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十三歳の誕生日 1

 その日、いつものように朝目覚めると枕もとのサイドボードにはとても美しくダリアが飾り付けられていた。


「おはようございます、アナベル様」

「おはよう、エリー。今日は朝からとても綺麗に花を飾り付けたのね」


 エリーは私の顔を見ると、意味ありげに笑う。どうしたのだろうと、私はエリーを見返した。


「アナベル様はこの花がお好きでしょう? お誕生日おめでとうございます、アナベル様。十三歳ですわね」

「へ?」


 私はきょとんとしてエリーを見返す。


 お誕生日おめでとう? 十三歳?


 頭の中を整理して、驚愕の事実を思い出す。

 そうよ、何を隠そう、今日は私の十三歳の誕生日だったのだ。時間逆行して年齢の感覚が狂ってしまったこともあり、すっかりと忘れていた。


「──ありがとう、すっかり忘れていたわ」

「あら。忘れないで下さいませ。何よりもおめでたい日でございます」


 エリーはにっこりと微笑むと、エプロンのポケットから小さな箱を取り出した。


「わたくしからでございます」

「え? わたくしに? 何かしら?」


 私はおずおずとその差し出された箱を受け取った。ベッドの上に座ったまま箱を開けると、中から出てきたのは可愛らしいペンケースだ。

 水色のペンケースは布製で、白い文鳥が小枝に留まっている様子が丁寧に刺繡されていた。きっと、エリーが仕事の合間を縫って作ってくれたのだろう。


「アナベル様は学園に通い始めてからのこの一年近く、とても楽しそうにしていらっしゃいました。学園でも使える物がよいかと思いましたの」

「可愛いわ! ありがとう、大切にするわ」

「どういたしまして。気に入って下さったのなら、とても嬉しく思いますわ」


 エリーはにっこりと微笑む。

 前の世界でも、十三歳の誕生日にエリーからプレゼントを貰っただろうか? 毎年何かしらを貰っていたような気がするけれど、よく覚えていない。少なくとも、ペンケースではなかったわ。


 当たり前だけれど、こんなところでも、今の世界は前の世界とは違うのだと感じられた。

 大丈夫。この未来はきっと変えられる。

 ペンケースからはそんな勇気を貰えた。


 朝食の席では家族からお祝いを言われ、誕生日プレゼントにと銀細工で美しい彫刻の彫られた手鏡を手渡された。子供が使うようなおもちゃではなく、本物の銀細工の手鏡だ。


「わあ、素敵ね」


 貰った瞬間、感激でため息が漏れた。十三歳の誕生日らしく少し大人びた贈り物に、私の心は踊る。それはお母様の選択だったようで、嬉しそうにする私を見てお父様とお母様は目を合わせて満足げに微笑んだ。


「ベル、これを」

「何かしら?」


 お兄様からは両親とは別に包みを貰い、開けてみると大きなリボンが入っていた。これは少し子供っぽい気がするけれど、それでも誰かが自分のためにプレゼントをしてくれるのは嬉しいものだ。


「ありがとう、お兄様。今日、学園に付けていくわ」


 私がそれをハーフアップにした髪に結ぶと、お兄様は嬉しそうに笑い、両親は表情を綻ばせる。それはとても素敵な誕生日の始まりだった。


「おはよう、ベル! お誕生日おめでとう!」


 学園に着くと、教室のドアを開けた途端に笑顔のオリーフィアが走り寄ってきた。私は正直面をくらった。

 だって、王太子であるお兄様は誕生したときに国を上げて盛大にお祝いされるので国民の殆どが誕生日を知っている。けれど、王女である私についてはそれほどでもない。だから、知っているのはごく少数──家族と仕えている侍女くらいだと思っていたのだ。


「ありがとう」

「はい、これ。プレゼントよ」


 オリーフィアは小さな包みを私に差し出す。ピンク色の巾着袋で、上部は赤いリボンで結ばれていた。


「何かしら?」


 ワクワクしながらリボンを解き、中を覗く。そこには、可愛らしい小物入れが入っていた。黄緑色の小鳥が刺繡糸とビーズで美しく縫われており、私は見覚えのあるそれに目を瞬かせる。


「これ、もしかして……」

「そう。そのもしかして、よ! ベルがずっと見ていたから、後日こっそり購入したの!」

「まあ! ありがとう!!」


 私は感激で口を覆う。

 プレゼントされた小物入れは、先日オリーフィアと街歩きをした際に私が買おうかどうか悩んだものだった。

 さんざん悩んだ挙句に止めておいたのだけど、後日やっぱり欲しくなって城のものを使いに出したときはときすでに遅く、その商品はなくなっていた。まさか、オリーフィアが買っていたなんて!


「凄く嬉しいわ。本当にありがとう」

「どういたしまして。喜んでくれてよかった」


 オリーフィアはとっておきのサプライズが大成功したことに満足げに笑う。その後、クロードからは外国の伝統工芸だという、紙のように薄い木版に模様を刻印したしおりをプレゼントされた。





 その日の放課後、馬車乗り場に向かっていた私は背後から「姫様」と呼びかけられて立ち止まった。振り返ると、案の定、そこにはエドがいた。


「もうお帰りですか?」

「ええ。今日は、誕生日祝いをしてもらうから早く帰るの」

「誕生日祝い?」

「ええ、そうよ。お父様とお母様とお兄様がお祝いしてくれるって」


 話しながらも嬉しさが込み上げてきて、自然と笑みが漏れる。前世では誕生日にお祝いされるなど、当たり前のことだと思っていた。けれど、今はそれがどんなにありがたく、幸せなことかよくわかる。


 一方、エドは私の話を聞きながら表情をなくした。


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