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【英訳出版】囚われた王女は二度、幸せな夢を見る【書籍化・コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
第二部 第一章 王女の帰還

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再び一度目の人生へ(8)

 隣町には、荷馬車に乗って四時間ほどで到着した。町全体が賑わっており、大通りは多くの商店や出店でひしめき合っている。移動中も私は何回か探索魔法でエドの気配を探したけれど、その痕跡を見いだすことはできなかった。


 大通りの一角に馬車を止めると、ベニートは持参した敷物を広げる。そしてその上に持ってきた商品──干し肉や野菜、糸紡ぎして作った敷物、そしてリマの毛皮などを広げてゆく。


 人気があるのか、商品が並べ終わったらすぐに多くの人が買い求めに来た。


「エリー。村の人達から頼まれたものを忘れないうちに買い求めたいから、店番を頼んでいいか?」


 ベニートは買い物リストをぴらっと指で摘まんで見せる。メモにはぎっしりと品物が書いてある。村中の人から頼まれるので、これを買うだけでも一苦労だろう。


「わかったわ」


 店番を引き受けた私は、あまり目立たないように日よけ代わりのショールを頭から被ると商品の前に座る。

 何人か目にやってきたのは赤毛の髪が印象的な少女だった。


「これ、ください」


 年齢は私より三、四歳下の十代半ばに見える。指さしているのは、村で作った織物のミニバッグだ。


「青銅貨五枚よ」


 少女は私の返事を聞き、財布を出そうと手に持っていた竹籠のバックを商品の置かれた台に置く。その竹籠の中に入っている物を見て、思わず「あっ」と声を上げる。


「あ、商品棚にバッグを置いてごめんなさい」


 少女は自分がバッグを置いたことを咎められたのだと思ったようで、慌ててそれを手に持とうとする。


「いいえ、いいの。それより、中に入っているものが見えて驚いたの」

「中に入っているもの?」


 少女はきょとんとした表情で私を見返す。


「その白い小物入れ、どこで買ったの?」

「白い小物入れ? これのこと?」


 少女は竹籠のバッグから、ちいさな小物入れを取り出した。真っ白の小箱で、蓋には貝殻を組み合わせた装飾が施されている。それは、二度目の人生でニーグレン国に行った際に帰りに立ち寄ったシスイの特産品に見えた。


「これはあっちにあった商店でたくさん売っていたわよ」


 少女が大通りの向こうを指さす。


(たくさん売っていた? シスイに出入りしている商人がいるのかしら?)


 シスイはニーグレン国とナジール国の国境付近に位置している町で、別名『水の都』と呼ばれている。

 サンルータ王国とアリスタ国、そしてナジール国の三国の国境はバレイ山脈という山脈に隔てられているが、その山脈からはムール川という川がナジール国に向かって流れていた。そのムール側の最下流に位置するのがシスイであり、町の中に水路が張り巡らされているのだ。


 お金と交換で少女に商品を渡す。


「ありがとう」


 少女は嬉しそうにそれを受け取ると、別の店を覗きに行く。その後ろ姿を見送りながら、私は考えた。

 先ほど見た小箱はナジール国のシスイという町の特産品だけれども、シスイはニーグレン国との国境に近いのでニーグレン国で買ったのかもしれない。けれど、見に行く価値はある。


(あとで見に行ってみよう)


 そう決心したところで、「エリー」と声をかけられる。


「留守番させて悪かったな。助かったよ」


 買い物から戻ってきたベニートは両手にいっぱいの荷物を抱えていた。村の人たちから頼まれたものは衣料品から紙製品などの生活雑貨まで多岐にわたっていた。


「どういたしまして。お野菜が何点かと、ミニバッグが売れたわ」


 そう言いながら、ベニートに売上金を手渡す。そのとき、店の前にひと際身なりのいい中年の男がやってきた。

 きちんとしつらえているスーツを着ているところから察するに、貴族の従者、使用人、もしくは羽振りのいい実業家あたりだろう。男はリマの毛皮をじっと見つめ、感触を確かめるように優しく触れる。


「これはおいくらですか?」

「ああ、これは銅貨──」 

「金貨五枚です」


 ベニートが言うのを遮り、答える。リマを銅貨で売るなんて考えられない。相場の100分の1以下だ。金貨五枚でもだいぶお得なはずだ。


「おいおい、エリー」


 ベニートは目を丸くする。


「金貨五枚ですか。それは掘り出し物を見つけました。いただいても?」

「えっ?」


 驚くベニートを尻目に、私は「ありがとうございます」と言ってリマの毛皮を差し出す。男はそれを受け取ると、金貨五枚を私の手のひらに載せた。


「リマを定期的に売ってもらうことは可能かい?」


 男に問いかけられ、私はちらりとベニートを見る。ベニートはハッとしたような顔をした。


「可能です! 月に四、五匹は持ってこれるかと」

「すばらしいな。では、私と専属卸し契約をしないか? リマを一匹持ち込むたびに、金貨五枚を支払おう」


 ベニートの喉がごくりと隆起する。


「まじかよ……」


 小さな呟きが聞こえた。

 金貨五枚。村の人々が一生かけて稼ぐ金額に匹敵する。二束三文だと思っていた獣の毛皮がそんな額になるとは夢にも思っていなかっただろう。


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