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失くしもの 2

 

「どこなの?」


 呆然としたまま立ち尽くし、記憶を辿ってゆく。

 思い当たったのは今日の昼間に行った宝石店だった。あの店を出た際に、ポケットからハンカチを引っ張り出した。そのとき、一緒に飛び出て落としてしまったのだろうか。


 私はすぐに踵を返すと、昼間訪れた宝石店へと走った。さっきも確認しに行ったけれど、落ちていなかったことはわかっている。けれど、昼間あそこにはごみ拾いの子供達がいた。彼らに聞けばわかると思ったのだ。

 息を切らし、周囲を見渡す。このとき、名門グレール学園の制服姿のままでひとり立ち尽くす私は相当目立っていただろう。けれど、当の私はそれどころではなかった。


 きょろきょろと視線をさ迷わせると、二〇歳後半だろうか、昼間もいた若い男性二人組と目が合った。二人は建物の入り口に座り込んでおり、男性の一人は私と目が合うと、にこりと微笑んだ。


「レディ、こんな時間にどうされました?」


 親切そうな青年の登場に、私はほっと息を吐く。


「あの、探し物をしています。今日、ここの辺りで大切なものを落としたのです。昼間ごみ拾いをしている子供達を見たので、その方達に聞けばわかるかと思って。あなた方も昼間いらしたわよね? 見かけませんでしたか?」

「なるほど。こんな時間にお一人で探しに来るとは、それは大層高価なものなのでしょうね?」

「いいえ、高価ではないわ。魔法珠よ。大切な人の形見なの」


 男性二人は顔を見合わせると「ああ、なるほど」と言った。


 魔法珠は魔法の盛んなこの国ではよく見られるもので、それ自体に殆ど価値はない。なぜならば、それは贈られた人にしか加護の効果を与えないので、それ以外の人にとってはただの色つきのガラス玉同然なのだから。


「その子供達の居場所は知っているから、案内してあげましょう」

「本当ですか? ありがとう」


 親切な人達に出会えてよかった。二人が立ち上がって手招きしたので、私はその後ろを追いかける。しかし、少し歩いて私は立ち止まった。


「ここ……」


 二人が案内しようとしたのは、大通りを一本入った小路で、いつもオルセーから行ってはいけないと言われているところだった。

 私が付いていくことに迷っていると気付いた男性は、こちらを振り返ってにこりと笑った。


「どうしました? きちんと帰りもここまで案内するから大丈夫ですよ」

「あのっ、ありがとう」


 今は緊急事態だし、案内してくれる方がいるから大丈夫よね?

 私は自分にそう言い聞かせると、おずおずとその後に着いて行った。


 どれくらい歩いただろう。恐らく、時間にすれば五分程なのだけど、すっかり辺りは暗くなってきていた。先ほどまで沈みかかった陽の光を浴びて茜色に染まっていた建物の白壁は、今は灰色に変わっている。


「あとどれくらいかかるの?」

「もうすぐだよ」


 そうは言うものの、どんどん辺りは暗くなるし、さっきまでまばらにあった人通りはすっかりとなくなっていた。それに、建物も心なしかみすぼらしくなってきている気がする。


 ようやく男性達が一軒の家の前で立ち止まったとき、私はようやく到着したとホッと息を吐いた。


 階段を三段上がったところに木製のドアがあり、そこにドアノックの金具が付いていた。外壁に取り付けられた灯りとりのランタンの中で、チロチロと炎が揺らめいている。

 私を連れてきてくれた男性の一人がトントンとドアをノックすると、中から鍵が開けられる。


 そして、顔中皺だらけの、赤ら顔の中年男性が顔を出した。


「なんだよ。今日の営業時間はもう終わったぞ」

「そう言うな。いいのを連れてきた」


 ドアをノックした男性が顎で横を指す。赤ら顔の男は私の姿に気が付くと、驚いたように目を見開いた。


「この子はどうした?」

「大通りで拾った。この格好、確かいいとこの子供が通う学校の制服だろ? それにこの警戒心のなさは間違いなく温室育ちの貴族の娘だ。金になる」

「へえ。そりゃあ、よくやった」


 ぐへへっつと下品な笑い声。

 おかしいと感じるまでに時間はかからなかった。


(逃げないとっ!)


 そう感じた私は咄嗟に走り出す。


「おいっ、待て!」


 二人いたうちの一人がそう叫んだけれど、振り返らずに元来た道を必死に走った。既に日は沈み、しっかりとした灯りもない通りは暗闇に包まれていた。足元がよく見えず、つま先に衝撃を感じた次の瞬間、体が地面に叩きつけられる。小石に躓いたのだ。


「いたぞ。捕まえろ」

「俺に任せろ!」


 追いかけてきた先ほどの男二人組が私に手を伸ばしてきた瞬間、バチンと大きな音がして火花が散る。手を伸ばしてきた男は顔を顰め、手を引くとその手を庇うようにもう片手で覆った。


「こいつ、生意気に防御魔法使ってやがる」

「なんだと?」


 もうひとりの男も私に手を伸ばそうとしたが、再び火花が散って触れることはできなかった。



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