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帰国

 控えの間に行くと、そこには既にナジール国から私と共にやって来た面々とダニエルと共にサンルータ国からやって来た面々が揃っていた。見送りはニーグレン国王夫妻とアロルド殿下、それにキャリーナだ。


「短い間ではございますが、お世話になりました」


 私は部屋の中央に佇むニーグレン国王の前へと進むと、今回のおもてなしへの謝辞を述べ、お辞儀をする。

 ニーグレン国王は私を見つめ、鷹揚(おうよう)に頷いた。


「今回の件では、アナベル姫にはとても助けられた。礼を言おう」


 ニーグレン国王はアロルド殿下に今回の事件の一部始終を聞いたようだ。

 一国の王からの直々の感謝の言葉に、私は口元に笑みを浮かべる。


「お役に立てたのならば、大変嬉しく思います。アロルド殿下やサンルータ国のダニエル殿下の助けがなければ、キャリーナ様をお助けすることはできませんでした」


 アロルド殿下には、キャリーナに近付くために色々と手を回していただいた。それに、もしも今回ダニエルがいなければ、私はただ単にキャリーナはエレナの体調不良が原因で気が立っているのだと思うだけだっただろう。

 

 ニーグレン国王は小さく頷くと「両国には深く感謝している」と言い添えた。


 王女である私が外遊する際の最大のミッションは、国と国の関係をよりよいものに、そしてより強固なものにすることだ。

 今回は想定外のことがたくさん発生したけれど、初めての外遊で自分の使命は果たせたようだと私はほっとした。





 控えの間での別れの挨拶が終わると、私達はいよいよ帰るために馬車へと向かう。

 その途中、「アナベル姫」と声をかけられて私は振り返る。


「ダニエル殿下」


 そこには、私と同じく帰りの馬車へと向かうダニエルがいた。

 今日のダニエルは金色の肩章や飾緒が付いた豪華な貴族服を着ている。その姿は、まさに誰もが想像する王子様そのもののように見えた。

 私は立ち止まってダニエルが来るのを待つと、並んで歩き始めた。


「ダニエル殿下。この度は、色々とお世話になりました」

「いや、いいんだ。俺のほうこそ、世話になった」


 ダニエルは片手を振る。

 その様子を見ながら、私はどうしても気になっていたことをダニエルに尋ねた。


「ダニエル殿下。先日私に不思議な夢のことを話してくださいましたね。あれは、本当に夢ですか?」


 ダニエルの語った夢は、私の知る前世とは少し異なる。私の前世では『南の魔女』という言葉は一度も出てこなかった。

 けれど、やっぱりダニエルは私と同じく前世の記憶があるのではないか。私にはどうにもそう思えて仕方がなかった。


 けれど、ダニエルは私の予想を否定するように、おどけたように笑う。


「ああ、夢だ。おかしな夢だろう? だが、今回の件で自分は予知夢のような能力でもあるのかと思った」

「そうでございますか……」

 

 それ以上追及することもできず、私は曖昧に微笑む。


「今回は色々あってあまりゆっくりできなかったが、また会おう」

「はい、是非」


 私が頷くと、ダニエルは私の顔を覗き込むように身を屈めた。


「アナベル姫、意味がわかっているかな?」

「はい?」


 私が首を傾げると、ダニエルはこちらを見下ろして苦笑した。


「俺はきみに求婚した。ナジール国王陛下はアナベル姫が十八歳になるまでは誰とも婚約を考えていないと言ったが、その頃にもう一度きみに会いに行こう」


 その意味を理解した瞬間、頬が紅潮するのを感じた。

 確かに私の十六歳の誕生日の祝賀会に参加するためダニエルがナジール国に来た際に、結婚の申し込みをしたと聞いた気がする。


 十八歳の誕生日。

 その日まで、あと一年と少ししかない。


「アナベル姫が婚約を渋るのは、彼が原因かな?」

「え?」


 ダニエルはふと視線を後ろへと移動させる。そこには、トールと並んで歩くエドの姿があった。

 私はどきりとしたが、何事もないように澄ました顔をする。


「なぜそう思うのですか?」

「先日の取り乱した様子を見れば、彼がアナベル姫にとって特別な存在なのだろうということはわかる。それに、彼は魔術師でありながら近衛騎士以上にきみを守ろうと全力を尽くす」


 私は気恥ずかしさから視線を泳がせた。〝先日の取り乱した様子〟というのは、エレナとの一連の事件が終わった直後のことを指しているのだとすぐにわかった。

 周囲にいる全員を守る防御壁を保ちながら膨大な魔力を持つエレナとやり合ったエドは、あの後に魔力枯渇を起こして倒れた。

 幸いにして少し休んだだけですぐに回復したけれど、また自分のせいでエドが死んでしまうのではないかと思った私は激しく動揺し、取り乱したのだ。


 一国の王女が魔術師に恋をする、ましてやそれを理由に政略結婚を渋るなど、愚かなことだ。

 けれど、ダニエルはそんな私を糾弾することなく、まっすぐに前を見つめていた。


「彼は、ナジール国の公爵家の人間ではなかったか?」

「……はい。でも次男なので公爵位は継げません。だから、なんとか魔法伯を得たいと」

「魔法伯?」


 ダニエルは聞き慣れない爵位に首を傾げた。


「我が国独自の爵位です。侯爵と同格で、魔術で特に優れた成果を出した魔術師に授けられます」

「なるほどな」


 ダニエルはそれを聞いただけで、全てを理解したようだ。

 お父様がエドという優秀な魔術師を国に使役させるために彼の願いを聞き入れ、私の政略結婚を十八歳の誕生日まで様子見しているのだと。


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