表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【英訳出版】囚われた王女は二度、幸せな夢を見る【書籍化・コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
第二部 第一章 王女の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/127

見知らぬ町_エド視点(1)

 頭が割れるように痛い。体は鉛のように重く、そこら中が痛い。


「うっ……」


 苦痛から思わず声が漏れる。

 薄らと目を開けると、青空が見えた。


(ここはどこだ?)


 地下牢では決して見ることができなかった青空。何事かと驚いた俺は、痛む体をなんとか起こし、周囲を見回す。


 そこは、路地のようだった。幅一メートルもないような道の左右は建物の壁で塞がっている。数十メートル先で大通りに面しているようで、前方に行き交う人々が見えた。


(町か……?)


 一体どういうことかと呆然とした。


(俺は死んだはずなのに──)


 そう。サンルータ国の兵士にひどい拷問を受けて、俺は死んだはずなのだ。




 俺には前世の記憶があった。こことは違う世界で、エドワール・リヒト・ラプラシュリとして生きた記憶が。


 前世の姫様は、俺の恋人であり、最愛の妻だった。そして彼女は時折、自分はどこか別の時空の世界から転移してきたと話した。その世界をどうしても見てみたかった俺は、前世で自分の死後に姫様と逆行するようにこの世界に転移する魔法を構築したのだ。


 そうしてやって来たのが、この世界だ。


 この世界は、前の世界と似ているようで全く違う。

 姫様に俺と過ごした記憶はなく、学園にも通っていなかった。近づこうにもなかなか接触できる機会もなく、距離を縮められない。それでもなんとか彼女に近づきたくて、近衛魔法騎士になった。


 だが、そんな努力もむなしく、姫様はサンルータ国王のダニエルに嫁ぐことになった。


 この世界でも当然のように姫様と幸せな結婚生活を送れると信じていた俺は当時、やるせない気持ちになった。きっと、俺は転移する魔法に失敗して、目的とした世界とは違う世界に来てしまったのだろう。


 これからどうするべきかと散々悩み、たとえ姫様が異国に嫁ごうとも彼女の傍にいることを決意した。輿入れする姫様の護衛になることを自ら志願し、将来が約束された魔法騎士の座を捨てたのだ。


 姫様は俺の全てだ。前世の妻であり、今も変わらぬ最愛の人。そばで彼女を守り続けることができるならば、金も地位も惜しくはない。


 姫様がダニエルによって投獄されたとき、護衛騎士になり彼女の結婚生活を見守ろうとした自分の判断を心底後悔した。こんなことになるなら、なぜ姫様を攫ってでも自分のものにしなかったのだろうと。

 牢獄の中で自分の死を悟ったとき、俺は最後に力を振り絞って自分の命と引き換えに彼女を自分の元いた世界に送った。俺の記憶の中にいるあの世界の姫様は、とても幸せそうに笑っていたから。


 あの術を使うには、俺の全ての魔力を使う必要がある。そして、魔力が空っぽになると待っているのは死だ。だから、間違いなく俺は死んだはずなのだ。


(なぜだ?)


 俺は自分の両手を見つめる。薄汚れているが、血の通った肌色をしている。


(まるで、誰かが俺に加護をかけたような──)


 思い返せば、これまでも不思議なことは度々あった。


 サンルータ国の兵士達にはこれでもかという位痛めつけられたが、なかなか死ぬことはなかった。

 もう死ぬかもしれない覚悟しても、奇妙なことに致命傷には至らず、翌日には回復していたのだ。殴られて肋骨や歯が折れたことは一度や二度ではないが、それもすぐに治癒した。


 だが、なぜそんなことが起きたのか心当たりがない。


 ふと、路地沿いの建物の窓ガラスに映った自分の姿が目に入る。ボロ布を纏っただけのみすぼらしい服に、首には拘束首輪が嵌まったままだ。ボサボサの髪は肩のあたりまで伸びており、髪の合間から赤い瞳が覗いていた。


「ひどい姿だ」


 自嘲気味に髪をかき上げる。そのとき、耳元にピアスが嵌っているのが見えて、はっとした。


「ピアス……もしかして」


 このピアスは、前の世界で姫様から婚約の印として贈られた魔法珠だ。


『防御術なのだけど、エドがひどい目に遭っても助かるようにって』


 これを俺に贈る際、姫様ははにかみながらそう言った。


『一生、術が発動しないことがちばん良いのだけれど……』


 一言一句が、まるで昨日聞いたことのように甦る。


(まさか、俺が助かったのは姫様の力?)


 あの世界の姫様は俺がこの世界から魔法で転移させた。だから、あの世界の姫様はこの世界の記憶があったはずだ。

 一方、姫様からこれをもらった当時の俺は、この世界を体験する前で当然記憶もなかった。だから、なぜ姫様があんな加護を付与したのかわからず、不思議に思ったのをよく覚えている。


「はっ、はは……っ」


 乾いた笑いが漏れる。ようやく、何がどうなっていたのかを理解した。

 前の世界の姫様は、この世界の記憶を持つ姫様で間違いない。そして、この世界の俺は前の世界の記憶を持つ。

 ふたりが交差するように二つの世界を跨いだのだから、お互い記憶があるわけがない。


(姫様は、俺が拷問で死ぬのを恐れていたのか……)


 姫様はあの世界でも悲劇がおきるのを恐れていたのだ。

 だから必死に国際関係の勉強をして三国の関係強化に尽力していたし、魔法が使えるようになるよう努力していた。


 ぎゅっと拳を握りしめる。

 ずっと俺が姫様を守っていると思っていたが、自分も姫様に守られていたことを知りなんとも言えない気持ちになった。


 俺は耳についたピアスを外すと手のひらに載せる。


「白いな」


 元々は姫様の瞳と同じ緑色だった魔法石は、今は真っ白になっていた。

 これは中の魔力が放出されたこと、つまり、この魔法珠にかけた加護が発動されたことを意味している。もはや、自分が生きているのは姫様のおかげと考えて間違えがないだろう。


「……姫様。ありがとうございます」


 俺は手のひらに載せている魔法珠を握りしめる。


 姫様はもうこの世界にはいない。俺が別の世界に送ったのだから。

 それでも、この魔法珠を見ていると、姫様が近くにいるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「囚われた王女は二度、幸せな夢を見る」央川みはら先生によるコミカライズ好評連載中
リンク画像
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ