きっと、キャリーナはことの概要を掻い摘まんでアロルド殿下から聞き、今回のことで私がニーグレン国に悪印象を持ったのではないか、そしてキャリーナに対して負の感情を持ったのではないかと恐れているのだろう。

 私はキャリーナを安心させるようににこりと微笑む。


「もちろんです。だって、わたくし達はお友達でしょう?」


 その瞬間、キャリーナは花が綻ぶような笑みを浮かべた。


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