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お友達 1

 ダニエルに案内されたのは、サンルータ王国の宮殿にいつくかある中規模なダイニングホールのひとつだった。

 それほど広くはないが、高い天井のお陰でゆったりとした印象を受ける。メインダイニングホールでは人数に対して広すぎるので、ここが選ばれたのだろう。


 長いダイニングテーブルには二十人程着席できるようになっており、既に何人かの来賓の諸外国から来た王族が座っていた。歓談していた彼らは、主役であるダニエルが私をエスコートして登場したので、一斉に立ち上がった。


「まだ全員集まっていないので、どうぞ掛けて楽にしていて下さい。こちらはナジール国の第一王女、アナベル姫です」


 ダニエルが穏やかな笑みを浮かべ、彼らに座るように促す。同時にその場の皆さんに私を紹介したので、私はそれに合わせて「ナジール国の第一王女、アナベル=ナリア=ゴーデンハイムでございます」とご挨拶をした。


 下を向いた姿勢のままでも、周囲の視線が刺さるのが痛いほどわかる。主役であるダニエルがわざわざエスコートしたということは、婚約内定もしくは間近、少なくともどちらかがそれを望んでいると想像するのは自然だから、無理もない。


 あまりの居心地の悪さに身動ぎしたそのとき、「あらっ、あちらがアナベル様?」と鈴を転がすような可愛らしい声がして私は顔をあげた。


「わたくし、アナベル様にお会いできるのをとっても楽しみにしておりましたの。仲良くしてくださいませ」


 椅子から立ち上がるとにこにこしながら近づいてくる自分と同年代の女性を見て、私は言葉が出ないほどに衝撃を受けた。


 美しく結い上げられたのは艶やかな赤い髪。長い睫毛に縁取られた瞳はエメラルドを思わせる美しい緑。滑らかな白い肌は興奮からか少し上気し、ピンク色に色付いている。


 とても嬉しそうに笑顔を見せるその美女は──。


「ベル、こちらはニーグレン国のキャリーナ王女だよ。わたしと同じ歳だから、ベルとはひとつ違いだ。周辺国に気の置けない友人がいるのはとても心強いことだ。歳も近いし、仲良くするといい」


 先に到着していたお兄様も近づいてきて、私に笑顔を向ける。それに合わせるように、彼女ははにかんだ笑顔を見せた。


「キャリーナ=ニークヴィストですわ」


 ゆっくりと頭が下がり、完璧なカーテシーが披露された。

 一方、私は衝撃のあまり暫く動けなかった。この無垢な笑顔を見せる女性の名はキャリーナ=ニークヴィスト。ニーグレン国の第一王女だ。そう、かつての世界で私から全てを奪い去った、悪魔のような女。


 体の奥底から恐怖と共に、怒りが湧いてくるのを感じた。


 仲良くですって? あなたと仲良くだなんて、冗談じゃないわ。


「アナベル様?」


 険しい表情のまま一言も発しようとしない私に、キャリーナ王女は戸惑ったような表情を見せる。少し首を傾げ、助けを求めるように視線を彷徨わせるその仕草にすら苛立ちを感じてしまう。

 

「ベルはこれが初めての外交でだいぶ緊張しているんだ。この通り、カチカチになっているが悪気はない。どうか、仲良くしてやってくれ」


 お兄様が慌てたように私とキャリーナ王女の間に立ち、弁解を述べる。キャリーナ王女は「ああ」と納得したように声を上げた。


「緊張していらしたのね。わたくしも初めての外交の場では、心臓が止まってしまうのではないかと思うほど緊張したからわかるわ。きっと、すぐに慣れますわ」


 そのときのことを思い出したのか、キャリーナは納得したように二、三度首を縦に振るとにこりと微笑む。それに合わせるように、その場には和やかな雰囲気が広がった。


 ただ一人、私だけを除いて──。


「さあ、積もる話もあるが、皆集まってきたからそろそろ座ろうか。俺の隣が空いているから、アナベル姫はそこに座るとよい」


 ダニエルがやんわりと皆に着席を促す。

 私は大人しくそれに従った。


 ダニエルの隣というのははっきり言って不本意だったけれど、あの和やかな雰囲気の中でキャリーナ王女と向き合っているのはそれ以上に苦痛だった。


「どうぞ」


 ダニエル自らが椅子を引いて私に座ることを促す。まさか王子自らがそんな真似をするなんて思っていなかったので、私は驚くと共に恐縮した。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 にこりと微笑むダニエルにどう反応を返せばいいのかわからない。

 私は咄嗟にダニエルから目を逸らしてテーブルの装花を見つめた。視界の端に彼が手を掲げ食事開始の合図をするのが見え、次々と料理が運ばれてくる。


 目の前の皿に盛られた前菜の数々は、どれも宝石のように綺麗だ。 

 小さく切りわけて口に含むと、芳醇で豊かな味わいが口いっぱいに広がった。


「お口には合うかな?」


 もくもくと食べていると声を掛けられ、横を向くとダニエルがこちらを見つめていた。


「ええ、美味しいです」

「それはよかった。料理長にも伝えておこう。食事に夢中になるほど気に入ってくれたなら、彼らも本望だろう」


 私は自分の手元を見つめる。会話もせずに食べ続けているので、料理は殆どなくなっていた。視線を上げれば、少し離れた席に座るお兄様がキャリーナ王女と楽しげに会話をしているのが見えた。


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