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転移の魔法陣 1

 青空の広がる、爽やかな朝。小枝には小鳥がとまり、可愛らしく鳴いている。そんな素敵な一日の始まりに、私は酷く慌てていた。


「ああ、どうしましょう!」


 どうしましょう、と言ったところでどうしようもない。時計を見ると、朝の会の時間まではあと十分しかない。なんてこと! 私は慌てて呑気にあくびを嚙み潰すお兄様に詰め寄った。


「お兄様! 急いでくださいませ!」

「え? うん。ベルは慌てた姿も可愛いね」

「うん、ではないでしょう。もうっ! そんな誉め言葉はいらないんだから、急いで!」


 私はお兄様に詰めより、左腕を引く。

 なぜ朝からこんなに焦っているか。それはずばり、学園に遅刻しそうなのだ。


 王宮からグレール学園までの馬車で十五分程かかる道のりを、私は毎朝お兄様と一緒に通学している。そろそろ出ないと間に合わないのに、お兄様ったら未だに呑気に朝のミルクティーを飲んでいるのだ。


「お兄様! 置いていくわよ?」

「え? 待てって」


 お兄様は腰に手を当てて頬を膨らませる私を見て慌てた様子だが、動きは相変わらず緩慢(かんまん)だ。この期に及んで朝食のブドウを口に放り込んでいたこと、きちんと気付いているんだから。


「最近、お昼休みにも剣の訓練を始めたせいで、毎日全身が筋肉痛なんだよ」

「治癒魔法をかければいいじゃない」

「いやいや。この痛みが、頑張った証で心地よいのだよ」


 お兄様は右腕を摩って得意げに笑う。


 そいうものかしら? ちょっと、その気持ちはよくわからないわ。

 今はそんなことよりも、急いでもらえないかしら? このままでは、私まで遅刻してしまうわ。


 お兄様はそんな私の心の声を悟ったのか、肩を竦めてようやく立ち上がると、のろのろと歩き出した。


「お兄様? どちらへ?」


 やっと歩き出したと思ったら今度は馬車乗り場とは反対後方に歩き始めたお兄様を見て、私は慌てて呼び止めた。寄り道している暇はなくてよ?

 こちらを振り返ったお兄様はニヤリと口の端を上げる。


「まあ、お兄様を信じてついておいで」


 意味ありげな表情に戸惑いながらも、その後をついてゆく。案内されたのは、お兄様の私室だった。


「呆れたわ。また寝る気なの?」

「あのな、ベル。お前はお兄様をなんだと思っている」


 なんだと思っているって、お兄様はお兄様だわ。この国の王太子で、ついこの間十五歳になったばかりなのにとっても優秀。だけど、時々抜けているの。今はきっと、抜けているときね。


 お兄様は大袈裟に嘆息すると、部屋を真っすぐに突っ切ってクローゼットを開けた。


 まさかのこの時間がないときに朝のファッションショーを始めるつもりなのかと呆れて眺めていると、お兄様はたくさんのワードローブを掻き分けて空間を作った。奥に見える木の壁に手を(かざ)し何かを呟く。その次の瞬間、そこにあったはずの木の壁は忽然と姿を消していた。


「え?」


 まじまじと先ほど壁があったはずの場所を見つめたが、何もない。


「お兄様のクローゼット、こんなに広いの? 私のものと全然違うわ。ずるい」


 思わずそんな言葉が漏れる。

 だって、お兄様のクローゼットの奥には広い空間が広がっていたのだ。


 私のクローゼットの奥の木の壁も消えるのかしら?

 けど、そうだとしても私は魔法を使えないから消しようがないわ。幅をとるドレスを着る私が普通のクローゼットで、お兄様がこんな広いだなんて、普通は逆だと思うのだけど? 


 口を尖らせる私を見つめ、お兄様は苦笑しながらこちらに手を差し出す。その手を取っておずおずと中に入ると、そこは三メートル四方の石造りの空間だった。


 そして、目の前の光景を目にして私は息を呑んだ。


「これは……魔法陣ね?」

「そう。転移の魔法陣だ。色々な場所と王宮を繋いでいる」

「……すごい」


 壁と同様の石でできた床には直径二メートルほどの白い円陣が描かれ、周囲には魔法で使用する古代文字がびっしりと書かれている。



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