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剣術大会 3

 二人が兜を被り、闘技場の中で向き合う。勝負が始まる瞬間、闘技場の観客席まで緊張感が伝わり辺りはシーンと静まり返った。


「始め!」


 審判の合図と共に、一人が攻撃を仕掛ける。カキーンと高い音が響き渡った。赤い印の付いたプレートアーマーを着た学生──エドはそれを自分の剣で受け止めると、二人は押し合いながら睨み合った。そして、次の瞬間にはカン、カン、と激しい打ち合いを始める。


「凄い。いい勝負ね」


 オリーフィアの言葉に思わず頷く。実力が拮抗しているようで、どちらも引かない接戦だった。しかし、ふとした一瞬で勝負は分かれ目を迎えた。


「あっ、緩んだ!」


 カキンっという高い音と共に、会場の誰かが叫ぶ。今試合をしている選手の一人──青色の鎧の学生の剣を握る手が緩んだのだ。すかさずエドが剣を打ち込むと、カランと音を立てて剣が落ちる。


「止め! 勝負あり」


 審判が叫ぶと、あたりに「わぁっ!」と歓声が沸き起こる。勝負していた二人が固い握手を交わすと、歓声は一層大きくなり、盛大な拍手が湧き起こった。


「エドワール様、勝ったわ! 凄い! これでシャルル殿下とエドワール様とドウル様が三人揃って八強入りね」


 オリーフィアは興奮したように早口で話す。


「ええ、本当に凄いわ」


 私も興奮を必死に抑えながら、闘剣場を見つめた。

 ついこの間まで『剣は特別得意ではない』と言っていた人が、たった一年半でここまで強くなるなんて、一体誰が予想しただろう。どれ程の鍛錬を重ねてきたのだろうかと、その努力に頭が下がる思いだ。


 試合を終えたエドは兜を外すと、それを片手で持って辺りをぐるりと見渡した。何かを探すように観客席を眺めながらゆっくりと視線を移動させている。


「何か探しているのかしら?」

「さあ?」


 不思議に思って、じっとその様子を見守っていると、エドの視線がこちらへと向く。しばらく焦点が定まらないようにさ迷っていた赤い瞳がまっすぐにこちらを見つめ、表情が綻ぶ。そして、エドは空いている片手を上げ、嬉しそうに笑った。


「見て! エドワール様がこっちに手を振ったわ。エドワール様!」


 近くの女子生徒達が興奮したように叫ぶのが聞こえた。何人かの女子生徒が背筋をピンと伸ばして手を大きく振っている。きっと、エドと同じ八回生なのだろう。


(今、こっちを見た?)


 しっかりと視線が絡んだような気がしたのだけど、気のせいだろうか。


(もしかして、私のことを探してくれていたのかしら?)


 そんな自惚れた考えが浮かんで頬が紅潮するのを感じた。


 ◇ ◇ ◇


 結局、剣術大会の優勝はドウル様だった。

 最高学年の八回生であり、騎士の名門一族であるヴェリガード侯爵家の嫡男であるドウル様の優勝は、多くの人々にとって予想通りの展開だ。


 ちなみに、今回の大会で最も注目の的だった王太子であるお兄様は、二回戦でドウル様に敗れた。けれど、ドウル様が優勝したから自分の実力は学園内で二位くらいじゃないかと本人は言っている。あくまでも自己評価だけれどね。本当に負けず嫌いだ。


 そして、エドは決勝戦でドウル様に敗退した。

 ただ、負けたけれども本人はやりきったという気持ちが強いらしく、とても清々しい笑顔を見せていたのが印象的だった。


「今回の剣術大会は魔法が禁止だったけれど、魔法が許可されていればもしかしたら勝てたのでは?」と後日エドに尋ねると、

「それでもやはり負けていたと思いますよ。ドウルは本当に、圧倒的に強いですから。随分と俺を高く評価してくれているのですね。ありがとうございます」と本人は笑っていた。


「剣術大会ですが、王国騎士団の幹部が見に来ていたんです」

「ええ、そうね」

「実は試合後に『王国騎士団に来ないか』と言われたので、魔術にも興味があると伝えたら『魔法騎士団はどうか』と言われまして……」


 魔法実験室で二人でお喋りをしているときにエドが打ち明けた内容に、私は目を輝かせた。


 魔法騎士団!

 エドが前世で所属していたのも魔法騎士団だったわ。やっぱりエドは剣術大会でスカウトされていたのね!


「凄いじゃない。おめでとう、エド!」

「え? ああ……、ありがとうございます」

「魔法騎士団なんて、そうそう入隊できるものではないわ! さすがはエドね」


 私は自分の両手を胸の前でぎゅっと組む。

 魔法騎士団は剣術だけでなく魔術も優れた、特に優秀な一握りの人しかなることができない。何年もかけて入隊試験に挑む人も多いのに、向こうから請われて入団するなんて凄いわ!


「もちろん、そのお話は受けるのでしょう?」


 私は身を乗り出してエドに笑いかける。興奮していて、このときエドが少し戸惑ったような表情を見せたことには、気が付かなかった。


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