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十六歳の誕生日 3

「ここは……」


 私は周囲を見渡した。

 私達が転移した場所は馬車の通る大通りからは一本、小道の中に入り込んだ場所で、細い路地の向こうには交差する大通りの往来が見えた。カタコトと軽快な音をさせながら、荷馬車が横切って行く。


「城下ね?」


 お忍びで城下に来るなんて初めてだ。わくわくして目を輝かせる私を見つめ、エドは口元に手を当ててくすくすと笑う。


「そうですよ。何度もいらしているでしょう?」

「でも、エドと来るのは初めてよ」

「そうですね。時間もないのでさっそく行きましょう」


 エドは私の手を握ると、大通りの方向を指差した。


「ねえ、エド」


 歩きだそうとするエドの手を、私は咄嗟に引く。


「どうされました?」

「よくよく考えて、こんなことして大丈夫かしら? 勝手に城を抜け出すなんて……」


 かつて、自分の浅はかな行動で多方面に迷惑をかけたことを思いだし、私は急に不安になった。またなにかあったら、取り返しがつかない。それに、私が怒られるならまだしも、今回はエドの責任問題になる。


「ああ」


 エドは私の心配事に気付いたようだが、変わらず笑顔だ。


「それなら大丈夫ですよ。シャルル殿下に言ってあります」

「お兄様に?」

「ええ。流石に何も言わずに姫様を連れ出したら、俺は王女誘拐犯ですね。その代わり、今度シャルル殿下の変装のお忍びにお付き合いする約束です」


 おどけたようにエドは笑う。


 お兄様が知っている? 

 お兄様はどこまで知っているのだろう?

 ただ、ここに来ること? それとも、私達の関係?


 次々に湧き上がる疑問は、エドの掛け声でかき消された。


「ご不安がなくなったなら、行きますか?」

「うん」


 エドは私の手を引いて歩き始める。

 二人で手を繋いで歩いているのに、誰も振り返らない。私達は今、どこからどうみても上流階級の若い恋人同士にしか見えないだろう。

 触れ合った手が大きくて、優しくて、ほんわかと気持ちが温かくなる。


「うふふっ」


 なんだかとても楽しくなって、思わず笑みが漏れる。

 エドはそんな私に気づき、こちらを見下ろす。

 目が合うと、いつもとは違う茶色い瞳が優しく細まった。


 エドは私の手を握りながら迷うことなく歩き続け、一軒の店舗の前で立ち止まった。


「あ、ここ……」


 全面に彫刻が施された重厚な扉、等間隔の石柱、見覚えのある白亜の建物……。そこは、以前魔法珠をなくした日に訪問した高級貴金属店【サンクリアート】だった。

 

「お誕生日なのですから、まずはプレゼントを買わないと」


 店舗の入口に立つ警備員兼ドアマンが気取った調子で扉を開ける。エドは迷うことなく三階の高級貴金属売り場に向かった。


「高いでしょう?」

「姫……、ベルの成人祝いなのだから。王宮魔術師は一応高給取りとされているのですよ」


 エドはいつものように『姫様』と言いかけて、咄嗟に『ベル』と言い直す。私がお金の心配をしたことが心外だったようで、少しふて腐れたように口を尖らせた。


「ごめんなさい、余計なことを聞いたわ。じゃあ、買ってもらっても?」

「もちろん。そのために連れてきました」


 エドは一転して嬉しそうに笑う。

 私はおずおずとショーケースの中を覗いた。販売員とエドが、「プレゼントですか?」「ええ、そうなんです」と話しているのが聞こえた。


 赤、青、黄色、緑、紫……。

 様々な色合いの宝石が埋め込まれた貴金属が並べられている。


(どれにしようかしら……)


 見ているだけでうっとりして、目移りしてしまう。

 暫くそれを眺めていた私は、販売員に話しかけた。


「あの……、髪飾りはありますか?」

「もちろんございます。あちらですよ」


 販売員は私達を今いるところとは別の一画に案内した。


「ベルは髪飾りがいいのですか?」


 案内されながら、エドは拍子抜けしたような顔をする。私がネックレスやイヤリングを選ぶと思っていたようだ。


「ええ、少し控えめな髪飾りがいいわ。それなら、いつでも身に着けていられるでしょう?」


 エドは茶色い目をぱちくりとすると、その意味を理解したようで嬉しそうに破顔する。


「そうですか。では、お好きなものをお選びください」

「うん」


 成人すれば、今までのようにしっかりと襟の詰まった制服ばかりを着ている生活ではない。公式の場では王女に相応しいドレスを着ることになる。そうなれば、アクセサリーもドレスに合わせて用意されることが殆どだ。


 その点、控えめな髪飾りであればいつでもつけていられると思ったのだ。


「わたくし、これがいいわ」


 私が手に取ったのは、透明の宝石と一つ空きになった宝石台がついたとてもシンプルな髪飾りだ。空きになっている部分は、魔法珠であったり、魔法石を嵌めることができる。


「では、こちらをおねがいします」

「かしこまりました。こちらはシンプルながら存在感があって、おすすめの一品でございます。他の髪飾りに添えても、これひとつでもお使いいただけますよ」


 販売員はにこにこしながら、その髪飾りを宝石箱にしまう。



 

 

次話以降、毎週土曜日の午後五時に更新予定です。

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