(書籍化御礼SS) エドの誕生日
昼下がりの王宮。
私室のソファーに座った私は、真剣に悩んでいた。今度のエドの誕生日に、何をあげればいいのかちっとも思いつかないのだ。
(あまり目立つものだと、どうしてアナベル王女が? ってまわりから不審に思われるわよね。でも、ありきたりなものもつまらないし)
エドと私は両想いだけれど、今はまだ秘密の関係だ。
だから、不自然に思われるようなものを贈るのは避けたほうがいいだろう。
ただその一方で、両想いになって初めて迎えるエドの誕生日なのだから
思い出になるものを贈りたいと思った。
「うーん」
なかなかいいアイデアが浮かばない。気分でも変えようと、私はつい先日発売されたばかりの本を読むことにした。
◇ ◇ ◇
エドの誕生日当日は、彼が魔法の授業で王宮に来てくれる日だった。
講義を終えてほっと一息つくと、タイミングを見計らったようにエリーがティーセットの用意をしてくれる。それと一緒に出されたのはクッキーだ。
「どうぞ」
紅茶を淹れてエドに差し出すと、彼は「ありがとうございます」と言ってそれを受け取り、口に運ぶ。
「姫様の淹れてくださった紅茶はいつも美味しいですね」
「そう?」
私は首を傾げる。紅茶を淹れる基本は備わっていると思うけれど、特に上手かと言われるとそうでもないと思う。
私が考えていることを悟ったのか、エドは口元に笑みを浮かべた。
「姫様が淹れてくださったから、美味しいのですよ。どんなお茶の先生でも、姫様が俺のために淹れてくださった紅茶には敵いません」
「そっか……」
自分を特別扱いしてくれるその気持ちが嬉しくて、胸がこそばゆい。
「エド。今日は誕生日でしょう? お誕生日おめでとう」
「覚えていてくださったのですね。ありがとうございます」
「当たり前じゃない。エドがこの世に生まれてきてくれた素晴らしい日よ? 忘れないわ」
私の返事を聞いたエドはびっくりしたような顔をして、続いて破顔する。
「そうですね。生まれてきたから、こうして姫様と会えてともに時間を過ごしている。素晴らしい奇跡です」
「うん」
こんな風に穏やかな時間を過ごしていることが奇跡のように幸せなことであることを、私はよく知っている。
だからこそ、この時間を大切にしたいと思う。
「あのね、エドにプレゼントを用意したの」
「俺に?」
「これ」
おずおずとラッピングされた小さな包みを取り出すと、エドに手渡す。
「開けてみても?」
「もちろんよ」
エドは包んである紙を破らないように丁寧に開くと、中から出てきた箱を開ける。
「これは、ペンですね」
「うん。せっかくプレゼントするならエドにいつも使ってもらいたいけれど、わたくし達の関係は秘密だから目立つものはダメでしょう? ペンなら大丈夫かなと思ったの」
私がエドに選んだのは、高級万年筆だ。インクが詰まりにくく滑らかな描き心地だと、王都では評判の品だった。
「ありがとうございます。早速使わせていただきますね」
エドは嬉しそうに笑う。
「実は……わたくしもお揃いで買ったの」
「姫様も?」
「うん。先日読んだ本で、恋人たちがお揃いの物を常に持ち歩くシーンがあって、素敵だなと思って──」
私はおずおずと打ち明ける。
小説の中では、ふたりはお揃いの指輪を付けていた。さすがに指輪は気付かれるかと思い、いつも持ち歩いていて不自然ではないペンにしてみたのだ。
(小説の真似をするなんて、子供っぽいと思われてしまったかしら?)
そんな不安を抱く私に対し、エドは「姫様の物も見てみても?」と言った。
私は机にしまっていた箱を取り出し、エドに手渡す。エドの万年筆が黒色に金のペン先であるのに対し、私の万年筆は赤色に金のペン先だった。
実は、小説の中のふたりはお互いの指輪にそれぞれの瞳の色の宝石を嵌めていた。それを真似して金のペン先と赤のボディにしたのだけれど、それは恥ずかしいから言わないでおこうと思う。
「とてもいいですね」
「本当? 気に入ってくれた?」
「もちろん。仕事中、ペンを見るたびに姫様のことを近くに感じられます」
「じゃあ、わたくしもペンを使うたびにエドのことを思い出すわ」
私たちはお互いに顔を見合わせ、どちらともなくふふっと笑いあう。
「小説の真似をするなんて、姫様は可愛らしいですね」
「子供っぽいと思った?」
「まさか。世界一愛らしくて、大切にしたい存在だと再認識しました」
エドの秀麗な顔が近づき、唇が重なる。
「素敵な誕生日プレゼント、ありがとうございます」
「どういたしまして」
私ははにかむ。
エドの嬉しそうな顔が見られたから、私まで嬉しくなった。
「エド。これからも研究頑張ってね」
「もちろんです」
安心させるように、エドは私の頭を撫でる。
それだけで、私はとても幸せな気持ちになる。
いつかエドが魔法爵を賜ることができたら、そのときは「わたくしの好きな人はこの人なんです」と声を大にして皆に紹介したいと思った。
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