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【英訳出版】囚われた王女は二度、幸せな夢を見る【書籍化・コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
第一部 第一章 学園編

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魔法珠を渡すのは 1

 魔法を使うには、魔力を放出させる必要がある。それはいかなる場合も例外はなく、魔力が放出できないことは即ち魔法が使えないことを意味するのだ。


「ああ、今日もやっぱり駄目だわ……」

「そう気落ちしないで下さい。魔法陣を描く技術は格段に伸びましたよ」

「魔法陣って、魔力を込めなきゃ発動しないわよね?」

「まあ、それはそうですね」

「じゃあ、どんなに上手に魔法陣を描いたって、自分では使えないってことじゃない?」

「うーん……」


 エドが歯切れ悪そうに苦笑いする。

 やっぱり、思った通りだわ。上手に魔法陣を描いたって、私は魔力を込めることができないので発動できないのだ。


 ぷうっと頬を膨らませた私を見て、エドは困ったように眉尻を下げ、手を伸ばしてきた。

 大人しくしていると、そっと頭と髪を撫でられる感覚がする。きっとこれは、普段からエドが不機嫌になった妹の機嫌をとるためにやっていることなのだろう。


 三カ月ほど前に私の魔術の先生役を引き受けたエドは、約束通り週に二回程度、私に魔術について教えてくれる。けれど、私は未だに魔力解放できずにいる。魔力解放できないので、今も魔法は使えずじまいだ。

 けれど、魔法の呪文を覚えたり魔法陣を描くのに魔力の有無は関係がないので、自分では使えもしない魔法の呪文の詠唱と、魔法陣を描くことに関してはどんどん上達している。


 ちなみに前世でも使えもしない魔法の呪文は完璧に覚えていたわ。だから、魔力解放した直後から魔法を使うことができたってわけよ。


「ねえ、エド」

「なんですか、姫様」


 顔を上げてエドを見上げると、ゆっくりと這わせていた手が止まる。


「魔力を込めずに使える魔法陣ってないの?」

「魔力を込めずに? 今のところは聞いたことがありませんね」

「そう」


 私はエドから目を逸らすと、頬杖をついて自分の描いた魔法陣を見つめた。完璧に敷かれた陣だけれども、私には使うことができない。魔法が上手く使いこなせなくても、せめて魔法陣くらい使いこなせるようになれないだろうかと思ったのだけれど、無理なようだ。


 丸い円形が何個も組み合わさり、複雑な古代文字が描かれた魔法陣を見つめていたらふとした疑問が湧いた。


「ねえ、エド」

「なんですか、姫様」

「魔力の拘束首輪をしていると、魔力は放出できないわよね?」

「魔力の拘束首輪?」


 エドの声が訝しげなものに変わる。私は慌てて口を塞いだ。


 魔力の拘束首輪は、嵌められた対象者の魔力放出を阻止するための魔道具だ。全ての魔法を使う者達にとって、魔力の拘束首輪を嵌められることは人権を貶めるような屈辱的な行為だ。


 だから使用することはおろか、作成自体も厳しく制限されている。今使用されているとすれば、違法な奴隷商人が魔法使いを奴隷として扱う場合くらいなものだ。


 そしてもう一つ有り得るとすれば──、牢獄の魔法壁や周囲の警備を破るほど強力な魔術を駆使する魔法使いを投獄する場合だ。

 前世で私と一緒に投獄されていたエドは、首に黒い魔力の拘束首輪を嵌められていた。


「ごめんなさい、驚いたわよね。……ただ、もしも魔力を込めずに使用できる魔法陣があれば、全ての人々に魔法の門扉(もんぴ)を開くことになって素敵だなって思ったのよ」


 私は口早に言い訳を並べる。言い訳と言うか、これは本当に思っていることよ。もしも魔力を込めずに発動できる魔法陣があれば、全ての人々にとってどんなに便利な世界になるだろう。


 それに、私はこの世界で再び魔法の勉強を始めてからずっと気になっていることがあるのだ。


 前世で私と同様に投獄されたエドは、間違いなく魔力の拘束首輪を嵌められていた。けれど、なんらかの方法──恐らく魔法を使って私をこの十二歳の世界へと送り込んだのだ。ということは、魔力を放出せずに魔法を使う(すべ)を、あのときのエドは得ていた。


「全ての人々に……」


 エドは考え込むように腕を組む。


「確かにそういう魔法陣があれば、魔法は魔力がある人間だけが使えるというこれまでの常識が変わるかもしれませんね」


 エドはそこまで言うと、こちらを見つめてにこりと笑った。赤い瞳が細まり、柔らかな印象になる。



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